2012年10月04日

精神病棟の二十年 松本昭夫

新潮文庫で精神疾患の人の手記を見つけた。この方は昭和10年生まれなので世代的にはもうだいぶ上の方。
この方の場合、女性関係が元でよく再発が起こり、20年もの間入退院を繰り返していたらしいが、その中でも仕事を転々としながらも、なんとか最後には社会で自活していけるまでになったという。
そんな著者の20年は、病気の苦しみもさることながら、当時の医療に対する恐怖も描かれていて、ちょっとこれは怖いな、と思った。
いや、怖いと思うのは偏見なのかもしれないけれども、電気ショック療法終了後のなんともいえない意識状態のことや、インシュリン療法で目覚めるときに感じた、海に墜落するイメージなどはやはりなんとなく怖い。
その後薬が進歩してきたので、そういった物理的療法は少なくなっていったけれども、ロボトミーや隔離室の話などは、著者は体験していないけれども、そのことにも言及していてやはり恐ろしいというイメージはぬぐえない。
現在はかなり改善されているのだろうが、こういう時代があったのだ、という記録として、この手記はまた興味深い。

ところで、妄想というのは人間の意識にかかわるものだけに、人によってずいぶんと違うものだなと思う。
著者の場合は、セクシャルな妄想や嫉妬妄想が多かったわけなのだが、ここには前に読んだ小林和彦さんの世界救済計画の妄想とはまた一味違う世界がある。
松本さんの場合、文学を志していた人で、サブカルチャーよりは一般の文化を愛した人だろうという感じがする。
だが、どのような妄想であれ、それが愉しいにせよ苦しいにせよ、その妄想を持つ人間の意識の背後には理解されない何者かが形を変えて現れているのだ、ということを忘れないようにしたい。
精神病棟の二十年―付・分裂病の治癒史 (新潮文庫)
精神病棟の二十年―付・分裂病の治癒史 (新潮文庫)松本 昭夫

新潮社 2001-09
売り上げランキング : 268184


Amazonで詳しく見る
by G-Tools


ラベル:精神疾患
posted by てけすた at 13:29| Comment(2) | TrackBack(0) | 本 (国内) 小説以外の著書 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私もこの本を最近読みました。
著者の自分勝手さに心底腹立たしく感じてしまいました。
内容は自分本位なものばかり。
周囲への思いやりが甚だ欠乏していますよね。
統合失調症うんぬん以前の問題で、本人の性格自体が大いにクセモノのような気が…。もしくはその性格自体が病気そのものなのでしょうか…。
私の一つ上の兄も十年以上前から統合失調症(発症当時は精神分裂病という病名でした)なのですが、もともと自分勝手・自己中心的・協調性のない性格でした。
両親は健康そのもので、家族への愛情もとても深いのに…。
私や両親(父は精神科・精神病棟の看護師を30年以上勤めてきたので、統合失調症患者に対する理解ももともと深いです)は兄の病気を理解しようと努力し、愛情をもって接してきたつもりです。
ですがなかなか伝わらないようで…。
遂には私までが鬱病を発症・再発する始末…。
私からしてみれば、やはり兄の場合は病気以上に性格のワガママさが前面に出てる気がしてなりません…。
そしてこの本の著者、松本昭夫氏も然り…。
愛情を必要とするならば、自分自身もそれに見合うだけの人間になる努力も必要だと思いますが… それに気付くだけの力があれば、そもそも統合失調症とは診断されないか…。
長々と失礼しました。
Posted by 通りすがり at 2012年10月08日 20:43
>通りすがりさん
この病気は自我が壊れる病気ですから性格的なものがあるのかないのか、という問題は難しいところだと思います。
この間、母親が統合失調症でその世話を全面的にしていた方のブログを拝見しましたが、やはりなかなかこちらのことが通じなくて苦労されていたようですし、看護にあたる方の苦労は並々ではないとお察しします。
治療のことやケアのことなど、どんどん研究が進むことを私もお祈りしています。

Posted by てけすた@管理人 at 2012年10月09日 12:26
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック