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2010年10月30日

赤の書 C.G.ユング(ソヌ・シャムダサーニ編)

ユング自身が自らの無意識へ探求した様子をを一冊の本にしようとしたのがこの赤の書である。一読してそのイメージのカオスといえるほどの豊穣。借りてきた本なので熟読なしの通読だったのであるが、それでもこの本を読み終わった昨日の夜、私は盲目で杖をつきながら家の階段を下りようとしているうちに、杖を投げ出し、足を大胆にも階段へ下ろしているうちに目が見えてきて、そのうち家の中を浮かんで移動するという夢をみたほどであった。
かように強力な働きかけをする奇書というべき内容だ。無意識に潜む他者の出会い、魂との出会いとユングの自我が徐々に無意識界に慣れていってそこでイメージの変容を刻々と叙事詩的に描写しているのだが、そのインパクトは衝撃というより、徐々にきいてくる毒のようにこれから私に作用してくるのではないかという予感がしている。
心理学の本ではあるのだが、ユングが心理学者ではなく作家だとしたら文学とも芸術ともいってもおかしくない内容である。
ところどころにユングによる解釈がもりこまれてこれが文学ではなく、現象学の一種なのだとわれに返ることもしばしばであった。
書のなかでユングはしばしば自分自身の生を生きよという意味の文言を登場させている。
しかし、自分自身の生を生きるのは困難だとも書かれている。それはこの書全体を読めばわかるとおり、自分自身の生とは自分自身の理想とは違うからである。いやむしろ自分が嫌悪するものが含まれているのだ。
もし、ユングのいうとおり、人がみな自分の生を生きるために生き始めたらどうなるのだろう?
まあ、ユングも「試練」の最後の方にこんな文章を載せているのが救いかもなあ。
それどころか神々はときおり見て見ぬふりをするのを楽しんでさえいる。なぜかといえば永遠の法に例外がないのは生にとってよくないと、そもそもよくご存知だからです。したがって、悪魔にも寛容なのです。


この書のきっかけは第一次世界大戦の始まる前におこったユングを襲う幻覚であったけれども、結局私たち人間は戦争を引き起こさないでいられるためには人の悪の問題より自分の悪の問題にとりくんだほうが早そうである。道徳云々の話ではない。悪とは何か?それは悪なのかという話から始めるのだ。しかしこの書を読んだあとにはそれがどれだけ困難か、人のことにお節介するほうがずっと楽だから、人はあれやこれやと人のことにかまう、ということを思わずにはいられないのである。

序論では編者ソヌ・シャムダサーニによるユングの紹介と赤の書成立のいきさつが述べられている。丁寧な解説で初めてユングを知る人に格好の文章である。この序論が挟まれているのは大きい。
監訳者後記において、亡き河合隼雄に捧げるという文言があったが、河合先生も考えてみれば、ユングに会うことなく、赤の書を読むこともなく生涯を終えたこのすれ違い。思えば不思議なものである。
赤の書 ―The“Red Book”
赤の書 ―The“Red Book”C・G・ユング ソヌ・シャムダサーニ

創元社 2010-06-26
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おすすめ平均 star
star翻訳に費用がかかって当然だと思います。
star凄くて、妖しい存在感
star独語版にも箱などはついていないようだ

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タグ:無意識
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2010年10月24日

オランダ絵図 カレル・チャペック

ちくま文庫カレル・チャペック旅行記コレクション第5弾。
ペンクラブ大会出席のためオランダへ行ったが、滞在期間が短いことと、国があまり大きくないこともあって前の4作に比べるとボリュームに欠ける感はある。しかし多数のイラストとチャペックのユーモアあふれる描写は前作に劣らず楽しい。
オランダの自転車がいつ頃から有名だったのかは知らないが、この時代にはすでに自転車大国だったことが伺える。チャペック自身は自転車があまり好きではなかったようだが、パステル調でクリアなオランダの雰囲気や、箱庭のようにこじんまりとした街の様子には惹きつけられていたようである。
そんなオランダの風景と共に、オランダという国と民族のことを書いているのだが、私が興味を引いたのは、この小さな民族が質の良さに力を振り向けていること、それに感心したチャペックが、量の大きさを価値観とすることより、質のよさを価値観とすることへの理想を述べている。それは言外に力を武器に圧力をかけてくるような一切の物事への批判とも受け取ることができる。
これが書かれたのは1931年から32年にかけてであるが、後半オランダ旅行の話ではないがそれに関連あるものとして収録された文章にはナチス台頭とチェコ併合の危機がせまる1938年に書かれたものもある。
チャペックの生きた時代は2つの大戦に挟まれた暴力の時代でもあった。民族の多様性を保ちつつ平和に過ごせるような社会を夢見たチャペック。しかし、その社会は今だ到来したとはいえない。
彼の文章は今も古びてはいないが、それは逆にいえば悲しいことなのかもしれないと思う。
オランダ絵図 カレルチャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)
オランダ絵図 カレルチャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)カレル・チャペック 飯島 周

筑摩書房 2010-09-08
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タグ:旅行記
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2010年10月23日

読書について他二篇 ショウペンハウエル

表題のほか、『思索』『著作と文体』の二篇を収め、読むこと書くこと全般にわたり本についての辛辣な考察を述べた本である。
読書というと多く読むことがいいことであって、インターネット上でもやれ何冊読んだとか、書店へいっても、速読や本をたくさん読む方法などの指南書が並んでいたりする。
しかし著者はそのような行動について、多読は自分でものを考える力を失ってゆくと喝破する。それゆえ、読書は自分の中に湧き上がる思想が途絶えたときに試みるものなのである、と。今述べたことは『思索』の中に書かれていたのだが、つまり、ゲームに喩えるならば実際にプレイして自分で解くのではなくて攻略本に頼ってゲームを進めてゆくようなものか、なんて思ったのだった。

『著作と文体』ではショウペンハウエル先生の舌鋒はさらに鋭くなる。主義主張がはっきりして何を書きたいのか決まっていればおのずから表現は簡素で読みやすくなるものであるが、しかるに、そういったはっきりとした主張も持たず、曖昧であるとそれを糊塗しようと複雑で分りにくい文章になるという。
これは自分の経験からいってもそうだなあと思う。書くことがないのに無理やりブログを更新しようとすると後で読んで何をいってるのかわからない文章になってることがあるものな。
しかし、ショウペンハウエル先生の気炎はまだまだ上がる。最近の文筆家のドイツ語は一体なんだ!あれは!言葉を省略して微妙で繊細な違いをなくしているじゃないか。文章を簡略化しようと言葉のシラブルを省略するなど、ドイツ語の破壊だ!と息巻いているのであります。このあたり、私はドイツ語に詳しくなくとも、著者の猛烈な非難が伝わってきて笑ってしまうほど面白い。これだけ辛辣に書いてればもう間違いなく一級の罵倒芸だ。

そして、極めつけは最後の『読書について』悪書は良書に向けられるべき時間と金を奪い取っているとまで書いている。彼に言わせれば著作の大半は読者のポケットから金を抜き取ること以外に目的がなく、著者と出版者と批評家は手を結んでいるそうであるが、これって、当時のドイツだけでなくて現在でもこういって嘆く人がたくさんいそうだ。
よく練られた愚痴や罵倒はなんというか読んでて面白い。
読書について 他二篇 (岩波文庫)
読書について 他二篇 (岩波文庫)ショウペンハウエル Arthur Schopenhauer

岩波書店 1983-01
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star言葉の乱れを正す!
star自分の態度を改めようと思いました
star人生観が変わる?

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タグ:読書
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2010年10月20日

死の家の記録 ドストエフスキー

ドストエフスキーはわずかに3作しか読んでおらず、今回のこの『死の家の記録』で4作目である。しかしながら、この中に出てくるさまざまな囚人のことを読んでいるうちに、これが『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』に出てくる人物たちとオーバーラップして、なるほど、これが創作の泉なのであるな、ということを得心した。
とにかく、ロシアの囚人たちは強烈なのである。まあ、当時の刑もかなり強烈だからいきおい囚人たちもそれに対抗せざるを得なかったのかもしれないが、マフィアも顔負けの酒の密売やら、賭博やら、盗みやら流石に修羅場だなあという印象をもつ。
コミュニケーションといえば口喧嘩が多くて、もちろんいがみ合いは当たり前。でもそういったことは監獄ではなにも特別なことではないのかもしれない。
そんな人々が集まってるのだからさぞかし恐ろしくて大変なところだろうと主人公の貴族は思うのだが、彼が監獄の中で過ごすうちに、そのような外見から人間らしい姿がちらりちらりと見えてくるのである。もちろん酷い人間はいる。しかし当たり前のことであるが、一人ひとりは違う人間である。そのことが徐々にわかってくる主人公はこんなことを書いている。
ある囚人をもう何年間も知っていて、あいつは人間ではない、けだものだと思って、軽蔑している。ところが不意に、ある思いがけぬ機会に、その男の心が無意識の衝動となって表面にあらわれ、そこに思いがけぬ豊かさ、感情、まごころ、自分および他人の苦悩に対するおどろくほどの明確な理解が認められて、まるで不意にこちらの目があいたような思いで、はじめしばらくは、自分の目で見、耳で聞いたことが信じられぬほどである。また、その反対のこともある。教養がときとして、おそるべき獣性やシニスムと同居しているのである。そのために胸のむかつく思いで、それを見ては、たとえどんな善良な人間でも、どんなに先入観をあたえられても、もはや自分の心の中にその男に対する許しも、釈明もみいだすことはできまい。

犯罪は憎むべきものである。だが、この本を読んでると犯罪者は一般の人と違うのか?ということを考えずにはいられない。
ときにわたしたちは社会の規則だけで物事をすべて判断してしまいがちになり、そのむこうにある生の人間のことを忘れがちになりがちである。
いや、犯罪者を甘やかせというのではない。犯罪に対し毅然とした態度で臨むのは社会を守るのに必要なことだ。しかし、彼らが自分たちと違うと考え始めたとたんに非人間的な扱いが可能になってしまう。
このことは別のことにもいえることだ。
そういえば、主人公は自分が貴族であるという理由で他の民衆である囚人たちの仲間とは認めてもらえなかったことを苦にしていた。これは相手が自分を非人間的に扱ったわけではないので少し違うかもしれないが、かように人間を分け隔てすることは苦しみをもたらすものである。
死の家の記録 (新潮文庫)
死の家の記録 (新潮文庫)ドストエフスキー 工藤 精一郎

新潮社 1973-07
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star案外見落とされているドストエフスキーの傑作です。
star説明通りの商品
starドストエフスキー後期の作品をより深く理解する必読書。

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タグ:文学
posted by てけすた at 22:46 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (翻訳もの)| edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2010年10月18日

『秀吉の枷』『明智左馬助の恋』 加藤廣

信長の棺』に続くシリーズということで『秀吉の枷』『明智左馬助の恋』を一気読み。
『秀吉の枷』では前半闊達で野心あふれる秀吉が後半権力を握ってから過去に犯した出来事のために疑心暗鬼になったり後ろめたさからちぐはぐな行動をとる様子が描かれている。
その出来事とはこのシリーズの核となることなので控える。秀吉の伝奇っぽい出自といい結構斬新な視点ではある。といってもそれほど歴史小説を読んでるわけではないので他にあるのかもしれないが。
『明智左馬助の恋』は明智光秀の娘婿になった三宅弥平次が明智左馬助と名乗り、本能寺の変や明智一族の最期などを彼の視点から描いた作品。
前の二作の主人公が老年だったのに比べこちらは30前後と若く、他のに比べると爽やかな雰囲気が流れる。
またこれはオビにも書いてあったが、「真実は敗者の側にある」ということで作者なりの真実をこのシリーズ最後の小説で書いたということなのかもしれない。
私の感想でいえば、『秀吉の枷』のほうはちょっと期待はずれ。権力者になってからの秀吉の煩悩が大きくなったのはわかるのだが、あの出来事で他から脅されただけであんなにうろたえるだろうか?という疑問を持ってしまったのである。秀吉ならもっとうまく立ち回りそうだけどな。
『明智左馬助の恋』のほうはなんだかブラック企業に知らずに入社してしまった人間の苦渋みたいな感じでちょっと現代の出来事を過去に写したような読後感である。あの時代落城すれば自害すること頻繁だったようだが、そのメンタリティは今の日本にも受け継がれていて、なにか会社にコトあれば必ず死人がでるという風土になっちゃってるってことかねえ、なんてしみじみ思った。
どうでもいいが、光秀の左馬助に対する内孫攻撃はなにかのハラスメントですか?
秀吉の枷 (上)
秀吉の枷 (上)加藤 廣

日本経済新聞社 2006-04-18
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おすすめ平均 star
starでも面白い
starきちんと全巻読みましたがレビューはここだけに…
starエンターテイメントとして

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秀吉の枷 (下)
秀吉の枷 (下)加藤 廣

日本経済新聞社 2006-04-18
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star豊臣秀吉
star・・・
star秀吉の苦悩

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明智左馬助の恋
明智左馬助の恋加藤 廣

日本経済新聞出版社 2007-04-21
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starラブストーリーに徹すれば
starうーん。
starこれぞ文学性高い作品

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タグ:歴史小説
posted by てけすた at 20:10 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 小説| edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2010年10月14日

風山房風呂焚き唄 山田風太郎

筑摩書房の山田風太郎エッセイ集成4冊目。
この本では旅のこと、食のこと、読書のことをテーマにした文を集めている。
旅や食の話といえども、そこには山田風太郎独特の見方が反映されていて、例えば戦中派らしく団体旅行の傍若無人さと太平洋戦争を重ね合わせてみたり、イタリアびとの間の抜けた顔を見ながら戦争に負けたもの同士の親近感を感じたりとか、人間の滑稽さを自分を引き合いにだして面白おかしく語るその手法など、読んでいて楽しい。
食についても、こだわりの洒落た食について語るのではなく、あくまでも食を視点とした人間観察が主体。
読書についてのエッセイはそれほどページはないが、『世阿弥』の一文はなかなか面白い。こういう謡曲めいた出来事に遭遇すると不思議な感に打たれるなあ、なんて思ったりした。
これすごい、というようなエッセイがあるわけではないのだが、『秀吉はいつ知ったか』のエッセイ集より、山田風太郎が身近に感じられてこちらのほうが私は好きである。
風山房風呂焚き唄―山田風太郎エッセイ集成
風山房風呂焚き唄―山田風太郎エッセイ集成山田 風太郎

筑摩書房 2008-12
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タグ:エッセイ
posted by てけすた at 12:36 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 山田風太郎| edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2010年10月13日

学問のすすめ 福澤諭吉

明治のベストセラー『学問のすすめ』。「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずと言えり」で有名なあの本である。概要は人の差は学問を為すか為さないか、ということであり、独立の精神を持て、ということなのだが、いくら文明開化の時代といえども、説教ばかりではそれほど売れないと思う。これが売れたのは恐らく福澤諭吉の辛辣なる物言いと揶揄が痛快だと思う人が結構いたからではないかと想像するんだが、そんなに単純ではないかもしれん。
まあ、とにかく物議をかもし出した楠公権助論や、開化先生を徹底的に揶揄した15編、それからところどころに顔を出す漢学儒学先生への痛烈な批判、こういった憎まれ口をよくもまあ書いたもんだと感心してしまうのである。
さらに、諭吉先生の抜け目のなさというのは、解題で書いてあったのだが、当時の検閲の当務課長が何れも慶応義塾出身者であったということで、安心して書きまくったのではないかと、小泉信三氏は述べている。
ああ、こんなところばかりに目がいって、肝心の内容をちっとも覚えてない。
とにかく、『福翁自伝』に続いて、またしても福澤諭吉の人の悪さを痛感したのであった。
学問のすすめ (岩波文庫)
学問のすすめ (岩波文庫)福沢 諭吉

岩波書店 1978-01
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おすすめ平均 star
star何ども読み返して、志を高く保ちたい。
star妙に納得できる本
star個人の生き方と社会のあり方をどう重ねてゆくか!必読です

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タグ:啓蒙
posted by てけすた at 13:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 明治| edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2010年10月11日

ニコライ・ゴーゴリ ウラジーミル・ナボコフ

ゴーゴリの小説をいくつか読んでみたところでは過去記事で述べてるように「面白くてやがて悲しき」という印象をもっている。
単に面白いわけではなくてどこか悲愴な感じが見え隠れするのである。
ナボコフによるゴーゴリの評伝。
ナボコフはゴーゴリの小説が滑稽だとか諷刺だとか政治的な告発だとかいう見方について一刀両断する。
詳しい作品評は『検察官』『死せる魂』『外套』の3篇しか行なっていないが、ナボコフはこの3篇にゴーゴリの真髄を見出したのであろう。ちなみに若い頃に書かれたウクライナものについては全く興味がないとしているが、これはそうだろうなあと私も思う。先日『タラス・ブーリバ』を読んだのだが、あの不気味さはまったく見られず、コサックのめちゃくちゃぶりとかほとんど愛国心に富んだ肉体派のノリでなんだか調子狂っちゃうなあ、なんて思ったのだ。
話は戻るが、先ほどの三篇、世間でもそうだし、私もいささかながら諷刺の効いた滑稽な話という見方をしているのがほとんどではなかろうか。しかしながら、滑稽とはいえそこに手放しの陽気さや健全さは感じられない。
ナボコフは悪夢や地獄という表現を使ってこれらの作品の解説を試みようとしている。実のところ、わたくし、半分くらい何をいってるのかよくわかりませんでした(汗
しかしながら、私が感じた「悲愴」というところの部分をナボコフがより深く洞察して評を展開してるのだなということはおぼろげに感じる。
面白いか?と問われれば今の私の理解力では否と答えるしかないが、恐らくナボコフの書くものに理解を示す人ならばこの本の価値はわかるのだろうなあ、なんて思った。

あ、ところで「死せる魂」の魂がなぜ農奴を現すか、ということについて、ナボコフ自身が作成した年譜に説明があった。当時家畜が「頭」という単位で数えるように、農奴は「魂」という単位で数えられていたということらしい。なんかすごいな。
ニコライ・ゴーゴリ (平凡社ライブラリー)
ニコライ・ゴーゴリ (平凡社ライブラリー)ウラジーミル ナボコフ Vladimir Nabokov

平凡社 1996-02
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タグ:評伝
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2010年10月08日

信長の棺(上)(下) 加藤廣

「信長公記」の作者である太田牛一を主人公にして、本能寺の変で信長の遺体が消えた謎を追いかけるミステリータッチの歴史小説である。
物書きとして彼はさまざまな悩みにぶちあたる。時の権力者に婉曲な圧力をかけられておもねるような伝記を書かざるをえなくなったこととか、信長の伝記を完成させたいが、そこにまた圧力がかかって秘かに進めなければならなくなったとかいろいろだが、前半はその牛一の試行錯誤が中心となって話が進む。
それなので、これがどうやって信長の遺体探索の話に繋がってゆくんだろうなあ、と思っていたのだが、後半、見事に話が繋がって一気に読み上げた。
それとは別に、信長に対する評価が2つの面から描かれていてこちらもなかなか興味がつきない。牛一に代表される信長心酔派と、信長から酷い目に合わされた人物たちの想いはそれぞれその後の日本における毀誉褒貶激しい信長の評価そのものである。
目立つような説や逸話などはなくて手堅くまとめた感じだが、唯一秀吉の描かれ方はこれはこれで興味深いかもしれない。
(少しネタバレ気味かもしれんがこれがちょっと伝奇っぽいかも)
これには「秀吉の枷」「明智左馬助の恋」と続いている三部作のようなので、少なくとも秀吉がどのように描かれてるか、他のも読んでみたくなった。
信長の棺〈上〉 (文春文庫)
信長の棺〈上〉 (文春文庫)加藤 廣

文藝春秋 2008-09-03
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おすすめ平均 star
star評判倒れの感がありますが。。。
star信長の近臣が本能寺の変後消えた信長の遺骸を追う奇想天外の小説で、頗る面白い
star都合のよい白昼夢にげんなり。

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信長の棺〈下〉 (文春文庫)
信長の棺〈下〉 (文春文庫)加藤 廣

文藝春秋 2008-09-03
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おすすめ平均 star
star歴史小説にして第1級のミステリー小説
star太田牛一
star後世に記録を残すこと

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タグ:歴史小説
posted by てけすた at 13:23 | Comment(0) | TrackBack(1) | 本 (国内) 小説| edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2010年10月06日

反哲学入門 木田元

哲学と一口にいうけれども、自分はさっぱりその概念がわからなかった。もとより思想書などはそれほど読まないし、興味なくはないが、学校でならった思想の分類というのはよくわからなかったので自分がなにに特に興味を持てそうかということに全く鼻が利かなかったのである。
それでというわけではないがタイトルだけで読んでみようと思った今回の「反哲学入門」。
中身は哲学の批判だと想像していたが、それは当たっていた。ただし、それはすでに過去の思想人たちが行なっていたことであって、著者の木田さんは、その解説をしているのがこの本なのである。
そもそも哲学とはなにか?本書から引けば
「ありとしあらゆるもの(存在するものの全体)がなにか」と問うて答えるような思考様式、しかもその際、なんらかの超自然的原理を設定し、それを参照にしながら存在するものの全体を見るようなかなら特定の思考様式だと言っていいと思います

ということらしい。
ここで超自然的原理、という言葉が出てくるが、これがなんと聞いてびっくり見たら驚き、いわゆる「イデア」とか「神」とか「理性」とかいってるものの総称らしいのだ。
ちょ、神ですか?
つまり、どういう言葉にしろ、この世界から超越した視点から存在を問うということであって、「イデア」とかならなんとなくそうかなあ、って感じなのだけど、「神」の視点というとちょっと私には理解できない世界になる。
すなわち、哲学とは結果的に一神教の考えとシンクロするもので、日本人に哲学がわからないというのもなるほど、ということなのだ。
そして、もう一つ重要なことは、その伝統的な考えをひっくり返そうとしたのがニーチェであって、以降、ハイデガーにいたって「反哲学」という言葉が使われだしたとか。
ニーチェやハイデガーも哲学の部類に含まれているが、本当は違うものであって、そこを一緒くたにするから哲学が分りにくいものになるのだ、というようなことを木田さんはおっしゃっていた。
説明が長くなったが、つまり本書はそこに至るまでの哲学史を一般人読者にも分りやすいような形で述べているのである。
いや、なかなか私のような門外漢でも面白く読めた。今まで取っ掛かりがなくて哲学書を読んでもいまひとつピンとこなかったのだが、これからはこの木田さんの説をひとつ手がかりになにか読んでみたいと、かように思った次第で。
反哲学入門
反哲学入門木田 元

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おすすめ平均 star
star寛容さへ向けての一里塚
star同郷なので読みました。
starハイデッガーの思想(アンチ西洋哲学)を述べる本

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タグ:思想
posted by てけすた at 12:40 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 小説以外の著書| edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2010年10月02日

剱岳〈点の記〉新田次郎

この間映画化されたのがきっかけでこの本を知り、そのうち読んでみようと思っていた。というのも『八甲田山死の彷徨』がかなり面白かったからだ。
陸地測量部の柴崎芳太郎測量官がまだ未踏の剱岳の登頂を成功させて欲しいと上層部にいわれて、挑戦する物語。立山信仰では登ってはならない死の山だと言われているし、実際に登るにしてもルートがまるで見つからない、そんな難しい山ではあるが、折りしも去年できた山岳会との競争を煽られた形で彼をはじめとする測量隊は奮闘する。
その奮闘振りが山に詳しい著者の筆で迫力満点に描かれていて、山にあまり詳しくなくても興味深く読める。

ところで、私、新田次郎は2冊目であるが、彼の本に出てくる敵役というか悪役の挙動とセリフがツボを直撃してくれる。
『八甲田山〜』では五聯隊にくっついてきたお偉方の状況を無視した傲岸なセリフ
確か「貴様は駄賃が欲しくてそんなことを言ってるのだろう」という感じだったか、そこでもうあまりのベタさにうれしくなったし、今回の、立山温泉に泊まってる富山県の土木課から出てきた役人の「苦労してるのは、こっちだって同じことだ。そんなことが部屋をよこせという理由になると思うのか…(以下略)」という威張りくさった態度もまたベタすぎてもう楽しくてしょうがない。
思うに、著者は昔気象庁という役所に勤めてはいるが仕事内容は自然を相手にしていたことで、現場を知らない役人たちの理不尽な官の論理というものに悩まされたことが結構あったのではないか、なんて想像したくなってしまうのである。
本筋とはあまり関係ない話ですいません。
劒岳―点の記 (文春文庫 (に1-34))
劒岳―点の記 (文春文庫 (に1-34))新田 次郎

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おすすめ平均 star
star公式「点の記」に代わる実録資料だ
star映画よりずっと良い
starさすが新田次郎作品!

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タグ:戦い
posted by てけすた at 20:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 小説| edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2010年10月01日

山田風太郎3冊

山田風太郎3冊読んだのを簡単に。

『自来也忍法帖』
自来也の正体がわかるようでわからなさそうな微妙なところがなんともいえない。山風にしては珍しい勧善懲悪モノになるのかな。
虚無的な方が好きな向きにはつまらなく感じるかもしれないが、忍法のセクシャル度は結構高いほうではある。
自来也(児雷也)の話を知らないのは残念だ。自分はもっといろんなものを読まないと山風の小説の面白さの半分も堪能できんぞ。
自来也忍法帖
自来也忍法帖山田 風太郎

文春ネスコ 2003-02
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おすすめ平均 star
starエロ忍法炸裂!
star歌舞伎級の面白さ
star珍しい勧善懲悪モノ

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『天狗岬殺人事件』
出版芸術社から出ていた未収録短篇集を角川が文庫にしたもの。解題において日下さんが「落穂ひろい」という表現を使っているが、ほんとに落穂とは思えないくらいの出来。
伊皿子未香シリーズも極めていけば一冊の本になりそうだし、「贋金づくり」もなんとも人を食ったような掌編。
天狗岬殺人事件 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)
天狗岬殺人事件  山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)山田 風太郎

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『幻妖桐の葉おとし』
「乞食八万騎」を読みたくて古本屋で購入。今で言う差別用語がたくさんでてくる小説ではあるけれども、この体制側から貶められた階層が活躍する話はなんとも皮肉の効いた結末であって手を打って喜びそうになったし、と同時にじわっと涙が出てきそうになった。
他5篇は既読。
幻妖桐の葉おとし―山田風太郎奇想コレクション (ハルキ文庫)
幻妖桐の葉おとし―山田風太郎奇想コレクション (ハルキ文庫)山田 風太郎

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