2008年02月25日

三屋清左衛門残日録 藤沢周平

テレビドラマの超有名ご隠居は全国行脚で事件を解決していったが、こちらのご隠居さんは元用人で身近な人間の頼みごとなどを引き受けてるうちにいつの間にか藩の重大事に関わってしまうことになる。身近な事件一つ一つが短篇となっているが、その中に大きな事件の展開を描きこんでいく手法はこの著者の作品によくみられる。
藩の重大事に関わることになるとはいえ、若い主人公のように華々しい活躍をするものでもなく、むしろ1つ1つの短篇に描かれてる出来事から清左衛門が老いるということはどんなことなのか、そして昔気にかかっていたことに対しての清算したいといった感情、そういったことが丁寧に描かれていた。
超有名ご隠居さんの全国誅悪行脚もいいけれど、この作品の、老境に至り残された日々を過す、というイメージ、これもまた捨てがたい味わいである。
三屋清左衛門残日録 (文春文庫)
三屋清左衛門残日録 (文春文庫)藤沢 周平

文藝春秋 1992-09
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おすすめ平均 star
star老境を赤裸々に描いて新境地を開いた秀作
star30代で読んでみました
star『人生後半に読むべき本』の推薦本

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タグ:隠居 時代物
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2008年02月21日

声の網 星新一

通称メロンマンションは1Fが店舗になっており、2F〜12Fは居住区となってる。そのマンションに起こった奇妙な電話に関する12の短篇集。またこれはその短篇の一つ一つが「声の網」という小説の章のような構成にもなってる。
星新一はショートショートに代表される寓話的なSFを次々と生み出してきた作家である。この「声の網」も30年以上前にも書かれた作品でありながら、やはり現在でも通用するような社会の姿を鋭くついている。この作品でいえば個人のいろんな情報が集まり、また個人へ流れていくという形が今のインターネットを彷彿させる。そのことだけでも予言的だなあ、と思うのだが、さらに著者はその先に本領を発揮するような結末を用意している。全くのディストピアではないけれども、ユートピアといえるのか、これは?といった感じだ。
声の網 (角川文庫)
声の網 (角川文庫)星 新一

角川書店 2006-01-25
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おすすめ平均 star
starぜひ読んでみてください
star30年以上前の作品が復刊。
star12人の人に対する短編集

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タグ:SF
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2008年02月19日

密謀(上)(下) 藤沢周平

東国の雄、上杉に仕える直江兼続は智謀の将として聞こえる人物である。世は秀吉が全国統一を為しつつある時代であった。上杉は謙信以来の誇りを持って領地を治めようとはしていたのだが、秀吉は景勝に上洛を求めてくる。
戦国大名として国を治める視点ではなく、より大きな権力が生まれつつあるときに、その権力といかに渡り合って自分の国を守ってゆくか、ということに主眼が置かれている。それは同時に、第三者から見た秀吉、家康という権力者の姿を映し出すことになった。この視点は藤沢周平の時代物によく出てくる武士の立場とだぶる。
ここに描かれていた秀吉の成り上がり精神からくる権力顕示欲や家康の狡猾な面は他のテレビドラマや前に読んだことのある歴史小説などでもおなじみであるのだが、石田三成については兼続との交流が描かれていたせいか、政治的な興味が大きすぎるゆえ自らを飾ることを知らず、誤解されて孤立する人物という風に描かれており、今まで持っていた冷たいイメージとはまた違った印象をもった。このあたりは藤沢周平らしい描き方だと思う。
密謀 (上巻) (新潮文庫)
密謀 (上巻) (新潮文庫)藤沢 周平

新潮社 1985-09
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star関ヶ原 敗者の視点
star藤沢の描く戦国時代
star上巻の主人公

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密謀 (下) (新潮文庫 (ふ-11-13))
密謀 (下) (新潮文庫 (ふ-11-13))藤沢 周平

新潮社 1985-09
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star時代とは。

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タグ:歴史小説
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2008年02月18日

文章読本さん江 斎藤美奈子

文章読本と分類される本はあまりというか全然読んだことがない。別に物書きを目ざしてるわけでもなかったので興味がなかったのだ。
しかし、単なる文章指南書だと思ってた文章読本が実は文筆業界において「ワシの説」開示場であるという「はじめに」での指摘にその後展開される批評の中身を想像してわくわくしながら読みはじめた。
果たして、期待は裏切られず、文章読本の御三家と新御三家を選びその内容について吟味、また多種多数の本を読み込んで分析したところでは文章というものにヒエラルキーが存在してること、それが権威主義(商品としての文章と素人の文章)を軸にしてること、そういったバイアスが書き手の中に多く存在してることなどを鋭く批評している。
そして、そうなった原因はどの辺にあるのか、答えを求めて明治からの作文教育の歴史にまで言及する。
その歴史を書いた部分が実に面白い。文章はどう書くべきなのかということは時代によって変わり、書かれた文章読本もその時代に影響されずにはいられなかったのだ。従って、話をまた主な文章読本に戻し、なぜこのような主張を著者はしたのかという推測にまで話は及ぶ。
まあ、最後は尻つぼみな結論といえなくもないが、それよりも膨大な資料をこなしてそこから得られた考察が面白すぎなのでそのあたりを堪能するのがいいと思う。
文章読本さん江 (ちくま文庫 さ 13-4)
文章読本さん江 (ちくま文庫 さ 13-4)斎藤 美奈子

筑摩書房 2007-12-10
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おすすめ平均 star
star斎藤美奈子さん江。自ら文章読本を書いてみる気はありませんか?
star快著は快著だが:竜頭蛇尾プラス蛇尾

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タグ:評論
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2008年02月16日

ダンシング・ヴァニティと夢の木坂分岐点

この間、「ダンシング・ヴァニティ」の感想文を書いたのだが、その後拾い読みしながらどこかで見たような気がずっとしてたのだ。その「どこかで見たような」という中身が漠然としていてこれはどういうことなんだろうと、考えていた。
そして、はっと気が付いたのは
「これは『夢の木坂分岐点』の進化形態なんじゃないだろうか」ということだった。
『夢の木坂分岐点』は筒井康隆が1987年に出した作品である。これは一人のサラリーマンの夢と現実を交互に描写しているのだが、話が進むにつれて同じような場面に名前が少しづつ変わった主人公が登場し、やがてその境界が薄れてきて、読み手は主人公のすべてを含めた内世界そのものへと誘われてゆく小説である。
従って読み進めていくうちにだんだんと深い場所へ沈んでいくような感じになる、いわば意識の底への探求的な話だったのに対して、20年後に書かれた『ダンシング・ヴァニティ』では同じように反復する場面を描きながらも、それは意識へ浮かんでくるものを徹底的に捕捉しようとする、逆方向から追求した話なのだ。それゆえ、意識の流れをつかむことにおいてより明るく軽やかな表現となっている。
そのようなことに思い至ったときに、改めて20年という月日を越えて新しく描かれたものに懐かしいものを発見した心地になったのであった。

夢の木坂分岐点 (新潮文庫)
夢の木坂分岐点 (新潮文庫)筒井 康隆

新潮社 1990-04
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おすすめ平均 star
starもう終わりか
star書かれた時点での筒井文学の集大成
star饒筆体

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タグ:意識の流れ
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2008年02月14日

霧の果て―神谷玄次郎捕物控 藤沢周平

北の定町回り同心神谷玄次郎は町回りも3度に1度は休んだり、奉行所にも顔を出したり出さなかったりするので怠け同心と思われている。それでも仕事からはずされないのは事件に対しては鮮やかな手腕で解決させるからだ。
そんな神谷の手がけた捕物の連作短篇。これらの連作の中でさらに神谷の過去にあった許しがたい出来事についても筆は進められていく。
きちんと規則を守って勤めないために上役からも怒鳴られたりするけれども、事件を見事に解決する鮮やかな手腕に痛快さを覚える。
型にはまらないのはわけあってのことだと後々に説明がなされてくる。その理由を知ったとき、また神谷玄次郎という人物の影に触れ一層興味深くこの捕物話を読むことになった。
霧の果て―神谷玄次郎捕物控
霧の果て―神谷玄次郎捕物控藤沢 周平

文芸春秋 1985-06
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おすすめ平均 star
star藤沢周平の人間を見る目が真面目で好きだから

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タグ:捕物 時代物
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2008年02月13日

りかさん 梨木香歩

おばあちゃんからもらった「りかさん」という人形が架け橋となって家にある雛人形や、お友達の家にあるさまざまなお人形の声を聞くようこちゃんのお話。
お人形のほんとうの使命は生きている人間の強すぎる気持ちをとことん整理してあげることだという。いいお人形は感情の濁りの部分だけを吸い取ってくれるけれども、修練をつんでないものは持ち主の生気を吸い取りすぎてしまったり、濁りの部分だけ残して根性悪にしてしまったりする。
りかさんは正しく大事に扱われてきたので気立てが良いのだ、とは「りかさん」をくれたおばあちゃんの言葉。
人形であれ、他のものであれ、頼りすぎると失敗するけれども、大人もこうやって他の人間以外に話し相手になってくれるものについて関心をもつことは面白いんじゃないかと思った。
理屈抜きで読むと気持ちが落ち着いてくる。
りかさん
りかさん梨木 香歩

偕成社 1999-12
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おすすめ平均 star
starアクはいつだって少し悲しい。
starこの美しい物語を、児童文学などという枠でくくるなどとはなんと無意味なことであろう
starミステリー?

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タグ:人形
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2008年02月12日

暗殺の年輪 藤沢周平

藤沢周平の初期作品5編。いずれの作品も主人公になんらかの陰影があり、またその陰影が周りの出来事にも影響を与えて、少々重たい雰囲気がある。
しかしその中では「ただ一撃」という作品だけは結末はともかく話の内容は剣豪小説のような高揚感を楽しめる。
北斎の晩年を描いた「溟い海」は若い才能に嫉妬する姿と、自分の作品がもはや世間ではあまり評価されなくなったという孤独感が胸に迫る。この作品は著者がその当時の鬱々とした自分自身の心境を投影したということをエッセイで読んだ。
どういう事情で鬱々としていたのかは書かれていないが、作品から推察するに充実した仕事ができていないという思いがあったのであろうか。
表題にもなってる「暗殺の年輪」はかなり重い作品であった。自らの生い立ちが自分の知らないところで冷笑や蔑みの対象となってたという主人公のどうにもならない運命のようなものが描かれてる。
武士はつらいものだな、と感じた。
暗殺の年輪 (文春文庫 ふ 1-1)
暗殺の年輪 (文春文庫 ふ 1-1)藤沢 周平

文藝春秋 1978-01
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おすすめ平均 star
star渋い作品勢揃い
star感情移入できない
star絵はやっぱり怖いものだった

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タグ:時代物
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2008年02月11日

河合隼雄 3冊

河合先生の書き物ではよく現在社会の問題点は昔の制度や慣習に戻して解決するものではないということを強調している文章が出てくる。では、どのような解決策があるのかという段になるとアウトラインのような案は提示するものの、ずばっと解決策を御信託のように示さない。それを煮え切らないと思った時期もあったが、今ではそうやって読者にどうすればよいのだろう、と考えてもらおうと本の中で簡単なカウンセリングをやってるのではないかと思うようになった。
カウンセリングではカウンセラーは答えを出さない。答えを考えるのはクライエントなのだ。
もちろん、いつもいつも結論を出さないわけではない。自分がこうだと思うことについてはきっちりと基準を持っていて、それをきちんと書いている。
そんなことを考えつつ読んだ3冊は含蓄に富んだ文章ばかりであった。
「出会い」の不思議
「出会い」の不思議河合 隼雄

創元社 2002-05
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おすすめ平均 star
star氏の総括版

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より道・わき道・散歩道
より道・わき道・散歩道河合 隼雄

創元社 2002-05
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おすすめ平均 star
starお散歩、お散歩

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こころと人生
こころと人生河合 隼雄

創元社 1999-06
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おすすめ平均 star
star楽しい講演
star内容の深い一冊

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タグ:こころ
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2008年02月07日

麦屋町昼下がり 藤沢周平

助けを求められたからとはいえ上士を斬ってしまった、表題「麦屋町昼下がり」のほか、酒ばかり飲んで鍛錬をしていなかったため護衛役をしくじってしまった「三の丸広場下城どき」、親友の自死で藩に不穏な動きがあったことを知る「山姥橋夜五ツ」、小太刀の名手である妻が活躍する「榎屋敷宵の春月」の計4編。いずれも味わい深い内容を堪能できる。
どの作品もすっぱりと割り切った勧善懲悪でなく、個人の思惑がからんだ複雑な人間模様を描きながらも、不条理なままで終わらないのがよい。
現実の社会では不条理に思えるようなこともあるけれども、このような小説を読むと、すぐに決め付けて嘆くより、粘り強く事を進めていくことで希望も見えてくるのかもしれないと力づけられるのである。
麦屋町昼下がり (文春文庫)
藤沢 周平
文藝春秋 (1992/03)
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おすすめ度の平均: 5.0
5 珠玉の4作。特に「榎屋敷宵・・」のお内儀剣士は最高!
5 堪能の一冊
5 一挙に読ませる面白さと、読後の爽快感を持った本です
タグ:時代物
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2008年02月05日

海国記(上)(下) 服部真澄

平家は何ゆえに権力を持つようになったのか、この小説ではそれを西国の海の道を押さえ、宋にまで貿易を広げ経済を動かしたという観点で平家の時代を描いている。
第一章で名もなき楫師と彼にかかわる女人たちの話があり、その楫師が平正盛と出会う。平家が海の道に目覚めるきっかけである。その後子の忠盛がさらに財をなし、清盛へと続く。
経済というものはいつの世もおろそかにできないもので、制度がある程度疲弊してくると、制度内では低い地位のものがしばしば金の力でのし上がってくるものだが、平家はまさにその例の現われだったのだなと思う。
下巻清盛の時代になって頂点を極めたかに見える平家であったが、信西の死後、清盛の心中には徐々に陰りが出てくる。その不安がやがて専横的な振る舞いへとなっていったかのようだ。清盛は確かに独善的ではあったけれども、それはひとえに朝家に尽くしているがゆえのことであると、彼は信じて疑わなかったのである。
海国記 上巻 (1) (新潮文庫 は 29-4)
服部 真澄
新潮社 (2007/12)
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海国記 (下) (新潮文庫 (は-29-5))
服部 真澄
新潮社 (2007/12)
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タグ:歴史
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2008年02月02日

闇の傀儡師(上)(下) 藤沢周平

これは今まで読んだ藤沢周平の作品で一番面白いと思った。
元御家人で家庭内で難あり今は筆耕で生計を立ててる浪人の鶴見源次郎が斬り合いの場所に遭遇。駆け寄って襲われてる人物を助太刀するものの、その人物は源次郎に密書を託して息絶える。それは老中への密書であり、八嶽党が田沼意次と接触しているという内容だった。八嶽党とは幕府を怨み暗躍を続ける謎の徒党であり、源次郎はその出来事に関わることとなる、という内容だ。
八嶽党は将軍の世子を暗殺せんと画策している。それを阻止しようと公儀隠密とともに動く源次郎。ちなみに彼も他の藤沢作品に出てくる主人公と同様に一流の剣使いでもあって、その戦いも楽しめる。
さらに、この話は敵を倒すだけの話ではなく、裏に謎の人物が絡んでいて、事を一層複雑にしている。上巻と下巻で成り行きが変わり、どうなるのかと息をつめながらページをめくっていった。
著者のあとがきによれば子供の頃読んだ「譚海」という雑誌に載ってたその名も思い出せないけれども面白かった小説の遠い記憶がこの作品につながってるという。
その小説も読んでみたいものである。
闇の傀儡師(カイライシ) (上) (文春文庫 (192‐8))
藤沢 周平
文芸春秋 (1984/07)
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闇の傀儡師(カイライシ) (下) (文春文庫 (192‐9))
藤沢 周平
文芸春秋 (1984/07)
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2008年02月01日

ダンシング・ヴァニティ 筒井康隆

他人のことは知らないが、ある一つの状況において幾つかの微妙に異なる想定というものをすることがある。それは期待だったり最悪のケースだったり、いろいろなのだがその中で一つの選択をするであろう。そしてそういったものの積み重ねで今の自分があるのだと思う。
またはある出来事がどうしても頭を離れずに何度も何度も形を変えて自分の心に浮かんでくることがある。
そういった考えというのは単なる考えであり、現実世界に現れてないから空虚なものなのであろうか?
この作品ではそのことをさらに推し進めて眠るとき見る夢まで含め人が認識する世界とはなんであろうか問うてるように思う。
それは自分の外側に現れた現実世界だけが自分にとっての事実ではないかもしれないと示唆しているようだ。
そういった虚実を曖昧にしてずっと狂躁的な調子で描かれているので、だんだん頭の中がハイになっていく。
ところでタイトルから連想したのかもしれないが読みながら頭に浮かんできたのは「ツァラトゥストラ」のこの言葉だった。
“私は踊ることのできる神だけを信じるだろう”
さらに本で確認したらこう続いていた。
(私は踊ることのできる神だけを信じるだろう)
私が私の悪魔を見たとき、悪魔はきまじめで、徹底的で、深く、荘重であった。それは重力の魔であった。―かれによって一切のものは落ちる。
怒っても殺せないときは、笑えば殺すことができる。さあ、この重力の魔を笑殺しようではないか!

ダンシング・ヴァニティ
筒井 康隆
新潮社 (2008/01)
売り上げランキング: 822
タグ:傑作
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2008年01月31日

飛ぶ教室 ケストナー

児童文学というものを特に注目して読んでみようと思ったことはなかった。というのも、この本のまえがきで著者が「子供のころはまるで極上の粉で焼いたお菓子みたいだ、とでもいうような書きぶり」の児童書を読んで腹を立てるところがあるのだが、まさに、そんな感じをすべての児童書に抱いていたのである。
だが、何事も属性だけで決め付けてはいけないな。
「飛ぶ教室」では葛藤もあるし、苦悩もある。なにも人生は大人になってから苦労するものではないという当たり前のことがここには書かれているのだ。
しかし、だからといって非常に重たくて読むのがつらいという本ではない。
他校とのトラブルで焼かれてしまった書き取り帳に「骨壷」を用意するなどと大真面目にいってみたり、勇気をあるところを示すためこうもり傘を使ってパラシュート降下をするといったように、深刻な中に可笑しみが表現されてる。
また徒党を組んでる少年たちがそれぞれ違った人間であるのも素敵だ。
詩人に正義漢に変わり者、腕っ節は強いが勉強はからきしダメな者と、気の弱い者。
柄にもなく「人っていうのはいいじゃないか」と誰かに言いたくなるような楽しい心境になった。
飛ぶ教室 (講談社文庫)
エーリッヒ ケストナー 山口 四郎 桜井 誠
講談社 (2003/12)
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おすすめ度の平均: 4.5
5 大人にもおすすめです
5 貴方が大人なら、この本を読むと思い出が甦ります。
3 映画でも見たので
タグ:児童文学
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2008年01月29日

村田エフェンディ滞土録 梨木香歩

明治に異国の地で歴史考古学の研究をする村田。土耳古とはその場所柄東と西の文化が交じり合ってる。村田はいわば東西の接点と今昔の接点に立っているようなものだ。そんな環境では知らず知らず自らを律することが習い性になってくるのかもしれない。緊張感はあるが文化の違いを超えた付き合いの有意義な面が作品からにじみ出てくる。
まるですべてが坩堝の中に投げ込まれたかのような環境では何もかもが境界をあいまいなものにするのであろうか。
村田の部屋で起こる神様同士での騒ぎや、霊媒師の話などに村田は大いに怪しみつつもそれを無理にこじつけた解釈をしようなどとはしない。それはまた異文化とともに過すための知恵でもあるのだろうと思う。
とはいえ、より大きな共同体はときに自らの存続と称して異なるものを排除せしめんとし、個人は往々にしてその力に飲み込まれてしまう。
不可抗力の中で、自分たちができることとはなんだろうか?
ムハンマドが拾ってきた鸚鵡がその時々にしていた人真似声が印象深い。
村田エフェンディ滞土録 (角川文庫 な 48-1)
梨木 香歩
角川書店 (2007/05)
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おすすめ度の平均: 5.0
5 見事な梨木香歩さんの世界
5 百年と少し前の土耳古の街のざわめきが聞こえる
5 東と西の交流
タグ:異文化
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2008年01月27日

阿Q正伝・狂人日記他十二篇(吶喊) 魯迅

「薬」という題名の小品がある。
ある日こっそりお金をもって主人が出かけたのは真っ赤な饅頭を買うためであった。真っ赤な饅頭とは何か。それは人血が入った饅頭のことなのだ。昔中国では人血を食べると肺病が治るという言い伝えがあった。主人の子供は肺病だったのである。そのとき手に入れた人血はある囚人のものであった。時は移り、主人の妻が墓参りに訪れる。それは子供の墓であった。側にある別の墓に老女がおり、しきりに泣いている。彼女はもう帰りましょうといって老女を慰めようとする。老女は墓の前で無実の罪を着せられて悔しかっただろう、私のいうことが分かったらあの鴉を飛ばしておくれ、とつぶやく。しばらく待つが、鴉は飛ばない。あきらめて帰ろうと少し歩き出したところで不意に鴉の鳴き声が聞こえ、みると鴉がさっと矢のように飛び立っていった。
という話だ。
処刑された人物の血を子供には黙って与えるが子供は助からない。一方で、老女が墓参りしていた人物は彼女の話からして無実の罪を着せられて処刑された人物だと推測される。ここで実は子供が口にしたものはその人物のものではないのかと読み手は思うのだが、主人の妻も老女もここにつながりがあるなどとは思いも寄らないであろう。
その中に古い慣習の闇を描き出そうとした著者の思いをみるようだ。
本のタイトルになってる、「阿Q正伝」や「狂人日記」も清時代の古い慣習を常人から離れた人間の視点で描くことによって批判しているように思える。
阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊) (岩波文庫)
魯 迅 竹内 好
岩波書店 (1981/01)
売り上げランキング: 15655
おすすめ度の平均: 4.0
3 はじめての中国文学
5 誰の中にも存在する阿Q
5 毛沢東が唯一認めた文人魯迅。
タグ:叫び
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2008年01月26日

風の果て(上)(下) 藤沢周平

藩の家老である桑山又左衛門に果たし状が届く。相手は野瀬市之丞というかつて同門で親しくしていた人物だった。
又左衛門は事態を収拾するため動き出すが、それと同時にそもそもこのような成り行きになった始まり、市之丞をはじめとする仲間と知り合った時分のことを思い出すのであった。
話の展開が2重構造になっている。一つは果たし状を受け取ってからの又左衛門の行動と、又左衛門がどのような道を経て今の地位についたか、そのことが彼の思い出という形で提示されている。
その2つの時間を一緒に読むことで又左衛門の戸惑いと出来事の背景が見えてくる。
かつてはともに研鑽し合った仲間といえども、同じ道をずっと歩んでゆくわけにはいかない。当たり前のことではあるがやはり読んでいくとなんとかならないものだろうか、などと思ってしまう。
だが、それは甘い考えなのかもしれない。すべてが終わったとき、かつての仲間が又左衛門に放つ言葉が厳しい。しかし、それは言われて然るべきことでもあったのだ。
風の果て〈上〉 (文春文庫)
藤沢 周平
文藝春秋 (1988/01)
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おすすめ度の平均: 4.5
5 ここに描かれているのは現代の我々だ
5 仲間の良さと維持することの難しさ
5 秀逸

風の果て〈下〉 (文春文庫)
藤沢 周平
文藝春秋 (1988/01)
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おすすめ度の平均: 5.0
5 いつの時代も生きにくいもの
5 人生を知ること・・
5 最終章
タグ:時代物
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2008年01月24日

最勝王 服部真澄

真魚は幼い頃より聖徳太子が四天王に祈願した話を好んでいた。
長じて叔父の呼び出しにより伊予親王に仕えることになる。かの親王もまた四天王の話を好んでいた。
時は移り、真魚はおおよその学問を修め、親王に教えることになるが、王のありかたについて書かれてる「金光明最勝王経」の王法正論品について親王が仏法の真理とはどこにあるのか疑問をもっていることを知り、どう答えたらよいのか真魚も悩む。
そんな折、秘密宗の経典の話を聞く。それを読めば今までの仏法のすべてがわかるという、その経を叔父の元へ行くときに知り合った元写経師の赤麻呂と探すことになる。
親王は人を治めることについて悩み、真魚は仏教の奥深さを知りそれを極めたいと願う。
新しい教えを説いた「大毘盧遮那成仏神変加持経」に真魚が惹かれていく様子がありありと描かれている。
時の帝が仏教を遠ざけた時代に真理を求めて奔走する主人公たちと折に触れて出てくる密教のことについての記述に読み応えがある。
やや強引な進め方になってるな、と感じた部分もあったのだが人の心の不思議さを考えるならばそういう進め方でもいいのかもしれないと思った。
最勝王
最勝王
posted with amazlet on 08.01.24
服部 真澄
中央公論新社 (2006/07)
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おすすめ度の平均: 3.0
3 サスペンス的な要素もある歴史小説
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2008年01月21日

一茶 藤沢周平

一茶というと
“やれ打つな蠅が手を摺り足をする”
とか
“雀の子そこのけそこのけ お馬が通る”
といった素朴な句を思い浮かべるのでその人柄も朴訥でやさしい人なのだろうと想像していたのだが、この小説を読みそれは覆った。
あまり暖かい環境ではないところで育ったせいかどこか心のゆがんだところがあり、利用できるものは利用してやろうというおよそ朴訥とは程遠い性格であった。
義母との折り合いが悪く奉公へ出されたのが15のとき。史実ではここから俳諧師として世に出てくるまでの足取りは不明なのらしいが、著者は奉公先を転々とし三笠付けという句をつけて遊ぶ賭け事で凌いでいる姿を描いている。
俳諧師とは一種今の芸能人みたいなところがあり、有力者の庇護を得るためにさまざまな場所へ足を運んだらしい。しかし、それは彼の生まれである百姓からみれば働かないでぶらぶらしているように見えたのではないかと彼自身そのことを気にかけていた。
藤沢周平は悪ともいえるほどのずるさをときに持ち合わせる一茶に人の業ともいいたくなるようなものを見出している。
エッセイではこのようなことを書いていたそうだ。
「一茶はあるときは欲望をむき出しにして恥じない俗物だった。貧しくあわれな暮らしもしたが、その貧しさを句の中で誇張してみせ、また自分のみにくさをかばう自己弁護も忘れない、したたかな人間でもあった。
だが、その彼はまたまぎれもない詩人だったのである。」
一茶 (文春文庫 ふ 1-2)
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藤沢 周平
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5 負けるな一茶
3 俳人一茶の生き様
2 やっぱり暗い
タグ:陰影
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2008年01月19日

未来への扉(千年医師物語3) ノア・ゴードン

千年医師物語シリーズ最終作。現代アメリカでコール一族の末裔RJが信念を持って地域医療に取り組む。
この作品ではアメリカ医療のさまざまな問題が提起されている。地域医療もその一つであるが、他に医療保険制度がないために受けられる医療に格差が生じていることや、中絶反対運動の過激さなどが描かれている。
医療保険制度がないということは想像以上に手間がかかるものらしい。小説で保険会社それぞれの書式に基づいて請求書を作成しなくてはならないのでそれだけで事務の手間が膨大なものになってること、医療保険料が払えず、ましてや治療費も払えないため医者にかからないで悪化させる人がいることなどを読むと日本の医療保険制度を崩壊させてはならないな、と感じた。
また中絶反対運動の過激さは以前ニュースなどで聞いたことはあったが、焼き討ちしたり中絶を行なってる医師を殺したりという描写があるので相当過激なのだとも思った。
RJはそれにも果敢に立ち向かい、自らの信念を貫き通そうとする。
コール一族に流れる医師としての良心が彼女の中にも息づいている。
未来への扉―千年医師物語〈3〉
ノア ゴードン Noah Gordon 竹内 さなみ
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3 心に燃える使命
タグ:医療問題
posted by てけすた at 20:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 本のこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする