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2011年07月30日

マノン・レスコー アベ・プレヴォ

著者は序文にこんなことを書いている。
道徳の掟はことごとく漠然とした一般的原則にすぎないから、それを人間の習癖や行為の個々に対して特殊的に適用することは至難である、

この小説の語り手たるシュヴァリエは良いところの家柄であり、学問もきちんと修めている若者である。ところが彼がマノン・レスコーと出会ってしまうや否や、傍からみれば放蕩児に代わってしまう。これはマノンが性悪女だからだと思って読みすすめていくと大変な誤解であることに気が付いてくる。確かに快楽にひきつけられやすく、そのためにお金に対して弱いところがある。彼とマノンの不幸はひとえにお金がなかったからなのである。
だからこそ、金のある男性との関係をめぐってトラブルになったのであり、事件沙汰になった。
まあ、だからといって世の中は金だ、ということとはまた違うだろう。
問題は先ほど引用した著者の言葉の裏返しとして悪徳も同じことがいえるのではないかと思うのである。
もちろん、悪徳については一般原則というよりは法律や慣習という言葉が入るだろう。詐欺まがいのことをするのは確かに悪徳なのではあるのだが、マノンから言わせればもらえるものは貰っておこう、という無邪気さであり、彼は彼女かわいさのあまりそれに引きずられた。だから正確には彼らは悪徳をなしているのだという実感がわかないであろう。もちろんシュヴァリエは理性としては悪徳であることはわかっているのだが。
しかし、マノンという女性は徹底的に受身である。自分の人生に対しても。
マノン・レスコー (岩波文庫)
マノン・レスコー (岩波文庫)アベ プレヴォ Abb´e Pr´evost

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タグ:恋愛
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2011年07月29日

三陸海岸大津波 吉村昭

三陸海岸で起きた津波、明治29年、昭和8年、チリ津波について資料や聞き書き、作文などによってまとめた一冊。書かれたのは昭和45年であるが、東日本大震災に伴い少し前に文芸春秋から文庫本が出た。
いやあ、これは震災前に読んだとしても、なんだかすごい数字だな、ということくらいで実感がわかないような感じだっただろうが、震災後、あの津波のシーンを画像などによって見てしまうと、この本の中にかかれた数千、数万という数字が誇張でもなんでもなくてその通りなんだろうと了解できてしまうのである。
そして、この本に収められた、子供たちの作文がまた胸に迫る。今回もこのような子供たちがまた出てしまっているのだろうと思うと涙を禁じえない。
「寒いときと晴天のときに津波はこない」という古老の言い伝えが単なる迷信にしか過ぎなかったとき、自然の非情さをまた思い知る。

津波はいくつか前兆があるようである。チリ津波についてはその原因がちょっと違うとしても、ドーンという音、急激な引き潮、井戸の変化、何かしら謎の光、こういったものが現れる。
また、津波が起こる前には豊漁になったということも特徴的だ。
これらの前兆は今回の津波ではあったのだろうか?
井戸の変化という話はちらっと聞いたけど、他のことについてはよく知らない。

この本では著者が明治の津波を体験した古老に話を聞いているが、その中で本の最後に「津波は時世が変ってもなくならない、必ず今後も襲ってくる。しかし、今の人たちは色々な方法で十分警戒しているから、死ぬ人はめったにないと思う」という言葉を載せている。
ああ、これが本当にそうであればよかったのに、と思う。
それほどに自然は人間の思惑を超えた力がある。
三陸海岸大津波 (文春文庫)
三陸海岸大津波 (文春文庫)吉村 昭

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井戸の水が異変を起こした
タグ:自然
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2011年07月27日

風さん、高木さんの痛快ヨーロッパ紀行 山田風太郎・高木彬光

昭和40年、二人の流行作家がヨーロッパ周遊ツアーに参加。ツアーの目的はオペラ鑑賞だが、さまざまな国を観光した、その様子がこの本には収められている。
高木彬光はだいぶ前に出版されたという「飛びある記」で、その体験をいささか誇張しているのかもしれないが、面白おかしく書き連ねている。
一方、誘われた山田風太郎は、未発表の旅日記で随分と冷静な観察をしており、ヨーロッパの町並みや人々と日本人との比較をしていたり、旅先で出会った人との一場面を記入していたりと、この二人の記録、まあ、発表の有無の違いもあるだろうが、好対照である。
そして、その相乗効果によって参加した旅行を多面的に読むことができて面白いのである。
まさに「体験記」といいたくなるような高木さんの文章は、書いているご本人がドタバタ喜劇の主人公さながらに走りまくり、山田さんの日記は「観察記」みたいにまわりの景色について細かな文章が並び、今まで出版されてる日記と遜色ないほど読み応えがある。
ところで、高木さんの「飛びある記」はやっぱり中年男性向けに書かれたものなんでしょうかね?なにせ男性週刊誌みたいなノリなのでちょっと面食らいました。
風さん、高木さんの痛快ヨーロッパ紀行
風さん、高木さんの痛快ヨーロッパ紀行山田 風太郎 高木 彬光

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タグ:旅行記
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2011年07月21日

シルマリルの物語 J.R.R.トールキン

『指輪物語』の神話世界を描いた作品で、トールキンが長年にわたって書き綴ってきたものを、クリストファ・トールキンがまとめたものである。従って決定稿というわけではないのだが、その構築振りに圧倒的なものを感じた。
正直読むのに骨が折れる。名前がたくさん出てきて、それがどんな関係で誰であるのかということが頭に入らないので、巻末の系図や索引と首っ引きになり、読む速度が遅くなる。一度索引引いてもすぐ名前を忘れてしまうので、自分の記憶力のなさに苦笑したりした。
もともと小説内の名前覚えるのはあまり得意ではないからなあ。
それはさておき。
シルマリルの物語はエルフの伝承という形式である。とはいえその内容はいかにも人間的な情熱にあふれている。もともとが西洋のいろんな伝承や神話に造詣が深く、それらからの影響があるにしろ、人間のもつ執着や愛に彩られていて、指輪物語以上に文学的だ。その源はメルコールの悪に発していて、悪というものの存在は全く読み物には欠かせない。まあ、それは単に面白がるだけでなくて、自分の中の悪を意識することにも繋がってくるんだけど。
読むのに難儀はしたが、おかげで『指輪物語』について一層の理解が深まり読んでよかったと思った。
新版 シルマリルの物語
新版 シルマリルの物語J.R.R. トールキン John Ronald Reuel Tolkien

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2011年07月18日

ホビットの冒険(上)(下) J.R.R.トールキン

『指輪物語』でフロドに指輪を譲り渡すビルボの話ということで読んでみたが、これもなかなか面白かった。指輪物語では語り好きなおじいちゃんという感じのするビルボだけれども、若かりし冒険に出る前のビルボはもうちょっと小心な感じで、ガンダルフが無理やりドワーフたちの宝探しに引っ張り込んだという設定になっている。
トゥック一族の血が冒険好きでそれが騒いでつい出かけてしまうビルボなわけだが、ということは指輪物語のピピンもやっぱり冒険好きの血が流れてるのだな、とか思った次第。
でも、この物語の素敵なところは、冒険物語の主人公が必ずしも英雄というわけではないところ。忍びの者として雇われたビルボは最初のうちは足手まといとドワーフたちに思われるが、危機に際して知恵を働かせ、驚くほどの働きをする。でもそれは決して力に頼った道の切り開き方ではないんだよね。
そのあたりちょっと好感がもてる。
しかし、ドワーフたちの見分けがとうとうつかないで読み終わってしまった。今見分けられるのは族長のトーリンとでぶのボンブールだけだ。あとは何がなんだかよくわからない。
サイドキャラにもいろいろ魅力的な人がいるけれども、ビヨルンはよかったね。指輪物語にも出して欲しかったキャラだわ。
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2011年07月16日

講談碑夜十郎(上)(下) 半村良

半村良の書くものといえば叛骨、反体制的人物が話の中心になることが多い。この小説も天保六花撰でおなじみの人物が主人公碑夜十郎と共に、痛快な働きをする。
ところで、この主人公俗に言う記憶喪失のため、名前は彼を保護したお絹がつけた名前である。彼が倒れていた様子といい、ちょっとSFのかおりがするが、実際にはそれが気になるほど前面に出ているわけではない。時折江戸の風俗について著者(語り手)が語るところは講談そのものだし、浪風達之介らと横車を押す権力者とやりあう場面などは、痛快時代小説といっても良い。
また、半村良らしいな、と思ったのはこの天保六花撰の人物、たとえば河内山宗俊なんかはちょっとした義賊ではありませんか。
権力者相手にゆすりたかりをやる場面は他の小説でも描かれているのを読んだ覚えがあるが、この小説では先に、その権力者に泣かされた庶民を救うがための一働きであり、それに乗じて金品を搾り取ろうという構図になっていた。
しかし、〆がなんだか適当くさいな。一応ちゃんと終わらせてるけど、ばたばたとはしょってはい終了という感じがな…
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タグ:時代小説
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2011年07月13日

異界を旅する能 安田登

能は一度見に行ったことがあるくらいで全く詳しくない。この本のサブタイトルは「ワキという存在」だが、ワキといえばいつの間にか舞台の横にひっそりと座っていたのが印象的だった。観客側からみるとシテとのつなぎ役に見えるワキ。本書はまさにそのつなぎ役としてのワキについて述べた本なのである。
シテの住む世界は本来この世とはクロスしない異界である。著者はワキとはその見えない世界を見えるようにする存在だという。
これだけならまあ、わからないでもないが、著者はその異界に出会う大切さを一緒に説いている。それは全く硬直してしまった日常に新風を吹き込み、神話的時間と出会うことで回復する活力を養うようなものである。
そう説いたあとで、異界と出会えるワキ的なものとはなにか、という話が続く。
そこには、効率主義からは程遠い、価値の逆転としか思えないような事柄が書かれている。異界と出会えるのは自分が何もできはしない者だという自覚と、思い切り、すなわち、自分のもつ荷物を捨ててしまえる決断力が必要なのである。そう、これは出家や乞食の姿である。
ワキに僧侶が多いのもそういうことなのかあ、と腑に落ちた。
ワキはシテの舞う物語をただ聞くのみ。ところが、そうしているうちにシテの無念怨念は解消されてゆくといういう。これは一種のカウンセリングのようなものだ。
能の見方はいろいろあるだろうが、こういうワキの見方にはすっかり感心してしまった。
最後の章ではワキ的世界をプチ体験するための旅の指南まであって、結構面白かった。
異界を旅する能 ワキという存在 (ちくま文庫)
異界を旅する能 ワキという存在 (ちくま文庫)安田 登

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タグ:芸能
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2011年07月12日

羆嵐 吉村昭

大正4年12月、北海道の苫前郡で羆が人家を襲う事件が起こったが、その事件をドキュメンタリーとして小説に描いたのが本作品である。
いやいや、北海道に住んでるものとしては羆の怖さはわかるんだけど、それを上回る恐怖。
まず、冒頭にぶら下げておいたトウモロコシが何者かに食われる出来事がおこることをさりげなく挿入してきている。
そして苦労して開拓してきた六線沢の人々の暮らしと、それを凌駕するような圧倒的な羆の力が描かれ、さらにその力は人間がいくら集まってもいかんともしがたい様子も描いてくる。
最初、地元住民たちは自分たちで駆除すると意気込んでいたけれども、やがて恐怖にかわり、次に、国家権力、すなわち警察だが、これに頼る。警察と共に周辺住民の応援もついてくるのだが、彼らが最初の夜を過ごしたときに行ったどんちゃん騒ぎは、他の作家によっては喜劇的なドタバタに仕立て上げるかもしれないと思うほどである。彼らも羆を侮っているのである。
ところが彼らもまた恐怖に襲われる。
事態を深刻にみた区長が羆撃ちを連れてきてなんとか収束するがそれにしても6人の死者とは凄まじかった。
ここで思うのは自然の無情さということだ。自然は人間がどんな生活を営もうと斟酌しない。人間が羆のテリトリーに入ってしまえば、羆とぶつかるほかなく、共生などというものは生易しいものではない。とはいえ、たかがクマ一頭、という思いが彼らのなかになかったのかといえばそうではないだろうと思う。自然災害もそうだけど、どんなに万全にしているつもりでも自然はそれを上回ってくることがある。
ところで感想とは関係ないんだけど、本文を読んだあとで改めて文庫本の表紙をみると趣がありすぎてコワイ。羆の目が白ヌキになってるし、新潮装幀室。
羆嵐 (新潮文庫)
羆嵐 (新潮文庫)吉村 昭

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タグ:自然
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2011年07月11日

指輪物語全7巻 J.R.R.トールキン

以前映画になったので名前だけは知っていたが、今回読んでみてかなり面白かったので報告。
ホビットは世界でまだ知られていなかった種族である。その説明が冒頭ちょこっとあるのだが、この文章が少し読みにくくて、全7巻全てこの調子だといったい読み終わるのはいつになるのかと辟易した。
しかし、それを過ぎてみれば後は普通の物語形式で話が進みだし読みやすくなるのでほっと一安心。
指輪を手に入れたホビットのビルボが後継者フロドにそれを譲るが、魔法使いガンダルフはその指輪は危険なものだと警告して、旅立ちを勧める。そして仲間たちと旅立つのだが、目的地において、さらなる試練が彼らをまっていた。指輪の廃棄である。廃棄するには暗黒に支配されたモルドールにある滅びの山へ行かなければならないのである。そして所持者フロドがそれに赴くことになり、支援者として8人が付き添うことになった。
というところが第一部「旅の仲間」であり、第二部「二つの塔」では旅の仲間たちのそれぞれが、そして、第三部「王の帰還」では指輪をめぐるゴンドールとモルドールの戦争場面が描かれる。
読み進めて凄いなと思ったのは物語世界の構築である。それは各種族の伝承から言葉まで綿密に設定されていること。あまりにも細かくて、追補編の説明を読んでもよくわからなかった(汗
そして、この物語に通低していることとして、知ることや力に対する謙虚さがしばしば出てくることである。それはそれらが優れているがために身を滅ぼす者が何人か出てくることや、絶望のふちに立たされてもそれはあくまで今の自分が判断していることであり、物事はどうなるのか先はわからないからとにかく今やることをやろう、という場面がいくつか出てくることなどでわかる。
この物語はよくできてるので、どのような寓意も当てはめることができるが、著者があとで書いてるように、これは寓話ではない、というのは最もなことである。というか一つの寓意にあてはめてしまうのはもったいない。各人が好きなように読めばいいのである。
いや、それにしても全部読み終わったあとにまた第一部のはじめのほうを読み返してみたんだが、この展開だとフロドはガンダルフに嵌められた、といっても過言ではないぞw
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新版 指輪物語 全7巻J.R.R.トールキン 瀬田 貞二

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2011年07月03日

人間とは何か マーク・トウェイン

人間は自ら創り出すものではなく、外からの力によって作用する機械に過ぎないし、人間に行動を起こさせる動機、それは自分が安心し満足を求めるということであると、老人は言う。
人間は自分で考え、他人のために自己犠牲も厭わないと考えている青年との対話を通して、マーク・トウェインは何を言いたかったのだろうか?
正義と信念という立場から見た場合、老人のいうことは人間を冒涜するにも等しい見方だと思うだろうが、そこに偽善と傲慢さが潜んではいないだろうか?
他人のためにと称する行動は確かに美しいものではあるけれども、そこに潜む偽善や虚栄を老人は見たのではあるまいか。
また、自らの考え、これほど曖昧なものはないと思う。その人の考えを精査すれば誰それの影響を受けていると思われるものはたくさんでてくる。
しかし、老人言っていることが必ずしも人間を悲観的に見たものではないのではと私は思ってしまう。
他人への奉仕のための自己犠牲が人間の利己的な心の一つだとしたら、それは必ずしも悪だとは思わない。利己的というと他人の搾取や自己中心的な振る舞いを称していることが慣例なので、どうしてもこの言葉には抵抗感が付きまとうが、究極のところ、人は自分の満足することをするのが一番ストレスがかからないし、それが他人への奉仕も含まれてるとしたらそのような点でこの意見には私も共感するところがある。
また、これは老人も述べていたが、外から影響されて自分を変化させてしまうという性質も悪とは限らない。これは裏返せば教育の大切さを述べているものだからである。
なにより、こう考えることで人はお為ごかしの危険性に注視することができるし、謙虚になることができる。

と、まあこんな風に書いてみたんだけど、19世紀ではかなりセンセーショナルな考えだったんだろうな。マーク・トウェインは思い上がりと偽善で膨れ上がった人間の姿を見たのかもしれない。だからペシミスティックとこの作品は言われるのだろうが、私にはあまりそうは思えず、反語的道徳の書と映ったのである。
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人間とは何か (岩波文庫)マーク トウェイン Mark Twain

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タグ:人間
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2011年07月02日

羆撃ち 久保俊治

札幌にあるくすみ書房の店主がずいぶんとプッシュしていたので、機会を得た今回、読んでみることにした。
内容は二十代で羆ハンターとなった著者の、主に猟に関しての半生を綴ったものである。幼少の頃、父とともに猟を体験し始めてから、愛犬フチの死までの期間が描かれている。
アウトドア、というとなんとなく軽々しくて、この著書には似合わないのだけども、まあ、そういう方面にはとんと疎い私でも、この自叙伝はかなり面白く読めた。
大学時代の初めての一人での猟や、猟を生活の糧として生きていこうとする決意、そして山に入り、その経験を著者はまるで昨日のことのように鮮やかな記憶として記してゆく。そこに本当に好きなことをする喜びが感じられるのである。
一番の読みどころはなんといっても、愛犬フチとの猟生活のことであろう。
フチとはアイヌ語の火の女神という言葉からとった名前だそうである。普通猟犬は牡を使うらしいが、気のムラが気になった著者は牝のほうが粘り強いのではないかと考えて仔犬を探し、フチと出会う。フチは著者と相性がよかったのか、飲み込みが早く、性質も好ましいものだったという。
そして、一人と一匹の猟生活。
ここが読んでいて一番楽しかったところだ。恐らく、著者も書いてる中で一番楽しかった場面ではなかっただろうかと想像する。
他にアメリカのガイドハンター養成学校に留学した経験も書かれている。しかし、この場面は案に相違してちょっと精彩を欠いたものとなっている。
やはり北海道で羆を倒す場面が一番面白く、秀逸である。
店主が推すだけのことはあるな、と思った。
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