2011年04月26日

自分だけの部屋 ヴァージニア・ウルフ

女性と小説という題目で講演を受けたウルフは、女性の書いた小説の紹介でもなく、女性と小説の関係でもなく、小説に出てくる女性像について話したのでもなかった。彼女の述べたのは、女性が小説を書こうとするなら、お金と自分自身の部屋を持たねばならない、ということについて、その結論がどのような思考の道筋を辿ったのかを、それこそ小説風に表現したのである。
その内容は実に皮肉が効いていて、読んでいておもわず顔がほころんでしまうほどであった。ウルフは大学における男女の扱いについて語り、男性の書いた女性論について語り、さらにそこから進めて、その男性たちが女性論を書いた動機について考察し、その答えを女性の劣等性を示すことで男性が得る自信ということに言及している。さらにさらにその考察は女性の権利を著しく制限していた数百年前の社会から女性が何かを書くということについて、どのような扱いをされていたか、ということまでに話は及ぶ。
引用する文章は実に豊富で、英文学における女性の歴史、というタイトルをつけても十分通用するような内容だ。
またこのエッセイは確かに女性が歩んできた苦悩とその原因となった男性社会の規範の批判ではあるけれども、マイノリティが押し付けられる不利な規範とそれを覆すための苦労という点でみれば、あらゆる階層差別の問題にあてはまるのではあるまいかと思った。
そういう意味においても、このエッセイは読み応えがあり面白いものである。

自分だけの部屋
自分だけの部屋ヴァージニア ウルフ 川本 静子

みすず書房 1988-03
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2011年04月24日

津田梅子 大庭みな子

津田梅子が留学先のアメリカから帰国してから滞在先だったランマン家の夫人に送った書簡の束が津田塾大学から出てきたそうだが、著者はその手紙から本書を構成している。一読して印象に残るのは明治時代の社会や女性について多感な時期を国外で過ごした梅子の目があぶりだしている日本人の特性である。
梅子の目からみると、女性を家に押し込めてその世話にかかりっきりにさせるような社会に違和感を感じ、その地位向上のために女子教育に努めて生きたいと願った。その意気込みは、国家の多大なる費用で留学した義務感が背景にある。日本の社会は彼女にとって異世界ではあったけれども、どんなにつらくともアメリカに戻るようなことはしないと思ったのもその一つだ。
だからといって、日本をあたかも外国人が見下すような視線で批判していたのではない。そのスピリットはやはり日本にあると彼女自身は思い、本格的に教育に携わるようになってからは、合理精神で、高い洋装をやめて日本で手に入りやすい着物を着、質素な日本家屋に住んでいる。
私が津田梅子に感心したのは、その合理精神のほかにハコモノよりはその精神と尊んだことである。女子英学塾開校式のときの式辞の冒頭、彼女はこのような話をしている。
…本当の教育は立派な校舎や設備がなくてもできるものであるということであります。それは一口に申せば、教師の資格と熱心とそれに学生の研究心とであります…

この信念はのちに彼女が病床で関東大震災で校舎が焼失したという知らせをうけてもさして取り乱さなかったということが伝えられていることでも確かなものであったのだろう。
幕末から明治にかけて、今の日本では考えられないような突出した人物たちがキラ星のごとく現れたが、津田梅子もその一人なのである。

津田梅子
津田梅子大庭 みな子

朝日新聞社 1990-06
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タグ:明治
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2011年04月21日

新しい文学のために 大江健三郎

東日本大震災のあと、私はしばらく小説を読む気分にならなくなってしまった。それでも少し読めばそれなりに興味深く読めるのだけど、この大災害で現実が虚構を超えてしまった感があり、それをあえて小説を読むとはいったいどういうことなんだろう、と考えてしまったからなのである。
そんな疑問を持ちながら読み始めたとき、著者は冒頭、ミラン・クンデラの言葉を引用する。
私は幾つもの物語(ストーリー)を作り出し、ひとつひとつを互いに相対させる。この仕方で私は様ざまな問いかけをするのです。人びとの愚かしさはあらゆるものについて答えを持っていることから来る。(中略)…作家はその読者に世界を問いとして理解することを教えるのです、その態度のなかに、知恵と寛容があるのです…

世界について文学でそれを問う、大災害がいやおうなく人々の心に問いをもたらすならば、なまじの文学ではとても太刀打ちできまい、それが小説を読む気にならなくなった理由かもしれない、と思ったのであった。
人々に問いを投げかけるような大災害が非日常ならば、文学も非日常的であらねばならない。そこで著者は以下、文学の方法論として異化や神話に出てくるような人物像の形成などについて語る。それはいずれも人の感情に訴えかけるような方法であり、世界について問う、とは自分の既成概念を打ち砕くことなのでもある。
そして、ここから先は自分の思ったことなのであるが、そうやって既成概念を打ち砕く文学が、もしかしたら現実の出来事で打ち砕かれた自分の概念に答えを与えることもあるのではないだろうか、と。著者は励ましという言葉を使っているが、この励ましという部分が、その答えにあたるのだろうかとも考える。
この2つの作用が文学の仕事なのかもしれない、という感を強くした本であった。

新しい文学のために (岩波新書)
新しい文学のために (岩波新書)大江 健三郎

岩波書店 1988-01-20
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タグ:文学
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2011年04月17日

時間と自己 木村敏

時間というと私などは何時にはあれをして、何時間は時間があるからこれをして、などと普段は数量的に考える。ところが、これとは別に「いま」というそれ自身とそこから過去未来が想起されるような時間、そしてこの「いま、何々をするときだ」などに使われる「いま」は数量的な時間ではなくて、それは「私自身」のことだと著者はいう。この「時間」=「自己」という観点から人間の精神を考えているのが本書である。
そのサンプルとしては精神疾患の患者の自己を例に挙げて、時間と自己の関係を考察している。最初は統合失調症(この本は古いので精神分裂病という言葉だが)における未来の未知性に対する恐怖と憧れ、次に鬱病における物事の既存性を拠り所とした自己のありかた、それから癲癇や躁病における永遠の現在についてである。
この3つの説明は実に面白くて、まるで未知のものを先取りしようとする預言者のような分裂病親和性や、共同体の保守につくす鬱病親和性、そして過去も未来も今という一瞬に閉じ込められた神のごとき意識を体験する癲癇、躁病気質、こういったものが人間の自己のいろいろな側面を見せてくれる。
肉体的にも生きられる時間という点でも有限なわれわれ人間が体験するこれらの「時間」の姿は究極「死」ということを思い起こさせる。「死」のわからなさに恐怖したり、自分の所有しているものをすべて剥ぎ取ってしまう「死」に憂鬱となり、一方、「死」は大いなる解放であってその只中に入ってゆくことは一種の恍惚でもあろう。
3つの「時間」の捉え方は自分のありかたとつながり、それはまたいつか迎える「死」を思うことでもある。
時間と自己 (中公新書 (674))
時間と自己 (中公新書 (674))木村 敏

中央公論新社 1982-01
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タグ:人間
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2011年04月15日

時代を読む 河合隼雄・鶴見俊輔

個人的な覚書。
森毅→教師と教育について。
矢野暢→『衆愚の時代』、社会のことについて。
吉本隆明→『死の位相学』、科学と宗教のこと。
古関彰一→『新憲法の誕生』、日本国憲法の話。
関川夏央→『ソウルの練習問題』、日本と朝鮮の文化について。
桂文珍→『落語的学問のすすめ』、話芸から生き方を考察する。
埴谷雄高→『死霊』、思考実験と文学のこと。
大庭みな子→『津田梅子』、近代日本と世界について。
白洲正子→『かくれ里』、日本の伝統芸能から文化や哲学を語る。
筒井康隆→『文学部唯野教授』、小説と批評について。
大江健三郎→『キルプの軍団』、文学から社会を批評する。
加藤周一→『日本文学史序説』、日本文学全体の流れについて。

いや、実は人文的な意味ですごく読み応えのある鼎談集だと思った。ゲストの著作をテキストにそこから話を膨らませてゆくのだが、鶴見俊輔の話の膨らませ方と河合隼雄のうなづきが効を奏しているのかなかなか意義深い話が引き出されてきている。
そこで、ここに出てきたテキストそのうち読もうと思って覚書した次第。
まったく、自分は唯野教授しか読んでない不届きものだからな。

時代を読む
時代を読む河合 隼雄 鶴見 俊輔

潮出版社 1991-12
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タグ:鼎談
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2011年04月12日

人間万事嘘ばっかり 山田風太郎

筑摩書房でだしてる、単行本未収録エッセイを集めた「山田風太郎エッセイ集成」の5冊目。これで完結ということである。
この本では特にテーマはなくて、前の4冊に入れるのに間に合わなかったものも含まれている。
5冊の中ではいろんなことに言及しているので、山田風太郎エッセイの全貌がうかがえる一冊かもしれないと思う。
柿とり器に感心する山風とかほんと面白い。作家というのは何気ないアイデアグッズにも世の中の動きを見出して文章にするから凄いなあと私はそれに感心してしまう。
ところで山風は自分の画才が衰えてしまった、ということを書いているのを前にどこかで読んだことがある。衰えた、といっても昔絵がうまかったというのだから謙遜なんだろうな、と思っていたのだが、この本でその数十年ぶりに書いたという風景画が収録されていた。
…謙遜ではなかった。
いや、私は絵が下手だからこれをみて笑いはしないけど、線のゆがみや筆遣いが絵を習いたての人みたいなのだ。
自画像も収録されていたが、こちらは結構特徴を捉えてなかなかだと思った。
人間万事嘘ばっかり 山田風太郎エッセイ集成
人間万事嘘ばっかり 山田風太郎エッセイ集成山田 風太郎

筑摩書房 2010-07-24
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タグ:エッセイ
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2011年04月10日

ペール・ギュント ヘンリック・イプセン

ペール・ギュントはホラ吹きで自分の欲望の赴くままに行動する。その有様がなんともおかしい。牡鹿の背にのって海に落ちたとか、トロルの婿になろうとしたり、道徳上あまりよろしくない商売で設けたり、予言者を気取ったりと、もう大変な行動振り。
そんなペールだが、女性にはよくもてる。トロルの王女はもとより、自分の住んでいた地主の娘に言い寄られたり、予言者になったときは異教徒の娘が慕ってきたり。
そんなペールの魂は天上からみるとどうであったかというと、というのが話の結末になる。
まあ、やってることはひどいんだけど、不思議と憎めないキャラクターなんだな。
それはペールが自分自身の好きなことをやってきて、あまり人をうらやむとか妬むとかがないせいかもしれない。といってもやっぱり天上からみると不徹底であることは確かなんだよね。実際ペールはおのれ自らを生きたといっているけれども、人生の行為をないがしろにせり、なんていわれてしまったくらいだしね。
ただ、ペールは自分の魂が鋳直されてなくなってしまうことを非常に恐れている。人の考えはそれぞれなんだろうが、自分は別に鋳直されてしまってもいいかな、なんて思ってしまう。死んでも自分があるってちょっとしんどいから無になりたい。
ペール・ギュント (論創ファンタジー・コレクション)
ペール・ギュント (論創ファンタジー・コレクション)ヘンリック イプセン Henrick Ibsen

論創社 2006-11
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2011年04月08日

脳のなかの万華鏡 サイトウィック&イーグルマン共著

共感覚という言葉は前に『ぼくには数字が風景に見える』という著書で聞いた事がある。数字がそれぞれ位置をもって見えるというダニエル・タメットの話は世の中ほんとにいろんな人がいると思ったものだ。
本書はそういったある一つの概念にさまざまな知覚が伴って見える人やことについて包括的にまとめてある。音に色がついていたり、ダニエルのようにある数列が位置をもっていたり、匂いや味に形をもってるひと、また単語に色がついてる人などさまざまな共感覚を紹介している。
その共感覚とはいったいどういった現象なのかということについても、最新のテクノロジーや実験で明らかになったことを紹介しているが、それによれば脳のそれぞれの知覚を受け持つ領域が他の知覚の領域とクロストークしているのではないかということだ。
だが、クロストークが共感覚者特有の現象なのかというと、後半を読むとどうやらそうではないらしいという可能性が書かれてあった。
それは薬物などを利用して後天的に共感覚のようなものを起こしたり、後天的にある機能を失った人(盲目や聾など)が共感覚的な知覚(例えば盲人が何かを触ったときにあるものが見えるようになるとか)を習得することがあるという事実があるからなのだ。
こうなってくると共感覚は特殊な人々の能力ではなくて一般の人にも関わりあってくる現象といえる。実際、言語におけるメタファーなどは共感覚が進化したものという説明があるのである。
面白いのはあるものや人を見たときに色が見えるオーラもまた共感覚の一種であるということであった。つまりこの場合自分の情動に色がついているということなのである。このような考えでいくとデジャヴなども共感覚の一種かもしれない。
そうなるといわゆる超能力という現象もここからアプローチすることができるんだろうか、などと想像してしまう。
主観的意識は測定することが困難だけど、共感覚の研究はその困難さに一筋の道をつけはじめた。願わくばこうして一人ひとりの意識には個性があって、人がそれはおかしいとか自分は変だとか思わなくなってそれが自然であるということがだんだんと理解されてゆけばいいなあと希望を抱かせるような本であった。
脳のなかの万華鏡---「共感覚」のめくるめく世界
脳のなかの万華鏡---「共感覚」のめくるめく世界リチャード・E・サイトウィック デイヴィッド・M・イーグルマン 山下 篤子

河出書房新社 2010-08-24
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2011年04月03日

第五の山 パウロ・コエーリョ

聖書に出てくる賢者エリヤの物語だと本の紹介文に書いてあったので、気楽な気持ちで読み始めたが、なんと、この小説エリヤが亡命していた町がアッシリア軍に滅ぼされ、彼と残った人々が絶望から立ち上がり町を再建するという話だったのだ。
これって、なんかの符合ですかね?
自分は全く意識しないでたまには自分の好きなスピリチュアル系小説でも読むかなというノリだったんだが。
ここに書かれている数々の励ましはひょっとして被災者にはまだ辛すぎる言葉かもしれない。私は幸いにして被災してなかったからまだ読めてるが、これ、もし被災してたら冷静に読めたかどうか。
自然は非情だ。人間の感情移入などセンチメンタルのなにものでもない。
私は神の怒りwとか天罰wとか親しい人の間で冗談でいうことはあるけれども、そんなものがあるとは思っていない。神が人間に天罰を下すなら、なぜ罪のない動植物にまで禍を及ぼすんだ、あん?
おっとちょっと感情的になってしまいました。石原慎太郎氏の天罰発言に影響されちょるなこりゃ。
第五の山 (角川文庫)
第五の山 (角川文庫)パウロ コエーリョ Paulo Coelho

角川書店 2001-06
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タグ:聖書
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2011年04月02日

文鳥・夢十夜 夏目漱石

いやあ、こんなこと書くのは文豪に対して失礼なのかもしれんが、『文鳥』のラストはえええ?!って思ってしまった。家人が世話しなかったので死んでしまいました、ってどういうことですか?気が向いたときだけ可愛がるどこぞのDQNみたいでちょっと泣けた。もちろん文豪がドキュソであるわけがないと信じたいが、まあ、文鳥も三重吉さんが押し付けていったくらいに思ったんだろうな、あの手紙の文面からすると。この『文鳥』を読んだあとに、闘病記『思い出す事など』を読んで、いろんな人の死を思い巡らせ、三十分間の自分の死について思い巡らせる記述が散見されるのだけど、あなたの気まぐれで飼った文鳥のこともどうか思い出してあげてください、とお願いしたくなった次第。
ああ、なにを書いてるんだろう。まあ人間、素晴らしい長所もある反面、ぎょっとするような面も持ち合わせてる、と思ったほうがいいのだろう。

【追記 19:42】
さっきamazonのレビュー見てて、そういえばこれ、随筆でもなんでもないから本人の実体験とは限らないんだよな、ということに気が付いた。一人称の文章がすべて本人のことだと思うなよ、自分(汗

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)
文鳥・夢十夜 (新潮文庫)夏目 漱石

新潮社 2002-09
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タグ:文豪
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