2010年06月30日

ナボコフのドン・キホーテ講義 ウラジーミル・ナボコフ

本書はナボコフがハーバード大学で行なった『ドン・キホーテ』の講義について、残された原稿やメモからそれを再現したものである。最初に編者がどのように編集したかを述べ、次に講義の再現、最後にナボコフによるドン・キホーテの要約が収められている。
ナボコフはドン・キホーテに寄せられてきた慈悲深い、ユーモアのある物語だという評価を手厳しく批判している。彼によればこの物語は近代人から見れば冷酷ないじめにしか見えないというのである。ドン・キホーテをあまり好きでなかったナボコフはそこでこの物語を徹底的に解体してやろうと細かく読み始めたのだが、意外にも主人公ドン・キホーテに芸術を見出す。リア王や受難のキリストになぞらえる部分が幾度かあり、最終的にドン・キホーテのもつ旗じるしを美と位置づけたのだった。
確かに、ドン・キホーテの心栄えは実に素敵だと私も読んでいて思ったことではある。しかしながらそれ以上にナボコフが面白くないとかつまらないとか残酷だといったドタバタの部分のほうに気をとられてその美を感じとることができなかった。
後半、ナボコフによる要約では面白い会話を中心に引用されている。この要約だけ読むと、全部を読んだときに受ける、滑稽でばかばかしい印象の代りに、かなり洗練された機知に富んだ小説に見えてくるのが凄いと思った。
作家の目とは恐ろしいものだな。
ナボコフのドン・キホーテ講義
ナボコフのドン・キホーテ講義ウラジーミル ナボコフ Vladimir Nabokov

晶文社 1992-07
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おすすめ平均 star
starコツコツと読み解く末の評価

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ラベル:文学論
posted by てけすた at 20:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (翻訳もの) | 更新情報をチェックする

2010年06月28日

累犯障害者 山本譲司

前著『獄窓記』で障害をもつ受刑者のことに著者は触れていたが、今回の本はそのあたりのことをもう少し突っ込んで、触法障害者について取材したものをまとめたもの。下関駅放火事件やレッサーパンダ帽で有名になった浅草の女子短大生刺殺事件などは記憶に残っている方も多いだろうと思うが、単独の犯罪だけでなく、障害者が冤罪にされるところだった誤認逮捕事件や、ろうあ者だけで組織されてる暴力団の存在についての文などもここには収録されている。
一読して思うのは、私を含めて世間がいかに無理解であるかということだ。私は以前最近の裁判では弁護人が被告の精神状態を盾に責任能力の如何を問うことがけしからんと思っていたのだが、本当のところ、自分はなにも知らないではないか。ただ、一般人を基準に物事を即断しているに過ぎない、と反省させられる想いであった。そして本書を読めばわかるようにこれは何も私だけではない。
特に軽度の知的障害では一瞥しただけではわかりにくいために、反省の色がないとか、平然としているとか、あらぬ誤解をされがちである。そもそも、彼らは自己弁護の能力が低いために、普通なら不起訴になるような犯罪で実刑をくらって刑務所に入ることが多いともいうし、軽度であることが災いして福祉の対象から外れているという状況もある。
またろうあ者に関していえば、聴者とのディスコミュニケーションが悪く作用しているようだ。彼らとは言語が別なのだという認識がわれわれにはないために、誤解が生まれる。
彼らを社会から落ちこぼれさせないような体制づくりは大切なことである。結局のところ、犯罪とはお互いを理解しないところからくる重大な齟齬なのだということを彼らのことを通じて知るのならば、これは障害者だけの話なのではなく、一般人といわれる犯罪についても同じようなことはいえる場合が出てくるのではないか。
ユーゴーはレ・ミゼラブルを書いたけど、これは日本のレ・ミゼラブルである。
累犯障害者 (新潮文庫)
累犯障害者 (新潮文庫)山本 譲司

新潮社 2009-03
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おすすめ平均 star
star見捨てられた人々
star彼の訴えることは知らないことばかりだった
star障害者の犯罪はセーフティネット(福祉行政)がしっかりしていれば未然に防げる

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posted by てけすた at 12:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 小説以外の著書 | 更新情報をチェックする

2010年06月26日

妖説忠臣蔵 女人国伝奇 山田風太郎

徳間文庫の山田風太郎妖異小説コレクション覚書
『妖説忠臣蔵』…忠臣蔵を題材にした裏話的な時代小説の短篇集。小説は全部で七篇。
「行燈浮世之介」…貞享3年吉良上野介が何者かにさらわれた。それを追うお慶は行燈浮世之介という若者に助けられる。
「赤穂飛脚」…お銀という女を頭にした飛脚を襲う6人組がひょんなことから赤穂の使者のじゃまをするように頼まれるのだが、お銀だけがそれを拒む。
「殺人蔵」…太夫の狙撃事件があった。そのやり口からして赤穂浪士の仲に裏切り者がいるというのだが。
「変化城」…世が赤穂浪士への同情が高まってる頃、吉良は上杉の領地へ匿われることになり出立するが、何者かが執拗に付け狙う。
「蟲臣蔵」…吉原に入りびたりの同士を田中貞四郎は叱咤する。さらに太夫の態度にも疑問をもつのだが。
「俺も四十七士」…5人の男がとある家で共同生活を始める。下男の喜十郎は他の4人がモテることにうんざりしていたが。
「生きている上野介」…討ち入りがあった次の年の夏。吉良の幽霊が出るとの噂がたつ。

「赤穂飛脚」は読み応えあり。清水一学とお銀の関係がなんともいえず哀れを誘う。赤穂の使者たちを狙う5人の賊の描かれ方は忍法帖みたいにばかばかしくておかしい。

『女人国伝奇』…吉原の松葉屋という店を舞台にした連作短篇集。
「傾城将棋」…花魁薫に蜀山人がある商人をつれて来た。彼は野暮を通して吉原に監禁されてる弟を救いにきたのだが、その後薫と張り合うような会話を聞かれて、薫はその商人にひと泡ふかせようとたくらむ。
「剣鬼と遊女」…妖しげな薬を飲ませようとする老人、その老人は小稲に処刑の様子をとくとくと語るのだが。
「ゆびきり地獄」…指を集める遊女、勝小吉はひょんなことからその真相を探ることに。
「蕭蕭くるわ噺」…鉄砲見世に現れた侍嫌いの男が、侍の娘だという女郎の身の上話を聞き人肌脱ごうとするが。
「怪異投込寺」…投込寺の老人は彼がやってくると数日のうちに人死にがでると噂される。葛飾北斎がどこかで彼を見たような気がするという。
「夜ざくら大名」…若き水戸の斉昭を藩主にさせないための陰謀が。河内山宗俊や金さんも出てきて大活躍。

吉原には人間模様があるので面白い。蜀山人を初めとしていろんな有名人が出てきて虚実錯綜の物語が繰り広げられるのは後年の明治小説に通ずるものがある。「夜ざくら大名」なんかはかなり面白いです。

この2つの連作短篇集はいくつか文庫本も出ていたが、現在はどれも売られてないのが残念。
山田風太郎妖異小説コレクション 妖説忠臣蔵 女人国伝奇 (徳間文庫)
山田風太郎妖異小説コレクション   妖説忠臣蔵 女人国伝奇 (徳間文庫)山田 風太郎

徳間書店 2004-02-05
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ラベル:時代小説
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2010年06月24日

君主論 ニッコロ・マキアヴェリ

目的のためには手段を選ばないといった意味合いで使われるマキアヴェリズムという言葉ではあるが、実際に君主論を読んでみるとマキアヴェリは実に細かく君主が国を治めるさまざまな場面を想定しており、特に全体的には不満分子をいかに押さえて統治するか、ということが主眼となっている。手段を云々、というのは君主の行動は結果しかみないのだから、ひたすら戦いに打ち勝ち国を維持してほしい、ということが書かれているのであって、手段を選ばないことを推奨しているわけではないのである。
それはさておき、当時イタリアが都市国家に分裂している点、さらにフランスとイスパニアの侵略を受けているという、政治的には混乱した時代に統一を果たしてくれそうなメディチ家の人物へ献辞しようと書かれたことを念頭に入れておくと、残忍だと思われる部分が出てくるのもうなづける。

君主は愛されることも大切だが恐れられることも必要だとする。しかもどちらか一方しか得られないのであれば恐れられるほうが安全だというのである。考えてみれば愛される、ということは常に受身であって愛するほうが常に主導権を握っている。愛されることをたのみにしているといつ気が変わってはしごをはずされるかわかったものではないのである。実際マキアヴェリはこう書いている。
元来人は邪悪であるからたんに恩義の絆で繋がれてる愛情などは自分の利害がからむ機会が起きれば、すぐにでも断ち切ってしまうものだからである。だが、恐れている者に対しては処刑の恐怖でしっかりと縛られているので決して見殺しにできないのである。

とはいえ恨みは買ってはならない。このことはしばしば実例を上げながら注意を喚起している。
過去の事例と大衆心理についての鋭い洞察力はなかなか面白い。日本の戦国時代を考えて君主論をあてはめてみるのもまた一興。信長は恨みさえ買わなければうまくいったかもしれないとか。

(私が読んだのは古いほう)
君主論 (中公文庫 D 16)
君主論 (中公文庫 D 16)マキアヴェリ 池田 廉

中央公論新社 1975-03
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おすすめ平均 star
star安価で充実の書

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現在の中公文庫版
新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)
新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)ニッコロ マキアヴェリ Machiavelli

中央公論新社 2002-04
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おすすめ平均 star
star痛快です
star人間性の本質を抉る、鋭い洞察の書
star二項対立的に考えるのは誤り

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ラベル:政治
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2010年06月22日

陰翳礼讃(中公文庫) 谷崎潤一郎

中公文庫には、表題の「陰翳礼賛」、無為のことについての随筆「らん(リッシンベンに束に頁)惰の説」、色気について「恋愛及び色情」、訪問客と会うのが億劫になった次第のこと「客ぎらい」、無名の場所やゆっくりした汽車を楽しもうという「旅のいろいろ」、日本式の厠の風情について書いた「厠のいろいろ」が収録されている。
最初の三篇については西洋と東洋の違いから説き起こして日本的な美について語る。金ぴかの蒔絵やうち掛けが陰りの中でこそうっすら輝いて映えるということなど、なるほどなあと思った。
ところで、西洋の有色人種差別のことに触れ、これはいくら白くても白人に混じるとそこに一点薄墨のしみが出来たようでわれわれ日本人からみても一種の眼ざわりのように思われ、あまりいい気持ちがしない、そこから排斥の心理が頷ける…、というところから始まり、アメリカの混血児差別の話へ進み、彼らの執拗な眼は、ほんの少しばかりの色素がその真っ白な肌の中に潜んでいるのを見逃さなかった。といった内容の一連の文章を読んで、フォークナーがあれだけこだわった白人と黒人の混血について、それがなぜなのか腑に落ちる思いだった。本を読むということはどこで謎の解明に繋がるかわかりません。
「客ぎらい」では最初、猫のしっぽの話が出てくる。猫は呼ばれたときに億劫であると鳴く代わりにしっぽを少し振る、という話なのだが、そこから、思案中だったり取り込み中で返事をするのが面倒なときに、猫のしっぽのようなものが自分にもあればいいな、などと思うのである。この発想はちょっと可愛いぞ、谷崎さん。
陰翳礼讃 (中公文庫)
陰翳礼讃 (中公文庫)谷崎 潤一郎

中央公論社 1995-09
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おすすめ平均 star
star陰影礼賛の心
star日本の美意識
star家なんか建てちゃう人は一度読んでみては

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ラベル:随筆
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2010年06月21日

ロリータ ウラジーミル・ナボコフ

あまりにも有名なので内容はいまさらな感じもするが一応書いておくと、思春期前後の少女に情熱を感じてしまう男がロリータという少女をその生きがいとも頼み生活した手記という体裁で話は進められてゆく。教養あるこの男ハンバート・ハンバートは手記で文学上のさまざまなたとえを用い、あるときは酷い諧謔で、あるときは皮肉っぽいたとえで、彼と少女をとりまく社会を表現していて、まったくその様子は厭世主義者としか思われない。だからといってこの小説が良識という名の決まりごとに満ちた社会を諷刺しているとか、そんなことは全然感じられなくて、当然のことながら彼自身の反社会的ともいえる欲望へのこだわりに多大な文章を費やしており、人間個人が持つ重荷について何かしら読むことになる。
うまいな、と思うのはこれが単なる告白で終わるのではなく、途中からミステリーめいた謎が登場して彼を翻弄することである。ロリータとの関係に終始するだけでは最後まで読み通すのが大変だと思われるものも、このミステリーが登場することによって、再び先が気になる状態へと読者を導くのである。
それにしても、あとがきで書かれていたのだが、アメリカの出版社の一つが登場人物を少年にして同性愛仕立てにしたらよい、という提案にはちょっと呆れた。あきらかに、自分たちとは係わり合いのない領域に閉じ込めてこれを一種の見世物とする意図が感じられて、ちょっといやな気分になった。もっとも、そんなことを思ったのも、私の中に同性愛差別があるからだということもできるけれども。
ロリータ (新潮文庫)
ロリータ (新潮文庫)ウラジーミル ナボコフ Vladimir Nabokov

新潮社 2006-10
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おすすめ平均 star
starう~ん、メッセージ性は強いんだろうなあ・・・・・・
star日常性に於ける文学の位置
star絢爛豪華なタペストリー

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ラベル:芸術
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2010年06月19日

さまよえるユダヤ人 ウージェーヌ・シュー

解説によれば、シューは19世紀、新聞連載小説で成功した作家であり、世界的流行となった新聞小説の濫觴となったということである。この「さまよえるユダヤ人」もそうした新聞小説の一つ。
新聞に限らず連載小説というものは毎回読者をあきさせない工夫がいる。本ではそれほど気にならないダレ場も連載で細切れで読んでいるとえらく気になるものである。
そういう意味ではこの小説、実に起伏があり波乱万丈で読むものをあきさせない。
内容はメダルをめぐって登場人物たちが陰謀に知らず知らず巻き込まれてゆくというもの。その陰謀たるや、実に不愉快で読む人間をはらはらさせる。この種の話はどんな時代でも結構受けるものだ。
実にフランスらしいな、と思ったのは陰謀の描かれ方が宗教的偽善の告発みたいな感じになってること。さすがに革命を経てきただけあり、自由への渇望は政治だけではないのであった。
ところで、私はなぜいきなりこの本を読み始めたかというと山風の小説で「さまよえるユダヤ人」という言葉を目にしたばかりだからであった。私はその言葉を知らなかったのでたまたまこの本を目にして、関係あるのかと読み始めた次第。実際のところはこの小説のことではなくて、キリスト受難伝説の一場面の話らしい。この本の注釈が出てたのでそれを引用すると
さまよえるユダヤ人はエルサレムの貧しい靴屋であったという。十字架を背負ってその職工の家の前を通りかかったキリストは門口の石の腰掛の上にしばらく休ませてくれと頼んだ。「歩け…歩け…」とユダヤ人は彼をすげなく追っ払いながら答えた。すると「そういうお前こそ世の終りまで歩きつづけるだろう」とキリストは彼に言った。

まあ、そんなこんなで表題にもなったさまよえるユダヤ人なんですけど、彼自身はご都合主義で体よく使われてるのがなんとも大衆小説らしい。
さまよえるユダヤ人〈上巻〉 (角川文庫)
さまよえるユダヤ人〈上巻〉 (角川文庫)ウージェーヌ シュー 小林 龍雄

角川書店 1989-06-05
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star19世紀のベストセラー

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さまよえるユダヤ人〈下巻〉 (角川文庫)
さまよえるユダヤ人〈下巻〉 (角川文庫)ウージェーヌ シュー 小林 龍雄

角川書店 1989-06-05
売り上げランキング : 540872

おすすめ平均 star
star意外な展開

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ラベル:大衆小説
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2010年06月17日

山田風太郎忍法短篇全集11、12(ちくま文庫)

山田風太郎2冊まとめて。

『お庭番地球を回る』
山田風太郎忍法短篇全集11の覚書。
「お庭番地球を回る」…日米通商条約交換のためアメリカに使節が派遣される。その中に公儀お庭番だった人物が派遣される一行のお目付け役として同行した。アメリカ側のショック大尉は彼の離れ業を見るたび瞠目する。
「怪談厠鬼」…お庭お目見えのために準備していた娘が長引く愛妾たちの質問に小用を足すことができなくなり、粗相をしてしまう。彼女は小便組と疑われて厠につながれるが、そこでしる真相は。
「さまよえる忍者」…滝川左近の末裔右近は水晶の玉を見つめるという忍者修行をさせられていた。ばかばかしく思っていたがやがて交合を介して人に乗り移れるような術ができるようになり、彼はやってみたい無責任な行為をしてみようとする。
「読淫術」…うらぶれた伊賀甲賀組が性に纏わる人体の見抜き方を首領から教わり内職を始めるが、それが結構評判になる。やがて将軍お世継ぎのことにまで関わるようになるが。
「忍法死のうは一定」…本能寺の信長が絶体絶命の中、果心居士が現れて、女性の胎内へ入って逃げる術をかけよう、という。しかしその術は再び生まれてくるときに人生のすべてを見てしまうのであった。さて信長は。
「怪異二挺根銃」…津軽の忍者に思うところあって男根が2本あればよいと考える人物がいた。時は流れ三百数十年後、津軽と南部はまだ宿怨の糸で繋がれていた。北の守りを固めたい幕府としてはここに田安家の息女を2つの藩に入れて和解させようと考えるが。

全体として忍者の必要とされなくなる時代の話が中心であるので、出てくる伊賀甲賀の忍者たちもそこはかとない哀愁が漂っている。しかし、このうらぶれたりばかばかしく思ったりする末裔たちがなんとも面白いのであった。
巻末に未収録エッセイとして「忍法金メダル作戦」収録。東京オリンピックで選手たちが勝つための忍法を面白おかしく書いている。かなりくだらないが山風は意外とこういう企画が好きだったのだろうか?
山田風太郎忍法帖短篇全集11 (ちくま文庫)
山田風太郎忍法帖短篇全集11 (ちくま文庫)山田 風太郎 日下 三蔵

筑摩書房 2005-02-09
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『剣鬼喇嘛仏』
山田風太郎忍法短篇全集12の覚書。
最初の七篇は徳間文庫版と同じなので、そちらの記事をどうぞ。
剣鬼喇嘛仏(徳間文庫)
ちくま文庫ではあと二篇収録されている。
「筒なし呆兵衛」…大盗大鳥呆兵衛が捕まっているが彼は拷問などものともしない。そのまま処刑されそうになったとき、東照大権現と謎の方法で体中に書いて、そのまま延期される。この書かれた方法が実は忍法なのであった。彼の履歴は?
「開花の忍者」…明治になり外国人が日本に住むようになったが、ミラードという貿易を牛耳ってる人物が非道この上ない。その屋敷に3人の門番がいた。実は彼らは伊賀者だったのである。いつか渡航するため、その屋敷でじっと我慢しながら勤めていたのだったが、そんなある日、彼らのマドンナというべき女性がミラードの元へやってきた。彼らは彼女を守ろうと、忍術を使うが。
剣鬼喇嘛仏―山田風太郎忍法帖短篇全集〈12〉 (ちくま文庫)
剣鬼喇嘛仏―山田風太郎忍法帖短篇全集〈12〉 (ちくま文庫)山田 風太郎

筑摩書房 2005-03
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ということで全巻読み終わりました。
現在はバラでは売ってないのだけど、セット売りはしているので、そちらも貼っておきます。
山田風太郎忍法帖短編全集 全12巻
山田風太郎忍法帖短編全集 全12巻
筑摩書房 2009-08
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ラベル:忍法帖
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2010年06月15日

憂い顔の童子 大江健三郎

童子というと子どものことだが、確かそもそもは前髪を下ろさない人々のことを指していて、転じていろんな意味で社会の役割から自由な人々のことをいうようになったんだと思ったな。
小説の中では童子は森の中にずっと住んでいて危機が訪れると救いにやってくる存在として定義されてるが、また古義人がコギーに見捨てられ、自分は童子として選ばれなかったという慙愧を胸に森へ帰ってきたのは老いを迎えるにあたって再び自分が社会の役割から自由になって存在したいという願いを秘めているのか。
『ドン・キホーテ』がこの小説では重要なテキストとなっていて、古義人の森への生活がドン・キホーテの冒険になぞらえ、比較されながら話は進んでゆく。
うかつなことに私はこの小説を読んで、ドン・キホーテの話が、社会の役割から離脱し自分自身を総括するための老年冒険を語っているのだということに初めて気が付いた。ドン・キホーテを読んだときは単なる面白可笑しい騎士道バロディだとしか思わなかったものな。
ところで、この小説の前に私は『水死』を読んでしまっているが、『水死』における老いの問題がまったなしなのに比べ、こちらはそれより若いのでドン・キホーテのような冒険になってしまうのだね。なんて思いながら読んでいた。
シニアの読書方法として提案していた「読み直す」ということ。筋を追うのではなく、言葉の森をさまようこと。人生もまたそれと同じなのかもしれない。
今言った読み直すこととは直接関係ないけれども、またドン・キホーテを読みたくなってきた。
憂い顔の童子
憂い顔の童子大江 健三郎

講談社 2002-09-30
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おすすめ平均 star
star深い森を探索するように
starちょっとした希望とユーモアと
star大江健三郎、渾身の近作

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憂い顔の童子 (講談社文庫)
憂い顔の童子 (講談社文庫)大江 健三郎 リービ 英雄

講談社 2005-11-15
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star深い森を探索するように
starちょっとした希望とユーモアと
star大江健三郎、渾身の近作

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ラベル:文学
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2010年06月10日

神々は渇く アナトール・フランス

前体制の圧政、もしくは腐敗が深ければ深いほどその反動は大きくなる。王政を倒したフランス革命はやがてロベスピエールの独裁という形になって現れるが、この小説はこの時期共和制に深く傾倒し、やがて陪審員となるエヴァリスト・ガムランという青年と、彼をとりまく人々の行方を描いたものである。
次々と被告を断頭台へ送るエヴァリストの行為を、彼自身はきわめて確信的であり、裏切り者を一人残らず粛清しようとするその姿勢を、深いため息を起こさずにはいられない。なぜなら彼はそのためならば自分の血さえ流してもいいとまで思いつめてゆくのである。もちろん彼自身も自分が非人間的なところまで来てしまったことは知りすぎるくらい知っていた。実際、彼のような人物の行いを誰がどう止めることができよう?
そんな彼をエヴァリストと対照的なもと成金貴族のブロトは「彼は物なのです」と人に忠告する場面があった。ブロトは無神論者でエピキュリアンであり、ルクレティウスというローマの詩人、哲学者を好んでよく読んでいる。彼は今では操り人形を作って生計の一助としているが、こんなことをいう。
―この中にはたくさんの操り人形が入ってます。これはわたしの被造物で、はかない肉体をわたしから貰っているのです。喜びと苦しみを免れたはかない肉体を。わたしはこれらの被造物に思考力は与えなかった。というのもわたしは恵み深い神だからです。(P18)
無神論者の彼はある日神父を匿いはじめるが、それは決して相手のためとかそんなことをいうのではなくて、利己主義から助けたという、そんな人物なのである。
恐怖政治は猛威を振るいブロトも飲み込んでいった。
人民の幸福を願い革命は行なわれたはずなのに、人の命の軽さよ。この逆説的な展開に信条に囚われた人々の恐ろしさを見ることができるし、ブロトの操り人形を評したその皮肉が心に響いてくる。
神々は渇く (岩波文庫 赤 543-3)
神々は渇く (岩波文庫 赤 543-3)大塚 幸男

岩波書店 1977-01
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おすすめ平均 star
star《時代の狂気》を描破
star狂信を戒めた先見性に今一度光を!

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ラベル:歴史小説
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2010年06月09日

カルメン プロスペル・メリメ

表題作『カルメン』に見られるように、どの短篇も劇的な内容になっている。以下、収録作品の覚書。

『カルメン』…原作では主人公は考古関係で旅をしている人物で、彼がホセと出会って恩を売り、というと言葉は悪いが、とにかくホセは主人公に恩義を感じて信頼し、主人公もまた悪評に関わらず、ホセのことを好ましく思う。そしてホセが処刑されることになる前に聞いた話がカルメンとのいきさつという構図になっている。カルメンは気まぐれに見えるが実は彼女なりの筋の通し方があった。この点が彼女の魅力なのである。

『タマンゴ』…奴隷船での反乱の話。同じ土地の人間を売るタマンゴが自分も奴隷として売られることになってしまう。そこで彼は船の中で反乱を起こして、それはうまくゆくのであるが。
単なる反乱だけに終わらないところが流石だと思う。これ現実社会に置き換えて考えるのは浅はかだとは思うんだが、どうしても考えてしまうんだよな。社会の仕組みを知ることは大切。

『マテオ・ファルコネ』…漂流2009.6.7で筒井さんが詳しく紹介。マテオ・ファルコネという土地の有力者の息子フォルチュナートが匿った人を売り渡したために制裁されるというとんでもない劇的展開。もうなにもいうことはない。

『オーバン神父』…聖職者を諷刺したと思われる作品。オーバン神父と交流のあった婦人が友人へあてた手紙という形式で話は進む。婦人の自惚れも凄いがオーバン神父もとんだ食わせ者。

『エトリュスクの壺』…社交界で好かれないというオーギュストの恋物語。恋には嫉妬と疑念がつきものとはいえ、これもまた劇的結末。なんでもオーギュストはメリメ自身がモデルだとか。とはいってもメリメ自身は嫉妬するより、嫉妬される立場だったそうで。

『アルセーヌ・ギヨ』…信心深い夫人が教会で貧しい女を見かける。彼女のことがなんとなく気がかりに思っていたのだが、その彼女が大きな不幸に見舞われ、夫人が世話を引き受ける。貧しい女の不幸の一つに恋に破れたことがあったのだが、その相手が夫人の親戚で、実は彼は夫人に恋をしていたのであった。さて夫人は彼の思慕をどうしたか。
私には少しわかりにくかったのだが、当時の夫人たちの諷刺と考えてよいものなのか?恋は信仰も打ち破ると考えてよいものやら。
カルメン (新潮文庫 (メ-1-1))
カルメン (新潮文庫 (メ-1-1))堀口 大学

新潮社 1972-05
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おすすめ平均 star
star簡潔の美しさ

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ラベル:劇的
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2010年06月07日

夜明け前(全4巻) 島崎藤村

青山半蔵。国学を学び、時幕末においていろいろ国事のことに奔走したいと思いつつ、庄屋本陣問屋という地域の取りまとめ的な家業をうっちゃることができない。その屈託した人生と同時に幕府瓦解から明治維新という動乱期を叙事詩的に描いたこの小説は、いまさらいうまでもないが個人と、そのとりまく環境を詳細に描いてある種普遍的な人間と社会の関係を浮かび上がらせている。
国学へ傾倒した半蔵。黒船来航から攘夷開港と揺れ動く世間の中で、彼は新しき古い代、すなわち武家社会になる前の親政の時代の復古を夢見て奔走する。それは長年一地域の世話役という立場から民衆が圧迫される封建社会への疑問と批判からの行動ではあるが、御一新になったときに、彼の願いは叶ったのか?
読んでいて、民衆と体制の齟齬は埋める事のできない深い溝があるのだと感じられずにはいられなかった。半蔵はまさにこの溝を埋めたいといつも願っていたのではある。
ところが、この純情な半蔵の想いとはうらはらに民衆は新体制に冷淡、生活はますます圧迫される、国学そのものも古いものとして捨て去られてゆく。半蔵の人生はいったいなんであったのだろうかと思わずにいられない。動乱を起こす武士たちの視線からではなく、受身の民衆側にたつ視点で書かれた幕末~維新の庶民生活への影響というものもうかがえて、もし今自分の住んでる国が内乱や無政府状態になったとしたら。そんなことが身につまされるようでもあった。
夜明け前 第1部(上) (岩波文庫)
夜明け前 第1部(上) (岩波文庫)
岩波書店 2003-07-17
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おすすめ平均 star
star情報と人間行動
star奔騰する時代の波の中で
star希望と不安の夜明け前 第一部(上・下)

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夜明け前 第1部(下) (岩波文庫)
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star夜明け前(第1部)上下を読んで

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夜明け前 第二部(上) (岩波文庫)
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岩波書店 2003-08-20
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starレ・ミゼラブルを想起させる構成

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夜明け前 第二部(下) (岩波文庫)
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star散切り頭を叩いてみれば・・・

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ラベル:歴史小説
posted by てけすた at 13:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 明治 | 更新情報をチェックする

2010年06月03日

野火 大岡昇平

フィリピン戦線において、敗北が決定的になったために隊が機能しなくなり、非常に過酷な状況の中を生き延びなければならなくなった田村一等兵。この状況に投げ出された主人公が恐怖と飢えに苦しめられながら彷徨してゆく様が刻々と描かれていて、息を呑むようにして読んだ。個人の願望がほとんど剥奪されるような戦場下ではエゴイズムがむき出しとなるのは想像できるが、この小説で述べられているのは、曲がりなりにも隊といいう社会を失い、孤独な状況で物事に対処しなければならなくなったひとりの人間が、敵対する社会へ紛れ込むことについての問題だったり、道徳の問題として直面する事態だったりすることである。
孤独でも敵意のある人間といつ遭遇するかもしれないという状況では何もない孤独よりもさらに道徳の問題が先鋭化する。このことはロビンソン・クルーソーの話と比べて明らかである。
そこで人は獣になってしまうのだろうか?
だが、主人公の結末はあまりにも獣とは程遠いものであった。
果たして人間はどこまで人間なのであるか?究極の困難な状態では皆が獣になってもおかしくはないが、さりとて全ての人間が自ら課している戒めを破るようなことはないというのもまたあるものだとも思う。
野火 (新潮文庫)
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star大東亜戦争を語る上での基本テキストの一つ
star我々は何者であるのか
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ラベル:戦争
posted by てけすた at 13:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 小説 | 更新情報をチェックする

2010年06月02日

運命 幽情記 幸田露伴

『運命』は明の建文帝から叔父の燕王が帝位を簒奪する様子を描いた作品だが、なぜに運命というタイトルなのかといえば、この作品の冒頭に「世おのづから数というもの有りや」となっていることからでもわかるように、一面的な権力闘争ではなくて、簒奪する側される側の不可思議な人生の動き、このことを描いたからだと思う。
格調高い漢文脈はなかなか容易には読み勧められないのだが、中国の奇書のような面白さとそしてまさしく登場人物たちの運命の不思議さに引きずられ、最後までなんとか読み通すことができた。といっても半分も理解してるかどうか(汗
血族の尊卑と国家の身分の上下が錯綜したがゆえに起こった闘争に、建文帝も板ばさみになるなど、いろいろ複雑な要素がある。だからこそ数(すう)とか運命という言葉が重みを持ってくるのかもしれない。もっとも「測り難きの数を畏れて、巫覡卜相の徒の前に頭を附せんよりは、知る可き道に従ひて、古聖前賢の教の下に心を安くせんには如かじ」というのはまことその通りだと思う。

『幽情記』は詩や詩人にまつわる「情」についてのいろいろな逸話を集めたもの。ここに出てくる女性たちのほとんどが才媛であり詩に優れていて、情緒纏綿たる話ばかりである。「幽」とはぼんやりと微かなということだが詩にたくされた情をかすかに覚えるような物語を読むにつけ、漢詩はあまり理解できないにも関わらず、その詩がなんとなく趣き深く見えてくるから不思議なものだ。
もっと理解できるように少し勉強したらいいんだがね、私も。
運命・幽情記 (講談社文芸文庫)
運命・幽情記 (講談社文芸文庫)川村 二郎

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ラベル:歴史
posted by てけすた at 13:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 明治 | 更新情報をチェックする

2010年06月01日

筒井康隆 山田風太郎

えっと、覚書として。
山田風太郎明治小説全集 全14巻セットを復刊します。6月中旬出来予定。長らく品切れが続いておりました。大変お待たせしました!(さ) http://bit.ly/bfXXcq
https://twitter.com/chikumashobo/status/14893685099

復刊するのかあ~~。自分のtwitterにも書いたけど、定価以上の値段で去年古本買ってしまったのだよ。なんということだ。あと1年早ければ…
当然化粧箱とかあるんだろうなあ。なんか負け組みだわ、わたし。
そういえばamazonでは『幻燈辻馬車』がどの本でも高値になっていた。あれは面白いからねえ。

筒井康隆
『現代語裏辞典』
2010.7下旬発売予定 文藝春秋 四六判 600頁 予価/本体1905円+税
ISBN  978-4-16-372790-5 C0095
「文藝春秋 新刊のお知らせ」から外回りをピックアップ。
http://d.hatena.ne.jp/flow2005/20100531/p1

いよいよ待望の裏辞典。もう筒井さんのブログでその話題を目にするたびに早く読みたいものだとおもっていたのだ。7月か。待ち遠しいの。
そういえば、筒井さんの著作ではないんだが、『筒井康隆の「仕事」大研究』発売になりました。私もamazonで予約していて今日発送になったというので、あさってあたりには手に入ることでしょう。
筒井康隆の「仕事」大研究 (洋泉社MOOK)
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洋泉社 2010-05-31
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ラベル:出版情報
posted by てけすた at 13:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (その他雑談) | 更新情報をチェックする