2015年06月21日

忘れ得ぬ人々と谷崎潤一郎 辰野隆

隆慶一郎や渡辺一夫の師として知られる辰野隆。このエッセイは人気があるらしく幾度か出版されているというらしい。
明治の文豪たちの思い出、級友のこと、そして友人谷崎潤一郎についての文章が集められており、これだけでもちょいと面白そうな感じではある。で、実際に読んでみると文豪たちの人間らしい愉快なエピソードが画かれていて、でもゴシップとは違う、そんな趣深い内容である。

何より流石に文学の先生だけあって、彼らの作品について述べている箇所を読んでいるとこれがまた読んでみたくなるような紹介や評論だったりする。例えばわたしは長谷川如是閑を読んだことがなくて、ジャーナリスト関係の人なのかな、ということくらいしか知らなかったのだが、辰野氏の文章では「…どの角度から眺めても思想家型ではなかったが、如是閑氏の根底には哲学者が潜んでいた。」という一文で、当時としては時流を抜いているようなヨーロッパ的な観念小説と紹介した『ふたすぢ道』などを読んでみたくなったりした。

また、交友関係にある二人の蔵書家への愛情溢れる(?)のかどうかわからないがその毒舌ぶりがおかしい『書狼書豚』。このお二方は辰野氏の書架をみて、俄然書物への執念が出てきたのであるが、彼らのその書物への偏愛振りを
つらつら往時を顧み、二昔以前に溯って、未だ両君が型のくずれぬ角帽を頂いていた秀才時代から、次第に書癖が高じて、やがて書痴となり書狂となり遂に書豚(ビブリオ・コッション)と成り果てた因果に想い到ると、僕にも多少の責任がなくはない。

と表現している箇所に彼らの熱狂振りがありありと伝わってきて、思わず微笑したくらいである。

谷崎潤一郎との交友は辰野氏が亡くなるまで続いたそうであるが、彼の文学に対する辰野氏の絶賛ぶりが二人の関係を物語っている。辰野隆にとって、谷崎潤一郎という存在は学生時代から燦然と輝く星であり、そして何より、その官能的な小説の、崇高な喜悦と官能の陶酔の分けがたい境地を高く評価していたのである。
忘れ得ぬ人々と谷崎潤一郎 (中公文庫)
忘れ得ぬ人々と谷崎潤一郎 (中公文庫)辰野 隆

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2015年06月12日

贋金つくり(上)(下) アンドレ・ジイド

アンドレ・ジイドの『贋金つくり』という小説は登場人物エドゥワールの『贋金つくり』という小説の構想集のような構造になっている。エドゥワールは自分のまわりの人物をモデルに新しい形の小説を生み出そうとしているのだ。それはまるで思考のダンスのようである。
さて、わたしがお気に入りのダンスをいくつか紹介しよう。
ここでは名を秘して文章を掲げる。
愛する者は、愛している限り、また愛されたいと願っている限り、自分のありのままの姿を示すことができない。のみならず、相手の姿も見ることができず、その代わり、自分が飾り立て、神として祭り上げ、創作した偶像を見ているに過ぎない。

若いころ、わしはきわめて厳格な生活をした。何か誘惑を斥けるたびに、自分の性格の強さを祝福したものだ。自分を解放するつもりで、実はいよいよ慢心の奴隷となりつつあることが、わからなかった。己に打ち勝つ勝利の一つは己の牢獄の扉にかける鍵の一まわしだったのだ。

僕の場合は、自分が何を言おうが、何をしようが、僕の一部が後ろに控えていて、片方の自分が危ないことをするのを眺めていて、それを観察し、ばかにし、野次り、あるいは喝采するんだ。こんな風に自分が分裂していたら、まじめになれるわけがないじゃないか。僕にはもうまじめという言葉が何を意味するかさえわからなくなるんだ。これはどうしようもない。悲しい時には、そんな自分が滑稽に見えて笑い出すし、はしゃいでいる時には、愚劣きわまる冗談を言って、その愚劣さに泣きたくなるんだ。


老化現象のせいか、最近まともな感想がかけず、引用厨になってます。
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2015年06月01日

2015年5月読了本

少し読書復活。
期間 : 2015年05月
読了数 : 6 冊
チベット旅行記(下) (講談社学術文庫)
河口 慧海 / 講談社 (2015-02-11)
読了日:2015年5月29日
チベットに入国してからひっそり過ごすかと思いきや、医者として遇されありがたられる。

また、日本人だとばれて出国するときの鮮やかさとか仏の加護が仮にあったとしても、大冒険をやってのける人は胆力が違う。
内なる目覚め―クンダリニーと統合失調症
深山 次郎 / 明文書房 (2013-04)
読了日:2015年5月24日
自らの精神疾患について、自分の修行している仙道と関連させて、その考えを提示している。受験戦争の無意味さ、古来の修行がよりどころになったことなど、こういう手記を読むと今の社会が抱えている問題を如実に示してくれる。
エドガー・ケイシー文庫012 性と人間の法則〈下〉
ハーバート・B. パーヤー / 中央アート出版社 (2004-04)
読了日:2015年5月21日
なんか人生相談読んでるみたいだな。
性と人間の法則〈上〉 (エドガー・ケイシー文庫)
ハーバート・B. パーヤー / 中央アート出版社 (2004-04)
読了日:2015年5月13日
性の問題は肉体的なもの以上に心の形成するところの問題という話。
世界はゴ冗談
筒井 康隆 / 新潮社 (2015-04-28)
読了日:2015年5月8日
大金とピストルもってぶらついてるじいさんのお話のタイトルを本のタイトルにして欲しかった、という意見を見かけて、私も同感。でなければオビの「文学の道化(フール)にして帝王(キング)。」という文言が泣くでしょう(笑)
クンダリニー
ゴーピ・クリシュナ / 平河出版社 (1987-01)
読了日:2015年5月5日
瞑想からクンダリニー体験を経た人物の手記。うまくいえないのだけど、精神と身体とプラスアルファみたいな要素を感じた。超越体験といえば身体が極限状態になったとか(臨死)精神が極限状態になったとか、そういう感じだったのだけど、著者はごく普通に瞑想を続けただけ。うーん、なにか気になるな。
posted by てけすた at 07:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (その他雑談) | 更新情報をチェックする