2016年08月25日

天才 石原慎太郎

石原慎太郎の小説を実は今回初めて読むのであった。
だから他の小説がどういうものなのか知らない。
そのうえでこの小説を読んで
「なんか、昔はよかったなあ、みたいな話だな」
と思った。

形式としては田中角栄が一人称で語るフィクションなので、どこまでが作家の想像力なのかイメージがつきにくい。ましてや私は初めて読む作家だし。小説内の文章というか語りもどことなく拙く感じるのは演出なのか、まさか昔の作家がよくやった「参考文献の丸写し」というのではあるまいな、とか、結構失礼なことを連想してしまうわたしなのであった。

ところでこの小説内で「列島改造計画」について語らせている文章がある。
高速鉄道の新幹線を日本中に走らせる。各県には飛行場を設置する。かくすれば国民はこの国のどこへでも簡単に赴けるし、むしろ地方がかかえている地方の特色は保たれ文化は栄える。…

その計画は今の時代だいたいのところで実現されてきているが、実際は地方のさらなる過疎化を招いた。このあとで、
多くの国民はどこに住んでいようとこれでそれぞれの夢を持てたはずだ。

と語らせているが、この状態は通信の発達(インターネットなど)とセットになって初めて実現する。
地方暮らしから見れば角栄がこう思うかなと首をかしげたくなったのだけど、この内容はどこか参考文献に書いてあったのかな?

まあ、かの人の政治活動についてはいろいろあるだろうけど、インターネットの時代にいたらなにをやったかな、なんて考えるとちょっと面白いなと思った。
天才
天才石原 慎太郎

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2016年07月28日

大きな鳥にさらわれないよう 川上弘美

久々にまともに読書しました。

今、マヤ暦に関して少し興味を持ってるけど、この小説なんかマヤ文明の概念というか価値観というか、そんな匂いのする内容だった。(どんな、って言われると困るんだけど、なんとなく感覚的に。説明の放棄でございます(笑))

それにしても、凄い小説だなあと思う。
人生の悩みのほとんどは人間関係に関するものだという話をきくが、まあ、文学や小説や物語でないと構築できない世界ってあるな、確かに。

どうもしばらく感想書いてないからうまいこと伝えられないわ。ただ、人は少なくとも人間の心については永遠に「正しい」判断を下せないだろうし、だから人生は複雑なのだし、だから「面白い」と思うのかもしれないなあ、と思った。設定はSFとかファンタジーだけど、ここに出てくる物語って一度はどこかで体験した感情じゃないかなあ、なんて感じたのである。
大きな鳥にさらわれないよう
大きな鳥にさらわれないよう川上 弘美

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2016年07月08日

鬱屈精神科医占いにすがる 春日武彦

タイトルがひと昔前のサブカルチックで古臭いイメージから逃れられない。が、内容を読むと著者が占いと心理や精神科のカウンセリングがそれほど違わないこと、これを自らの体験として文章化したことの意義は結構大きいかもしれない。まあ、これは私の単純な感想なのだけど、今の世の中悩みがあったら一般的には医者にかかれ、っていうでしょ?でもそれだけではないと言うことをみんな知っていてもらいたい部分があるのよね。

さらにその鬱屈から自らの成育史を述べ、母との関係について文章にしていっている。その中で、著者は自分の生きる意味について、人生の中に類似や相似を見つけて、自分なりの秩序を見て取る、というようなことを書かれていて、この占いの件についてもその一つの表れなのだな、と気がついた。

そう考えると、精神医学というのはそれ自体が何かの模倣であるような分野だな。
文学の模倣、占いや呪術の模倣、身体医学の模倣、ああ、なにより医学というものがなにかの模倣のような気がしてきた。
今思いついたのだけど、スピリチュアルなところで「これは宗教ではありません」という言葉を見かけることがあって、でもやってることがやっぱり宗教にしか見えないことがある。宗教というとどうもうさん臭いイメージがあるから。
それと同じで、精神医学も「これは占いではありません」という文言で商売やってるのかもしれないなあ。

鬱屈精神科医、占いにすがる
鬱屈精神科医、占いにすがる春日武彦

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2015年05月08日

世界はゴ冗談 筒井康隆

ううん、読んでるときにはいろんな感想がよぎったので、久々にブログでも書くかと張り切ってやってきたものの、いざとなるとまとまらない。
ただ、70代を超えてから出された短篇集はちょいと枯れた味わいになっていたのに対し、この短篇集はまた若返った感のあるものがそろっている。特に愛をテーマにしたのかと思うような「不在」とか「メタパラの七.五人」とか。

しかし、この中で一番のお気に入りはペ…もとい、「三字熟語の奇」。
“一大事”から始まる三字熟語がずらずらと並ぶ。最初は一の字が頭についた三字熟語がそろって辞書の様相を呈しているのだが、やがてなにか関連あるようなないような言葉が隣同士に並び始めて、私の無意識を刺激する。それは政治批判だったり、役所についての雑感だったり、戦争のことだったり、といろいろだ。突然隣同士が関連してとんでもない意味をもつのでコーヒー吹いたりしてしまう。危ない。
そのうち熟語たちもまるで夢の中に入ったように、幻想的というか悪夢的というかそんな言葉に代わってゆく。

最近、ストーリーのある文章を読むのがかったるくなってきている。だから本もあんまり読んでないのだが、この三字熟語の奇はまるで鏡のように私の心の中を映し出す。
あ、ちょっとロールシャッハ的というか、ユングの言語連想法みたいな感じ。
世界はゴ冗談
世界はゴ冗談筒井 康隆

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2014年09月29日

繁栄の昭和 筒井康隆

大正モダニズムの雰囲気濃い建物にあるオフィスに勤める探偵小説好きの経理事務員。その事務員が周りの様子を説明しているところから始まる『繁栄の昭和』はいかにもなにか事件の起こりそうな予兆を感じさせないでもない。そして、実際、事件は起こるのであるが、そんな中でも事務員はランチをとりながらお気に入りの小説を読み、パイプ煙草を燻らせるという平和な日常も送っている。
読みすすめていくうちに、事務員は自分のいる世界がひょっとしたら当たり前の世界ではなくて、お気に入りの作家の書く小説内にいるのかもしれないと思う。まあ、実際に事務員は読者の目から見ると、筒井康隆の小説の世界にいるのであるが、かといってこの事務員の感じたことをまるで突飛な考え方のように思うのもどうかな、と思う。
我々は、普段、意識しなければ自分はこの環境のままで日常生活を送っていると思いがちなのではないだろうか。ある程度の年齢になると、何気ない日常を過ごしているうちに、ある日、突如、この日常生活だっていつか終わる日が来るということを思い出し、いかに自分がのんべんだらりと年も取らずに過ごしていると思い込んできたかということに、愕然とすることがあるのではないかと推測する、というか自分がそうなんだけど、そういうことを思い出したときに、この小説の言ってるところを読むと、人がまずまず幸福に過ごしているときというのは、こんな虚構内のような現象の中に心の住処を得ているのではないかと思うのである。
少しの楽しみと、自分自身に降りかかりそうな降りかからないようなちょっとした刺激。

『リア王』は楽しい小説だった。これぞ筒井さんの人間賛歌のような気がしてならない。
まあ、信一郎の憮然とする気持ちもわからないではないけれど、逆に大時代的で悲劇的な世界も、楽しい御伽噺の一つなのかもしれないなあ、と思わせるIt's A Small Worldには皮肉よりもこの世への慈しみが感じられるのだった。

他に『一族散らし語り』に見られるどことなく昔話めいたテイストや、『役割演技』のようなディストピアぶりも健在であります。
繁栄の昭和
繁栄の昭和筒井 康隆

文藝春秋 2014-09-29
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タグ:筒井康隆
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2014年06月15日

abさんご 黒田夏子

私はメディアマーカー読書メーターに次のような感想を軽く書いた。
期間 : 2014年6月15日 ~ 2014年6月15日
登録数 : 1 件
abさんご
黒田 夏子 / 文藝春秋 (2013-01-20)
登録日:2014年06月15日
abさんごは詩的だと思う親子とそれに割り込む同居人の話とか、ふるい家の追憶とかそういったものが美しい。だが、私は併載されてるタミエシリーズは人の心の弱さというか、そういう形で自分を守るタミエという子の描き方に安易な共感を許さない文学を見て、こちらのほうにむしろ興味をもった。


しかし、なにぶんこれらのツールは次数が限られるので、ひとつ覚書しておきたい一節をあらためてここに書いておこうという次第。
その一説とは、『タミエの花』に出てくる場面で、植物を調べているとあるおじさんと話しているシーン。タミエは学校をさぼって、植物たちと戯れていることが多かったのであるが、おじさんにあっさり植物たちの名前を言われて、ちょっと自分の世界が奪われるのではないかと思うシーン。
ハハコグサと言われて、違うよ、あれはね、カタクリマブシ、と言ったのは、常の、知ったかぶり好きの性癖からだけでなく、そう呼び変えることで辛うじてその草を他者からの支配から守ったつもりになろうという、懸命の抗戦、強奪への反旗であった。そして、その作業を重ねながら、単に感覚的博識というべき己れの世界に比べて、男の世界には地図があり、帳面があり、みんなとの協定みんなの支持があるという堅固を確実を安定を、ひしひしと感じさせられて来たタミエにとって、今、泪まみれで庇うべきいとしくも脆い自分の世界は、凝って集まってあの花となり、繚乱とタミエを充たしていた。

ここに、言葉に対する一種の怨念があり、自分だけの脆い世界と、みんなの支持する堅固な世界との対比が私のこころをとらえる。言葉にほんろうされなかったら、人間はどういう存在になっていたのか。そんなことをふと感じさせる一説であった。
タグ:文学
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2014年02月21日

砂の女 安部公房

いや、この小説はちょっとぶったまげた。というと言葉が下品になってしまうけど、寓話とか象徴とかそんなもので読むのはもったいないくらい前衛。
もう有名だからあらすじはいまさら紹介するほどではないけれど、砂の部落へ落ち込む主人公、流体の砂との格闘、逃亡の試みとあって、砂の部落が非現実的なように見えてどこかにあってもおかしくないような雰囲気なのがまたなんとも。

それでもあえて寓話として読むと、日常生活から非日常の不条理へ落とし込められた人間の格闘振りがなんともこころにせまってくる。
最初はあがき、一時は逃亡に成功するかと思いきや、逃れられず、そして逃げることが可能になったとき、なぜか人はそこにどっぷりと使ってしまう。
だが、不条理な状況って難だ?
後半に主人公の言葉がある。
「納得がいかなかったんだ…まあいずれ、人生なんて、納得ずくで行くものじゃないだろうが…しかし、あの生活や、この生活があって、向こうのほうが、ちょっぴりましに見えたりする…このまま暮していって、それで何うなるだと思うのが、一番たまらないんだな…どの生活だろうと、そんなこと、分かりっこないに決まっているんだけどね…
まあ、すこしでも、気をまぎらせてくれるものが多いほうが、なんとなく、いいような気がしてしまうんだ…」

ああ、けだし名言。人はいろんなものに飛びついて気を紛らせているように私には見える。でもどの生活が一番ましなのか。
砂をかきだす生活はたまらないだろうな。
でもだからといって他の生活がましなのだろうか?
いや、どの生活も同じとは思わないが、ましな生活って一体なんだろう?
砂の女 (新潮文庫)
砂の女 (新潮文庫)安部 公房

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2013年11月18日

天空の舟(上)(下) 宮城谷昌光

伊尹といえば、諸子百家の何かの本では見かける名前であり、料理人であったということを朧げに覚えていたので、この作品を見かけたときちょっと興味が湧いて読んでみた。
彼は才あるが、底知れぬところがある。しかしながら人心を掌握し、また彼自身民草の声を聞き天気を読むことができるという人物に描かれている。
時は古代中国夏王朝末期。話は主に夏の衰亡と商の勃興がメインとなるが、古代中国が祖霊や天などといった人知を超える、いわば呪の世界が信じられていたころのことでもあり、伊尹の出自や気を読む力はその時代の大きな力となって物語を動かしてゆく。

呪の世界は現代から見るとえらく迷信的で非合理なのではあるが、こうして物語として読むと人間のもつ良心といったものを「徳」という形で教えてくれるところに、古代中国を扱った逸話の面白さがあるなと思う。
上巻では夏王と商后の徳というものはそれほど変らないように見えた。なので、私は勝てば官軍で、同じようなことをやっても、負けたものは欠点が目立ち、買ったものがその徳をたたえられるのだろうと思った。
だが、下巻になると、明らかに昇る勢いのあるものと、腐敗した組織にいるものの違いが「徳」の有無という形を借りて表現されるようになる。前者は限りない謙遜を、後者は驕り高ぶりを。
いや、世の中こうしたわかりやすい人物像ばかりじゃないけれども、これはこれで「やっぱり勝つ人は人物が違うんだな」とか夢を見られるわけだし。

宮城谷昌光の一連の古代中国モノはなかなか読みにくい中国の書物の内容のエッセンスを読みやすいようにしてくれる。それで、私はそのうち『孟子』を読まなくては、と思ったのであった。
天空の舟―小説・伊尹伝〈上〉 (文春文庫)
天空の舟―小説・伊尹伝〈上〉 (文春文庫)宮城谷 昌光

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天空の舟―小説・伊尹伝〈下〉 (文春文庫)
天空の舟―小説・伊尹伝〈下〉 (文春文庫)宮城谷 昌光

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タグ:中国
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2013年11月13日

一千一秒物語 稲垣足穂

天体を題材とした作品『一千一秒物語』は一見童話風でありながら、人間がついぞ到達できることはないであろう、星の世界と人間との格闘といったらおかしいかな?そんな世界が描かれている。お互いがお互いをからかい合うユーモラスなシーンに見えないこともないのだけど、どことなく虚無を感じさせるような寂しさがあるのだ。そういや『星を売る話』とか『黄漠奇聞』もやっぱり人間の限界と星の永続性を並べ合わせてみたような作品になっていて、ロマンチックだがニヒルである。
いや、なんかうまく感想が書けないな。心を動かされたのは確かなんだけど。
他に収録作品として『チョコレット』『天体嗜好症』『弥勒』『彼等』『美のはかなさ』

ところで余談。『A感覚とV感覚』を読んでいて荒山徹『柳生大戦争』における将軍家光と柳生友矩の衆道での役割が主従関係としては正しいあり方であるのを確認した。臣下たるもの、お尻でお勤めはその道としては不敬なのである。お慰めしなければ。とか。スイマセン。

一千一秒物語 (新潮文庫)
一千一秒物語 (新潮文庫)稲垣 足穂

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2013年10月16日

明治開化安吾捕物帖 坂口安吾

明治10年代を舞台に、物見高い剣客泉山虎之介が出会った事件について勝海舟に知恵を借りにいく連作物。勝先生は虎之介の話から推理するんだが、どうも虎之介の話がうまくないのか、7分ほどしか当たらない。代わって謎を解くのは結城新十郎という洋行帰りの紳士探偵、という設定。
勝先生が話の最後に寸評を述べるが、それがなかなか穿っていて面白い。

最初のうちは、推理小説らしく殺人事件がすぐ起こって、その様子が語られ、勝先生が話を聞いて虎之介に推理を聞かせているんだが、この本の後半の話になってくると、事件がおこるまでの経緯がより詳しく語られて推理するための調査部分が少なくなってくる。この事件が起こるまでの話が滅法面白く、いったい誰が死ぬのか、あるいは殺されるのか、もう犯人探しより、こちらのほうがずっと面白く読めた。

当時の世相や風俗が描かれており、前に読んだ山田風太郎の明治小説にも似た、というか、描かれたのはこちらが先なのだけれど、そういう世相批評的な部分も面白かった。
ただ、そのせいもあるのかな、後半部分の話は勝先生の推理部分がちょっとおなざりになってしまってる感あり。まあそれがご愛嬌といえばご愛嬌だけど、最後の話のお説教は戦争を体験した安吾の実感でもあろうセリフ
「…こういう役にも立たぬ律儀が万事につけて無役な悲劇を生むものだ。私もそれをやります、と虎の顔に書いてあるぜ。血相かえてシクジリをやらかして、忠君愛国と称し、仁義孝行と号して、地獄へ落ちると書いてある。充分に慎しむ心を忘れちゃいけねえや」
というのを読んで、ああ、流石に堕落論の人だな、と感心した。
明治開化 安吾捕物帖 (角川文庫)
明治開化  安吾捕物帖 (角川文庫)坂口 安吾

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タグ:明治
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2013年10月13日

剣客商売 池波正太郎

『剣客商売』の感想をまとめておく。
著者順で出力したら、日付順に並ばずにばらばらになってしまった。ちょっと並べ替えるのがしんどいので、そのままコピペした。
みずらくてすいません。

ないしょないしょ―剣客商売番外編 (新潮文庫)
池波 正太郎 / 新潮社 (2003-05-13)
読了日:2013年9月3日
すいません、ドリーム小説みたいだと思いました。お福が手裏剣教わるところは好き。
二十番斬り (新潮文庫―剣客商売)
池波 正太郎 / 新潮社 (2003-02)
読了日:2013年8月13日
めまいを起こした小兵衛のシーンから始まるこの長編、小兵衛が戦う場面があえて描いていないところが何箇所かあったのが印象に残った。秘すれば花ではないけれども、そのあたり想像を掻き立てる。もはや小兵衛の視点というより、周りの登場人物から彼を浮き上がらせる描き方。
剣客商売 (新潮文庫―剣客商売)
池波 正太郎 / 新潮社 (2002-09)
読了日:2013年2月27日
取り立てて感想が浮かんでくるわけではないんだが、じっくりと味わい深い。まあどんな場合にも動じないように見えてもやっぱり息子の危機には動揺する小兵衛を描いた部分(まゆ墨の金ちゃん)、このあたりの機微は流石にうまいと思った。
剣客商売 波紋 (新潮文庫)
池波 正太郎 / 新潮社 (1995-08)
読了日:2013年6月29日
虫歯、歯周病のある人は小兵衛の真似をして小太郎に食べさせてはいけません(笑)

今回は昔の知り合いの話が随分多いな、と思ったら、この巻の前に『黒白』が書かれていたのね。後の巻を読む前にそっちを先に読むか。
剣客商売〈5〉白い鬼 (新潮文庫)
池波 正太郎 / 新潮社 (2002-11-18)
読了日:2013年3月30日
たまに優れた技の持ち主が出てくると、この人この後にもでてくればいいのになあ、と思うことがある。お秀もそう。ところでとうとう大治郎の胸の内が小兵衛に知れましたな。恋愛話はあまり興味ないのだけれども、誰かが第三者に恋心を知られたときの話というのは知られたほうの羞恥心と知ったほうのなんともいえぬくすぐったさを想像してなんだか読んでてこちらまでくすぐったくなってくる。
剣客商売〈7〉隠れ蓑 (新潮文庫)
池波 正太郎 / 新潮社 (2002-12-25)
読了日:2013年4月21日
タイトルネタバレじゃないかwという短篇あり。「徳どん、逃げろ」はちょっと鬼平犯科帳を思わせる内容だった。盗賊も魅力的に描いてしまうのが池波正太郎の面白いところ。
剣客商売〈8〉狂乱 (新潮文庫)
池波 正太郎 / 新潮社 (2002-12-25)
読了日:2013年4月29日
「狐雨」がほのぼのとしていて好きだな。ちょっと童話みたい。秀さんが登場した「秋の炬燵」も好き。
剣客商売読本 (新潮文庫)
池波 正太郎 / 新潮社 (2000-03)
読了日:2013年9月11日
インタビューでこの先の抱負として小太郎を主人公にして書いてみたいとおっしゃっていた。作者の急逝でそれが幻になってしまい残念だ。
勝負 (新潮文庫―剣客商売)
池波 正太郎 / 新潮社 (2003-01)
読了日:2013年5月30日
小太郎誕生のめでたさの陰で、昔関わった人物たちのことに心痛める小兵衛と三冬が印象に残ってしまって、なんだかめでたい巻のはずなのにもの悲しくなってしまった。
十番斬り (新潮文庫―剣客商売)
池波 正太郎 / 新潮社 (2003-01)
読了日:2013年6月19日
『白い猫』にしろ『逃げる人』にしろ、なにかこの父子にはいい守護がついてるとしか思えないような結末に苦笑。いや、あのままだったらなんとなく読後感よくないものな。娯楽小説なのでこの辺は許してあげましょう。最近不条理小説読むのがつらい体調なので。
天魔 (新潮文庫―剣客商売)
池波 正太郎 / 新潮社 (2002-10)
読了日:2013年3月20日
「約束金二十両」に出てくる平内太兵衛の居合いが説明されてもどうしてもイメージわかない。つい心の中で「どこをどうしたものか…」と剣戟シーンにおけるいつもの言葉をつぶやいてしまった。そして常盤新平の解説だが、1巻でとある二人の展開をばらしておいて、「この二人がこれからどうなるかという興味で…(以下略)」とか書いてるのを読んでなんだかなあ、とか思った。まあいいけど。
待ち伏せ (新潮文庫―剣客商売)
池波 正太郎 / 新潮社 (2003-01)
読了日:2013年5月5日
まだこのシリーズ全部読んでないけど、9巻まで読んだ中ではこれが一番好きかな。本来真っ当な人が複雑な事情で最期を迎えるという話がじんわりくる。また「冬木立」のなんともいえない哀愁がたまらない。いいことをしているつもりでもそうでない場合ってあるもんなあ。
新妻 (新潮文庫―剣客商売)
池波 正太郎 / 新潮社 (2002-11)
読了日:2013年4月11日
「いのちの畳針」が良かった。体を壊したために剣術が出来なくなっても、人を助けるために自分のできることをする、このあたり人生訓くさいコメントだが、いいんだよねぇ、植村さん。この人好きだわ。ああ、それと例のお二人ですが、もう少し紆余曲折するのかなとおもったら、やけにあっさり話がまとまってしまいましたな。
春の嵐 (新潮文庫―剣客商売)
池波 正太郎 / 新潮社 (2003-01)
読了日:2013年5月17日
大治郎の名を騙った人斬りが次々と起こる長編。誰がやっているのかわからないまま事件が繰り返されていく場面に読む手が止まらない。今回いろんな縁の人が協力してくれたんだが、どこで出てきたか思い出せない人もいて、シリーズ再読の必要性を感じた自分の記憶力の不確かさに憮然。
暗殺者 (新潮文庫―剣客商売)
池波 正太郎 / 新潮社 (2003-02)
読了日:2013年8月5日
長編。この巻では秋山父子は脇役なのであるが、それにしても小兵衛の描かれ方に時の流れを感じる。
浮沈 (新潮文庫―剣客商売)
池波 正太郎 / 新潮社 (2003-02)
読了日:2013年8月20日
年月は人のありようをいろいろに変えることを描写したちょっと切ないような哀愁漂う最終巻だった。それにしてもおはるが先に逝くとは。大治郎とか三冬は小兵衛をちゃんと看取ることができたのかな?それだけがちょっと知りたかったな。
辻斬り (新潮文庫―剣客商売)
池波 正太郎 / 新潮社 (2002-09)
読了日:2013年3月8日
小兵衛がだんだんとおせっかい老人になっていくなあ。まあヒマだとそうなるんだろう。「悪い虫」で10日で強くしてくれという人がやってくるが、いやその方法はちょっと度肝を抜かれた。ところで解説なんだが、1巻でも思ったけど、あまり先のことを書くのやめてほしいな。前の話ならいいけど、先でこの二人がこうなるとか書かれてしまうと興ざめしてしまう。ネタバレという話ではなく。
陽炎の男 (新潮文庫―剣客商売)
池波 正太郎 / 新潮社 (2002-10)
読了日:2013年3月16日
「深川十万坪」での小兵衛はなぜか水戸黄門的な匂いがした。ということで頭の中では藤田まことじゃなくて、西村晃が活躍しまくってた。ところで解説がまた常盤新平なのでこれ16巻全部書いてるのか?と思い16巻目を見たところやはりそうだった。大変な入れ込みようだな、と本作とは関係ないが、そんなことをちらと。ちなみに解説そのものは前2巻と比べて節度があった。やっぱり先の巻の話を書いちゃいかんよなあ。
黒白 上巻 新装版   新潮文庫 い 17-17 剣客商売 番外編
池波 正太郎 / 新潮社 (2003-05-10)
読了日:2013年7月23日
小兵衛の若かりしころの話。若い頃からああいう感じなのかあ、と思いながら読んだ。本編剣客商売読まなくても十分楽しめるね。主人公はもう一人波切八郎という人物。彼のことが気になります。下巻が楽しみ。
黒白 下巻―剣客商売 番外編 新装版 (新潮文庫 い 17-18)
池波 正太郎 / 新潮社 (2003-05-10)
読了日:2013年7月25日
岡本弥助は役どころとしては悪のほうに入るのだけど、妙に人間的魅力を備えた人物に描かれている。他にも悪のように見えるけれどなにかそう拒否できないような微妙さが随所にある。終わりのほうで小兵衛が大治郎に語る言葉がタイトルの意味であり、ほんとに池波正太郎はこういうことを書かせたらうまいな、と思う。
剣客商売 包丁ごよみ (新潮文庫)
池波 正太郎 , 近藤 文夫 / 新潮社 (1998-03)
読了日:2013年9月20日
なすの丸煮をやってみたが、母に好評だった。調味料の塩梅がつかめなかったせいか、ちょっとしょっぱくなってしまったけれども、今まで作ってたなすの煮物とは雲泥の差。他にも作ってみたいものがあるが、手間がかかったり、材料が今では希少になってしまって手に入りにくいものとかもあって、残念だ。写真を見ていると、昔家にあった料理本みたいで懐かしき昭和テイスト。
タグ:時代小説
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2013年09月09日

虚無への供物(上)(下) 中井英夫

ミステリーの感想を書くのは気を使う。自分はミステリー慣れしていないので、どこまで書いたらネタバレになってしまうのかわからない。これから読もうと思っている人は、書影以下の文章は読まないほうがいいです。
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というわけで、感想。
本格推理小説というか、アンチミステリーという紹介がされているのだけど、まず事件が起こって、探偵役を自認する人々たちの会話が、ディレッタント過ぎてなんなんですか、と苦笑する。もう、自分はこういう推理の話とかあんまり面白くかんじないので推理小説は読まないのだけど、この人々の会話自体がそれを戯画化しているな、という点ではこれがアンチなのかな、と思った。
だが、読み終えてみると、終章の言葉、これがねえ、私が普段本格推理小説と題されるものに感じていることそのままのことを指摘していたので、なんとなく痛快になった。それでもやっぱり小説はなくならず、なぜかといえば、それは物語をつむぐことであるから。
河合隼雄が物語について語っていたけど、それを思い出した。
そして、おびただしいといえるほどの当時の世相を盛り込んだ点。これが案外普遍的文学の様相を呈していて、時代を示唆するものを盛り込むとあとで古臭くなってしまうのだけど、徹底的に盛り込むとそれは現代小説としての役割を終えた後、かえって稗史としての時代小説、まあもっといえば伝奇小説にも近くなってくるというのは、この小説を読んでの発見だった。そして、いつの時代も変らぬ人の気持ちがこの中には描かれており、確かにわたし自身もこの世の中の不条理を考えたときに、物語を作り出すことをしたくなってしまうだろうな、と思ってしまうのであった。

タグ:ミステリー
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2013年08月01日

柳生大戦争 荒山徹

柳生の名はついてるが、舞台はほとんどが朝鮮関係なのはこの作家のいつものこと。
3部構成の本作品は、一部が元寇後の時代、高麗の兵を供養するためあえて日本へ渡ろうとする国師が主人公だ。二部が柳生但馬守と友矩を中心とした話、もちろん第一部の続きである。そして三部で舞台は朝鮮へ。
朝鮮の上流階級に手厳しい著者で、今回もその高慢なところやいざとなったらなんの役にもたたない臆病さなどをこれでもかと思いっきり描写されたシーンは読んでて胸がすくような思いだ。
まあ、しかし一番のわらいどころは自分の場合だとやっぱり、どんなことも捏造してしまう朝鮮という国を、まさに捏造といえる伝奇小説の中で書いてしまうこと。
著者の朝鮮描写にはこういうことがたびたび出てくるので、最初に読んだ本ではこんなこと書いて大丈夫なのかな、と思ってたんだけど、だんだん毒がまわってきたらしく、もうお笑いにしか見えない。
あとは十兵衛の奔放さや、友矩の妖しさなどを堪能して、やっぱり伝奇は面白いな。と読了。
柳生大戦争 (講談社文庫)
柳生大戦争 (講談社文庫)荒山 徹

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タグ:伝奇
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2013年07月14日

コンスタンティノープルの陥落 塩野七生

大抵の歴史小説では場面がどこなのかわからないまま幕が開ける。
ところがこの小説ではまずこの歴史的出来事の主人公たちが語られ、次に目撃者たちのそれぞれの略歴が描かれる。いわば役者が最初に紹介されるわけだ。陥落のことは私は詳しく知らないので、この目撃者たちは一体どうなるのかちょっとドキドキしながら読み始めた。

目撃者たちはぞくぞくとコンスタンティノープルに集まってくる。皇帝の要請を受けて応援にいく軍隊、不穏な噂を聞いて本国へ戻ろうとしているもの、もともとかの都市にいるもの、さまざまである。もちろん考え方も違う。巨大なトルコを相手に、コンスタンティノープルはどう戦うのか。また、頑丈な城壁で知られるかの都市をスルタンマホメット二世はどう攻略するのか。どちらにも肩入れせず、ただ、男たちの戦いぶりを描く著者の文章は、こう、なんというか、女性の目から見ると萌えますな。もちろんみんながみんなそうではないけれども、勇敢で責任感のある男たち、野心のスルタン、最後の皇帝コンスタンティヌスの気品、こういったものがふんだんに描かれていて、まあ小説ですから著者の男とはこうあるべきみたいな理想もはいってるだろうけど、だからこそ魅力的で面白かった。

歴史にもし、という言葉ほどむなしいものはないけれど、それでも後年資料からみるにつけ、つくづく運が作用するものだな、ということを感じた。
それにしても、私のお気に入りヴェネツィアのトレヴィザン提督は本当のところどうなったのだろう。あとで同じ名前が出てくるとはいうけれども、彼の名はトレヴィザン家では珍しくないともいうし。
コンスタンティノープルの陥落 (新潮文庫)
コンスタンティノープルの陥落 (新潮文庫)塩野 七生

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タグ:歴史小説
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2013年06月04日

聖痕 筒井康隆

リビドーがない、ということはどういうことなのか、半ば思考実験のような設定で五歳にしてまがまがしい災難にあう主人公貴夫。
読んでいて、ああそうなのか、と思ったのは、性器の欠損はむしろ女性関係よりも男性同士の関係で過酷な試練に耐えなければならないのだなあということ。まあ他の欠損をもつ人も過酷な差別にあうだろうけど、私は性の場合、ぼんやりと異性関係に影響してくるんだろうなと思っていただけに、男性というのはことのほか他人のこういうことを気にするものなんだ、と思った。それが恐らくいろんな意味で権力欲や所有欲など副次的な欲を生み出すんだろう。

貴夫は聖痕があるほかはほぼ完璧な人間である。いや、聖痕があるからこそ完璧に近い人間になったのか。
他人への関心があまりない彼にとって向かうのは、自分自身の生を養うものへと向かう。いろんな料理がたくさん出て来るんだが、いまどきこういう食生活を送っている人はそうそういないだろうなあ。
弟の登希夫が不良の友人二人を連れて貴夫とともに料亭へ入るシーンがあるんだが、ファミレスやコンビニの味に慣れきった友人二人は食べつけない料亭の味にへどもどして、登希夫が激怒するシーンがおかしかった。
不良でもいいもの食べてるんだなあとか思ったり。

私意外と登希夫に共感するところがある。出来の良い兄貴の影で暴れるしかなかった彼のこと。こらえ性のないところなど、どことなく自分の欠点に似てなくもないんだよね。でもそれはおそらく普通の人間に共通するところなんだと思う。

どこで見かけたんだかわすれてしまったんだが、中井久夫が自身の成長期について身体のことを「むりやり戦士にさせられるような」という意味のことを書いていた。男性は無理やり戦士にさせられ争って生きてゆくのだとこのときそう思ったのだが、「喧嘩ができない」といった貴夫。彼は戦士にさせられるのを免れた。禍福は糾える縄のごとしとは言うけれども、フィクションながらほんとにそうだなあと思わずにいられない。
聖痕
聖痕筒井 康隆

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2013年05月30日

剣客商売 勝負  池波正太郎

剣客商売11冊目『勝負』には切なくなってくる話が2篇あった。
「剣の師弟」と「その日の三冬」である。
「剣の師弟」では小兵衛が昔目をかけていた弟子の素行を知り、それを食い止めるのだが、結果は悲劇的におわり、うつうつとして楽しまないもの。
また「その日の三冬」でも、昔、代稽古をつけていた門人の乱行を見て、その騒ぎを取り静めるのだが、やはり結果として悲劇におわりうつうつとして楽しまないもの。

自分が随分目をかけていて、憎からず思っていた人物の凋落を知るというのは悲しいことだ。
そしてできれば無事に事を収めたいと行動するが、それがうまくいかないとき、こんな風に人知れず憂鬱になるだろう。
別に自分自身にそういうことがあったわけではないのだけど、読んでてなんか悲しくなってきてしまってなあ。
小太郎誕生は華やかな話題で、和やかになるけれども、もしかしたら彼だって将来どうなるかわからない恐ろしさ、というものを、この2篇を通じて池波正太郎は伝えたいのかな、と思った。
唯一、凋落はしたけれどもなんとか再生の余地が残った話もあってそちらはちょっとした救い。
ああ、でもほんとこの巻は悲しくて鬱々として楽しまぬ小兵衛や三冬のやりきれなさがこちらにまで伝わってきてどうしようもなかった。
勝負 (新潮文庫―剣客商売)
勝負 (新潮文庫―剣客商売)池波 正太郎

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タグ:時代小説
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2013年03月08日

楢山節考 深沢七郎

4篇収録の文庫本。

表題作「楢山節考」における老人を棄てる因習というのは近代の感覚ではどうにも耐えられないものがあるからごちゃごちゃと考えてしまうがこの小説にはそれがなく、凄みを帯びている。おりんのように立派に楢山へ行こうという老人もおれば、銭屋の又やんのように乱れまくる老人もいる。おりんのほうは宗教的なほどであるが、又やんは人間的な弱さをひしひしと感じてちょっと共感してしまった。彼の末路は悲惨なものなのだが、ああ、人間というのは執着すればするほどひどい結末が待っているものなのかもしれない、などと思わずにはいられなかった。

「東京のプリンスたち」には当時の10代が風俗とともに語られる。プレスリーに傾倒している仲間たちの日常はどこか普遍的な10代の刹那を感じ、なぜか自分の10代の頃を懐かしく思い出してしまった。もちろん、私はこの年代ではありませんが。

「月のアペニン山」はちょっと好みではない。習作ということだから仕方ないのかもしれないが、発想が安易で数ページ読んでおおよそのからくりが想像できてしまった。あまりサスペンスとしては上等ではない。

「白鳥の死」は正宗白鳥の死を描く。キリスト教に懐疑的だった白鳥が臨終近くなって神を信じるようになるのを見るのはなんだか複雑な心境だな。
一方、この短篇の語り手である作者はというと死によって、生で培われてきたすべてのものがチャラになるという意味のことを書いており、この虚無は何事も価値や意味を持たなくてはならないと強迫的にまで思っている世間の考え方と一線を画していて、この考え方は私にとって心地よい。
楢山節考 (新潮文庫)
楢山節考 (新潮文庫)深沢 七郎

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タグ:人間
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2013年03月06日

世に棲む日日(全4巻) 司馬遼太郎

幕末、激しい攘夷運動が起こった長州藩。そのきっかけとなった吉田松陰と彼の後継者として革命を起こした高杉晋作のことを語る小説。
まあ、いろいろ高杉晋作がバイロン卿みたいだとか、松蔭と晋作は、イエス・キリストとパウロみたいな関係によく似ているな、だとかそんなことばかり思い浮かんできてどうしようもなかったが、とにかく、松蔭のパートでは書きにくい人物なのかあまりぱっとしなかったのだが、高杉晋作に主役が移ると俄然面白くなった。特に3巻目のテロ活動に始まって、長州藩の攘夷活動に成功して英雄になったかと思うと、一転して開国を標榜して奸徒などといわれて逃亡するなど、その活動がめまぐるしいし、さまざまな戦いの描写も読んでいてえらく興奮した。
この革命と小説中では書いてるが、その是非はともかく、うまくいく革命ほど読んでいて痛快になるものはない。しかも、幕府とか左幕派の長州武士がともすれば役人的な振る舞いをする人物たちに描かれているもんだから、つい現代のそれと重ね合わせて読んでしまうんだよね。オジサマ方がハマるのはこういうところなのかなあ、なんて思いました。

ところで、高杉晋作は詩人だと小説中では連呼されている。なるほど紹介される彼の作った詩などはちょっと私好みなのではある。
一番すきなのは、ほぼ革命も成功したが、どこからも命を付けねらわれるためとりあえず逃げることになった晩年の頃、小説の中では船の中で草稿として書いた、という詩。
破衣破笠一草鞋(はいはりゅういちそうあい)
至処青山骨欲埋(至るところの青山骨を埋めんと欲す)
石枕夢冷孤渓月(せきちん夢は冷ややかに孤渓の月)
古寺魂暗五更懐(古寺魂暗く五更懐かしむ)
見生如死死即生(生を見る死の如く死は即ち生)
自言我是方外客(自ら言うわれはこれ方外の客)
無情淡心玩咏歌(無情淡心咏歌をもてあそぶ)
曾抛高位不肯惜(かつて高位をなげうってあえて惜しまず)

かっこいいよ、晋作。
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タグ:歴史小説
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2013年02月22日

榎本武揚 安部公房

元憲兵は昔義弟を思想犯で検挙したことがある。周りからは随分なじられたが忠誠をつくすこと、それが当時の彼の心境だった。終戦後世の中の考え方は変わり、彼も民主主義の中で生きてゆくのだが、自分は転向者ではないのかという思いが去らない。そんな中で、幕臣で箱館戦争を戦い、後新政府の元で出世した榎本武揚が彼の人生の弁護者として心のよりどころとなっていたのだが、その榎本武揚が実は裏切り者だったという手記を見つけてしまう。元憲兵は失踪してしまうが、その書類を作家である語り手に送っていたのだった。

生死にこだわらないのであれば、信念に基づき、あるいは忠誠心で一心不乱にある特定の思想なり価値観に従って生きていくのは美しくさえ見える。土方歳三は、手記の中ではそういう役割をしていて、書き手の賞賛を受けている一方で、榎本武揚ときたら、やむ終えず転向してしまったどころか、実は最初から裏切っていたのだと激しく糾弾されている。
一般に転向や裏切りというと生き残るために取られる策であることが多いから、死ぬことを潔しとしないと評判が悪くなることがある。
日本人には、この生きることと死ぬことに対する価値観から、前者が尊ばれ、後者は非難されがちである。
元憲兵だって、終戦後死ぬ覚悟だったら転向せずにすんだであろうことはわかるが、しかし、そう簡単に死んでよいものなのか?
『榎本武揚』という人物を通じて、著者は忠誠と転向、そしてそれに伴う生と死について問うているように思える。
それで思い出したのだが、先日読んだ、山田風太郎の「おれは不知火」という短篇。あれは川上彦斎が信念を曲げず、新政府が攘夷から開国へと変節したことを静かに批判しており、その様子に私などつい感動してしまったのだが、そういう考え方に共鳴してしまう自分もやっぱり信念を曲げないということのほうを生きるために変節するよりは上位においてしまっているのではないかという偏りを『榎本武揚』を読むことで気づかされた。
榎本武揚 (中公文庫)
榎本武揚 (中公文庫)安部 公房

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2013年02月07日

斬(ざん) 綱淵謙錠

慶応元年、ひとりの少年が初めて家の仕事に従事した。まだ12歳であったが、父、七世山田浅右衛門は彼の素質を買って15歳と届けて首切りを行うために送り出したのである。
時代は幕末。この動乱の中で山田家の物語は時の事件とともに彼、吉亮を中心に語られていくこととなる。

山田家の家業は一応刀剣の試切りである。首切りは副業のようなものではあるが、いわばプロフェッショナルな域に達した彼らは江戸時代の刑罰を行ううえでなくてはならない存在になっていた。そのため家は幕末までおよそ200年続いてきた。しかし、御一新後、急速な西洋化は刑罰の面にも及ぶ。それは物理的なことばかりではない。残虐な刑を望まないという価値観も一緒に入ってきたため、斬、すなわち首切りは徐々に行われなくなってきた。
単純にいえば、山田家の崩壊には彼らの技がやがては用いられなくなるだろうという、現代にも通ずる職業の変化への不安が付きまとっていたということだろう。
変化についてゆけるものはいい。しかし、時代遅れになるのが目にみえ、実際仕事も少なくなってきた場合、吉亮の兄弟たちのように身を持ち崩してしまうことは、山田家の血の呪いというよりは、そういった没落の面が大きいような気がする。

小説としては吉亮が呪われた山田家という考えを持ち始めることが前面に押し出されていて、ラストシーンもかなり衝撃的に描かれているのだが、私には以上のような時代の変化と古い職能の抱える悲劇のようなものを読んでいた。
もちろん、吉亮はそういう忌避される商売というものの苦悩を抱えていたかもしれないということは否定はしない。不安が彼をそういうふうに考えさせた、ということは十分ありうるのだから。
斬 (文春文庫)
斬 (文春文庫)綱淵 謙錠

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