2012年02月28日

空海コレクションⅠ ちくま学芸文庫

ちくま学芸文庫「空海コレクションⅠ」は「秘蔵宝鑰」と「弁顕密二教論」を収録。
前者は人の心を獣のような心からさとりへいたる心へ10段階に上昇していくとし、そこに各種の宗教を当てはめて解説した、宗教比較論のようなもの。後者は顕教と密教の違いをさまざまな経典から引用してその違いを論じたものである。
専門用語がえらく多くて、全く、私のような学のない人間にとってはその用語についていくだけでへとへとになるが、まあ、注釈と現代語訳のおかげで、おぼろげながらも読了することができた。
この2つの論はどちらも過去にかかれた膨大な経典の引用が多くて、それが妥当なものなのかどうかはさっぱりわからない。
ただ、こうした引用を多用して、空海が持ち帰った真言密教が、仏教の最奥の教えであると書き連ねているのを読んでいると、空海という人はなかなかにプロデュース能力の優れた人なのではないかと思う。
それはさておき、「秘蔵宝鑰」ではさきほど10段階の心の有様を述べていると書いたが、それを読んでいくと、人は目の前の事物に振り回されているのが獣のような心の状態で一番低く、だんだんに、目の前の事物がなんであるか、そしてその本質がなんであるか、というところへ気が付いていく様子が伺えて、ああ、さとりを開いてゆくということは、目の前の事物に振り回されなくなることなんだなあ、と感じた。それでも華厳から密教への跳躍はどうすればいいのか書いていない。ただ、華厳までのところは所詮哲学であり、密教はそれの実践であるということがほのかに述べられてるに過ぎない。
「限りない仏はわが心の仏である。大海の滴ほどもある無数の金剛部、蓮華部などの菩薩たちはまた、わが身である」(第十秘密荘厳心より現代語訳)
というところが密教の肝なんでしょうかね。
まあ、くわしくは密教をやってごらんなさい、ってところだったんでしょうか。
空海コレクション 1 (ちくま学芸文庫)
空海コレクション 1 (ちくま学芸文庫)空海 宮坂 宥勝

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関連:「空海コレクション2」
ラベル:空海
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2012年02月21日

幼少時代 谷崎潤一郎

谷崎潤一郎が晩年に記した幼き頃のいろいろな思い出。著者は明治19年生まれということで、ここに描かれる幼少時代はちょうど明治20年台~30年台にあたる。
冒頭はやはり谷崎一族の長ということではないけれども、祖父のことが書かれていてついで親類のこと、父母のこと、それから家のことや住んでいた地域の思い出、学校、級友とつながってゆく。
曲がりなりにも裕福な暮らしをしていた頃の芝居見物や物見遊山の思い出や、美しい母の記憶に谷崎潤一郎の文学(といってもそれほど読んでるわけではないが)のあのなんというか情緒的な豊かさを見るような思いである。
また、著者はしばしば風呂を親戚の家に貰いにいったときの暗がりを通っての帰り道のことや、その他、遅くなって暗い道を通らなくてはならないときの怖さについて、しばしば言及していて、ああ、明治の頃の東京も都会とはいえ、暗い場所が随分と多かったのだなあということがわかる。その暗がりは怖い場所でもあるのだが、こうして文章にしてみると、これまた情緒的な光景にうつる。
後半の恩師についての文学話も興味深い。

後年、著者は東京に故郷を見出せなくなったといっていたが、列島改造論とか叫ばれた以降は東京どころか全国で故郷を見出せなくなってきているのではないだろうかと思う。
便利で進歩していくのもまあほどほどが良くて、自分のところも東京ほどじゃないけれども、高速道路が出来て交通が複雑になると、なんとなく、谷崎潤一郎のさみしさが想像できてしまうような気がするのである。
あまり派手な中身の本ではないが、明治中葉の雰囲気を谷崎のおっとりした文章でゆっくり読むとすてきな本。私は5日間かけてよみました。
幼少時代 (岩波文庫)
幼少時代 (岩波文庫)谷崎 潤一郎

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ラベル:明治
posted by てけすた at 15:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 明治 | 更新情報をチェックする

2012年02月15日

対話する生と死 河合隼雄

本書は、いろいろな場所で書かれたものを編集したものなので、既に河合先生の著書に触れられてる向きには特に目新しいことが書かれているわけではない。ただ、先生が日ごろ考えていたことが、ある程度まとまって一冊の本になっているので、その内容の俯瞰がしやすいということかな。
私が心したいエピソードも別の本には載っていたのだが、この本にも取り上げられていた。
それは、対話ということについてで、日本人はものを相手に訴えるときには「最後通告」みたいになってしまうが、アメリカだとまず最初に対話があり、そこで妥協点を見出していく、この違いが語られている。
確かに、今までずっとがまんしてきて、察してくれよ、とやってしまうのは日本人の癖みたいなものだが、思うに、人の心を読み取るのはいくら察するのが得意な人でも全部わかるわけではないから、頑張って言語化してゆくことも必要じゃないかと思う。
その際にはやっぱり一度いってわかってもらおうなどとは考えず、お互いに相手の考えを聞いて妥協点を見つけてゆく、という訓練をしていかなくちゃならないんだろうと思う。
実際、自分の気分が悪いとき、相手がそれをわからないということは多いんだよね。でもそれを怒りをぶちまけるようにして「最後通告」するのではなくて、自分はこうだ、自分はこうしてもらいたいんだが、あなたはこのことについてどう思うか、というくらいのことはしていかなくてはならないのではあるまいか。
この本でまたそんなことを思い出して、心新た。
対話する生と死 (だいわ文庫)
対話する生と死 (だいわ文庫)河合隼雄

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ラベル:心理学
posted by てけすた at 07:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 小説以外の著書 | 更新情報をチェックする

2012年02月11日

十兵衛両断 荒山徹

朝鮮の妖術師に肉体を乗っ取られた柳生十兵衛。ドラゴンボールでいうところの「ボディチェンジ」でございます。
ひ弱な肉体に押し込まれた十兵衛の魂(?)は果たして?
とまあ、こんな具合に、朝鮮と柳生の絡みがオツな連作短篇集。
朝鮮からやってくるものたちは皆ひとくせもふたくせもあって、柳生一族はそれに難儀しながら事を進めていく。
史実の資料を駆使しての伝奇はなかなかぶっとんでいて、柳生十兵衛が二人いただの、だれそれが韓人だとか、世の中にはほんといろんな資料があるもんだなあ、などと感心してしまう。
五作とも、それぞれ趣向がこらしてあるけれども、やはり一番すごいのは最後の「剣法正宗溯源」であろうなあ。これは表題でもある「十兵衛両断」の続篇みたいな話の流れになっている。
著者は柳生十兵衛を何回殺すんだw
十兵衛両断 (新潮文庫)
十兵衛両断 (新潮文庫)荒山 徹

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ラベル:伝奇
posted by てけすた at 15:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 小説 | 更新情報をチェックする

2012年02月05日

美しい鹿の死 オタ・パヴェル

ユダヤ人の父のことを中心にその逸話を文学にしたこの短篇集は、ナチスのことや、共産主義の負の面が描かれてるにも関わらず、その父の破天荒な生き方がユーモアにくるまれて書かれている。なんでも著者は「カレル・チャペックの再来」といわれたそうだが、確かにこの短篇集を読む限りでは問題意識や人間の在り方などが、チャペック風のユーモアに良く似ている。チェコの政治的風土は決して楽なものとはいえないだけに、もしかしたら人々はその苦難を乗り越えるユーモアに磨きをかけられるようになってるのだろうか?
それはさておき、この短篇集は全部で8つ。
父が若かりし頃のトップセールスマン時代の話、趣味に関しての破天荒な話題、ナチスがらみの辛い出来事を淡々と描いた作品、などなどが続き、最後は父の死についての短篇で締められている。
戦後時代の小説になってからは戦前戦中の激烈な話題よりは少し精彩を欠く感じは否めないけれども、父の生涯を追うのであればこれらの作品もはずすことはできないだろう。
「美しい鹿の死」や「国防軍のための鯉」はナチスがらみの話で一番読み応えがある。個人的に彼の父の一番面白い逸話と思うのがトップセールスマン時代を描いた「スウェーデンのために働いて」という作品。
しかし、なにより私が一番お気に入りなのは、釣りに目がない父が池の購入を勧められたときの話「中部ヨーロッパで最も高価なもの」という作品で、まるでウソみたいな結末になっている。こんなこと本当にしてしまったんですか?と問いかけてみたい気分。

こういう本は、実はハードカバーよりも、美しい装丁の文庫本サイズにしてもらい、かばんに入れて持ちあるき、時間のあるときに少しずつ読みたいような本だ。
しかし、日本ではあまり有名ではないから、難しいかな。
美しい鹿の死
美しい鹿の死オタ パヴェル Ota Pavel

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ラベル:家族
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2012年02月03日

蒲団・一兵卒 田山花袋

私小説の始まりとして有名な「蒲団」は爆笑してしまった。
主人公の彼がうら若き女弟子に懸想したのはいいが、その彼女がある学生と恋におちたことを知りなんともいえない憤怒とがっかり感に取り付かれる。そこでかれは傷つけられた自尊心を回復すべく、二人の保護者、監督者としてふるまうようになるが、という筋書き。
何がおかしいかって、相手の女性を見て、さんざ好き勝手なことを考えるその身勝手さ、自分も気づいてるんだか気づいてないのか知らんが、その好奇心と虚栄心。のわりに保身も考えるそのしたたかさ。
これはねえ、まさに中年男のいやらしさ炸裂で、もうもうただただ笑った。
そういえば、この主人公は年齢が35~6歳だと思ったが、昔会社の人が、まさにその年齢のある同僚男性を評して「あの頃はね、最後のあがきでいろんなことに目が行く」みたいなことをいっていたなあ。その言ってた人は40近くの人だったけど。なんかそんなことを思い出しちゃいました。

とはいえ、「蒲団」がこんなんだからって、他の小説も露悪主義的かというとやっぱりそんなことはないわけで、「一兵卒」は日露戦争で死に至るある兵卒の死に際を描いた作品。彼の内面の動きと、まわりの様子がじつにリアルに描き出されてる。
蒲団・一兵卒 (岩波文庫)
蒲団・一兵卒 (岩波文庫)田山 花袋

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ラベル:私小説
posted by てけすた at 15:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 明治 | 更新情報をチェックする