2010年04月30日

ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代(上)(中)(下) ゲーテ

「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」の続篇。これはゲーテ79歳の時の作品である。
ヴィルヘルムは結社の掟に従い様々な土地を巡っている。一所に留まれるのは3日間のみ。彼は妻へ手紙をかき、日記を書き記す。また遍歴の途中で聞いた話や読んだ話もこの作品にはいくつか挿入され、またアフォリズム群が2巻と3巻の終りにかなりのページを割いて書かれていて、解説によれば、小説や小説内物語で語れなかったことをアフォリズム群へ入れたのだということだ。
というわけで、この作品には晩年のゲーテの考えがふんだんに盛り込まれていると考えてよいのだろう。
他の可能性をまんべんなく伸ばすことよりは人間は技術を身につけ専門的になり、おのおのが誰かの役に立つような役割分担のしっかりした社会を形成すること。「畏敬」という念を教える教育。そしてマカーリエに現されているような天と結びついた精神的理想の人間のことについて書かれているのだが、その内容は文章の平易さと比べてなかなか理解しがたいものである。
技術を極めることや敬うこと、さらに自分の最高の姿を見出すこと、これらは大変に素晴らしい理念ではあると思う。それだけについていけないよなあ、という想いが湧き上がったのもまた事実なのである。
とはいえ、ある種ロマン的な内容は十分魅力的でもある。特に私は床屋が語ったある女性と彼女がもつ小箱の話がファンタジーっぽくて楽しかった。
ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代〈上〉 (岩波文庫)
ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代〈上〉 (岩波文庫)Johann Wolfgang Goethe

岩波書店 2002-02
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ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代〈中〉 (岩波書店)
ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代〈中〉 (岩波書店)Johann Wolfgang Goethe

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ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代〈下〉 (岩波文庫)
ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代〈下〉 (岩波文庫)Johann Wolfgang Goethe

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タグ:理念
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2010年04月25日

ヴィルヘルム・マイスターの修業時代(上)(中)(下) ゲーテ

ゲーテ47歳の時の作品。
演劇好きの青年、ヴィルヘルムはある女優と恋仲になったのだが、はかなくも失恋の憂き目にあう。それから彼は家業を手伝いがてら旅に出たのだが、そこで再び演劇の世界に足を踏み入れることになる。

自己形成ということに焦点をあてたドイツ教養小説の元祖ともいえる小説。ゲーテはこの小説の中で繰り返し繰り返し、生まれながらにもっているものを表現するとか、自己の才能を発揮するために行なわれる教育がいかになされていないか、またそれがなされたときに、人間は自分の道を外れることはない、ということを言葉を変えては述べている。その自己形成とはいかなるものなのかを小説にしたのがこの作品なのだといってもよい。
大人でも真に自己形成を行なうことはたやすくない。誰しもヴィルヘルムのような道を歩むものではないが、それでもこの小説は年を経て中年以降に読んだときに、そうだそうだと思い当たる節が数多く見受けられるのではないかという印象を持った。全てがなにが重要なものであるかのごとくに見えた、才能があると信じて進んだ青年時代、夢から覚めたような青年期の終り、そうしたことが数々の箴言とともに自分の経験を思い起こさせるのである。
若い頃に読んでみたかった作品。まったく本読めよ。タイムマシンで戻れるものならそうしたいところだ。
ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈上〉 (岩波文庫)
ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈上〉 (岩波文庫)Johann Wolfgang Goethe

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ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈中〉 (岩波文庫)
ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈中〉 (岩波文庫)Johann Wolfgang Goethe

岩波書店 2000-02
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ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈下〉 (岩波文庫)
ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈下〉 (岩波文庫)Johann Wolfgang Goethe

岩波書店 2000-03
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starいわゆる「教養小説」の元祖(下)
star人間の育成

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タグ:教養小説
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2010年04月21日

雷神の筒 山本兼一

鉄砲に全身全霊をかけた橋本一巴という男と鉄砲自身の物語である。登場人物は実をいうとそれほどずば抜けた描写があるというわけではない。かんしゃくもちの信長に仕える一巴だが、どうもソリが合わずに疎まれるという構図はサラリーマン社会として描けば面白いかもしれないが、どことなくリアリティに欠ける点が自分としては気になった。なので橋本一巴が主人公の小説だと考えるとあまり面白いとは思えないのだが、これが日本における鉄砲の小説という風に読み出すとがぜん興味が出てくる。鉄砲隊の合戦、鉄砲はどのように作られ、その使い方は、火薬を作る硝石が日本では産出しない、そこでそれを求めるためにどんな苦労をしたのか、そこらへんが実に面白い。
雷神の筒 (集英社文庫)
雷神の筒 (集英社文庫)
集英社 2009-03
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star橋元一巴
star戦を変えた男

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タグ:時代物
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2010年04月20日

怪談部屋 山田風太郎

光文社山田風太郎ミステリー傑作選8、覚書

この巻は全部短篇であっていささか長くなるので、タイトルのみ紹介。
【PART1】ミステリーホラーSFなどに分類できそうな作品
「蜃気楼」「人間華」「手相」「雪女」「笑う道化師」「永劫回帰」「まぼろし令嬢」「うんこ殺人」「万太郎の耳」「双頭の人」「呪恋の女」「畸形国」「黒檜姉妹」「蠟人」「万人坑」「青銅の原人」「二十世紀ノア」「冬眠人間」「臨時ニュースを申し上げます」「1999年」
【PART2】9巻に収められなかった少年もの。
「あら海の少年」「ぽっくりを買う話」「びっこの七面鳥」「エベレストの怪人」「とびらをあけるな」
【PART3】その他、この全集で収められなかった作品2点
「無名氏の恋」「私のえらんだ人」

「神曲崩壊」でもそうだが山風は「神曲」と排泄物を結び付けたがるようだ。この着想はどのあたりから来ているんだろう。ユングは子どものころ神様が天上から下界に向けて排泄して教会を壊したところを想像し非常に痛快に思ったことがあるそうだが、キリシタンについての書物を読み漁ってた山風だから、このあの世と排泄物という関係はキリスト文化圏では意味のあることなのかもしれない。
それにしてもここに収められた短篇はどれも私好みのひねくれ加減。
変態チックだったり、どこか妖しげだったり、流石に時代がかっているのだけど、なんかノスタルジックではある。この懐かしさは小説が書かれた時期のことにあらずして、中学生の頃読んだ筒井康隆さんの小説みたいだなあというノスタルジィである。
「笑う道化師」は最高だな。笑うことが死への恐怖へと繋がるという心境とまわりが感じるその不気味さ。悲喜劇と言う言葉があるけど、これは喜悲劇というべきものかも。
怪談部屋 怪奇篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈8〉 (光文社文庫)
怪談部屋 怪奇篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈8〉 (光文社文庫)
光文社 2002-05
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おすすめ平均 star
star山田先生の異形の世界にドップリ浸れる魅惑の短編集
star怪奇小説の最高峰
star山風の描く異色な世界

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タグ:ミステリー
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2010年04月18日

福翁自伝 福澤諭吉

自ら語ったところを速記させて口語体で出版したというこの自伝、なかなか面白かった。いや、福澤諭吉という人物はそれほど面白いとはおもわなんだが、折節出てくる彼の考え方は流石に万札に描かれる人になるだけはあるなあ、とちょっと感心してしまったのである。
まず、門閥を嫌う。福澤諭吉はそれほど身分が高くないのだが、やたら身分をかさに威張りたがる人間を軽蔑するし、身分が自分より下でもぞんざいな口は聞かぬようにしてるという。今でこそそういう考え方は立派な人物としての条件ではあるけれども、江戸時代では型破りだったことは間違いない。
門閥がらみではないだろうが、虚飾を嫌い、出世とかそういうことも気にかけなかったとは本人の弁。そして、ここがさすが万札肖像画になった人物なのだが、借金ができないということなのである。お金はなければできるまで待つというのだ。質にも入れたことがないという。質に入れるくらいならその物は売ってしまうということなのだ。借金に対して臆病な自分だ、とは言ってるがお金を借りることによる束縛感をなにより疎ましいと思っていたんだろう。だからといってカネに綺麗だとかそんなことはない。悪どく藩のお金を失敬したりもしてるので、まあ、道徳というよりは合理的な考え方といったほうがいいんだろうな。
せっかく高額紙幣に彼の肖像画を使ってるんだから日本の財政も少し見習えばよいのに、と余計なことまで考えてしまった。
新訂 福翁自伝 (岩波文庫)
新訂 福翁自伝 (岩波文庫)
岩波書店 1978-01
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おすすめ平均 star
star勉強する意味がよくわかる。「なぜ勉強しなければならないのか」と自問する若い受験生必読書だ
star江戸時代人福沢諭吉の自分史
star面白すぎ

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タグ:自伝
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2010年04月16日

唯物からの脱却と称してみるか

河合隼雄著「深層意識への道」を読む。これは厳密にいえば著ではなく、インタビューを編集したものである。河合先生の自伝的な話が読んだ本とのかかわりで述べられてゆく。
ユング心理学からきっちりと割り切ることのできない人間の心の問題を扱っていくうちに、児童書と出会ってその中にカウンセリングで得られた経験をうまく語れるような物語がたくさんあることをおっしゃってられた。理屈では割り切れないものを掌握することは難しい。そこで物語がその役割を果たしてくれる。
そんなところが印象に残ったかな。

唯物からの脱却といえば画家の横尾忠則の本は何冊か読んでいる。彼の作品にすごく惹かれるというわけではないのだけど、どういうわけか横尾さんの書いた本は目につくと読まずにいられないんだよなあ。
精神世界への傾倒ぶりが面白いということはあるかもしれないが、芸術家の鋭い直観が書かしめる社会と人間のことがなるほど、と思わせるのである。
今回読んだ「インドへ」はその精神世界へ傾倒において旅行したことを書いている。横尾さんにとってのインドとは自己を見つける旅なのであった。この本のインドは1970年代であって、混沌の中に超自然を感じる風景が描写されていたのだが、今のインドはどうなのだろうか。
深層意識への道 (グーテンベルクの森)
深層意識への道 (グーテンベルクの森)
岩波書店 2004-11
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おすすめ平均 star
star河合先生ありがとうございました。
star平易な文章、深い内容
star物語を。

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インドへ (文春文庫 (297‐1))
インドへ (文春文庫 (297‐1))
文芸春秋 1983-01
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おすすめ平均 star
star横尾さんのインド
starヒッピーの頃のインド

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タグ:読書メモ
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2010年04月14日

不在の騎士 イタロ・カルヴィーノ

寓話と片付けてしまうにはもったいない愉快で素敵な物語。
純白の鎧の中は誰もいない騎士アジルルフォ。
よく、人を軽蔑するときに「あいつは中身がない」ということがあるけれども、アジルルフォは中身がない甲冑だけの騎士なのに実に立派なのである。しかし、立派過ぎると却って敬遠されるというのがこの世にありがちなこと。アジルルフォも「中身のある」普通の騎士たちに煙たがられるのであった。そんな彼を慕う人物がいる。若いランバルトであり女性のブラダマンテである。比ゆ的に解釈すれば、若者は理想として、女性は客体としての彼を慕っていることになるのだろうが、私が読んでいてもアジルルフォは存在しているならば好感が持てる人物なのである。いないので人物と称してよいのかわからん。
物語はユーモアたっぷりに進む。肉体がないことを使ったユーモア。アジルルフォの盾持ちが自分が何者か知らないので森羅万象どんなものにも一体化してしまおうとする男なのだが、彼についてのユーモア。ところどころでつい声を上げて笑ってしまった。
読みながら人が人たるゆえんについて考えてしまうそんな物語だ。
不在の騎士 (河出文庫)
不在の騎士 (河出文庫)米川 良夫

河出書房新社 2005-12-03
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おすすめ平均 star
star「まっぷたつの子爵」「木のぼり男爵」「不在の騎士」
star存在とは、学び取るもの。

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タグ:寓話
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2010年04月13日

忍法相伝73 山田風太郎

やりました!とうとう「忍法相伝73」を読みました!
もう、最高にくだらないです。山風はこの作品に自己評価ABCランクで「P」とつけましたが、さもありなん。
(参考サイト 山田風太郎wiki 自己評価
しかし、くだらないからつまらない作品とは限らないのです。この「P」はいわばラズベリー賞みたいな意味合いで「趣味が悪い」ということなんだと解釈しました。
だいたい、忍法が現代によみがえって珍騒動を起こす、という設定がすでにくだらないです。そしてさらに本作はそのドタバタ喜劇で社会を茶化してるのみならず、自己の生み出した忍法帖シリーズも茶化してるとしか思えない崩壊振り。
だが、その社会を茶化してる内容が辛辣さに満ちた一種の諷刺的文章となって、これが現代社会にも通じてしまうところが、なんというか日本社会は変わらないなあ、なんて思ってしまったのでした。
こういう最高にふざけた作品を嫌う人には向きませんが、諷刺やおふざけ、ナンセンスが好きな人には結構楽しく読めると思います。

この本、アマゾンでは中古ですごい高値。
忍法相伝73 (1965年)
忍法相伝73 (1965年)
講談社 1965
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私は、図書館で見つけたのを借りてきたのだが、それは1969年発行の講談社Roman Books。記念撮影したのでアップ。
73.JPG
タグ:忍法帖
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2010年04月11日

犠牲―わが息子・脳死の11日 柳田邦男

人生は予期せぬ出来事が降りかかる。医学関係のノンフィクションを手がけていた著者は死との関わりとして自分がガンになったときのことを考えていたのだが、思いがけないことに子どもの脳死というものに遭遇することになった。次男洋二郎が神経症に苦しみ、自死したのである。
著者はそれ以前、脳死になればいずれ心停止になるのだから、移植でしか助からない人々のためにもこれからは脳死をもって死とするような考え方にシフトしていかなければならないだろう、という考えを持っていたのだったが、息子の脳死に直面してから脳死についてわからなくなってしまったと書く。それはたとえ反応がなくても息子が全身で語りかけてくる何がを家族として体験したということもあろう。だが、著者さらにいうのは脳死を人の死とする判断が往々にして家族からその死を受け入れられるような時間を奪ってしまうということであった。移植を前提としている場合、それは時間との戦いになるわけだからどうしても先走りしがちなのであろうと私は想像したが、そういった医療側の姿勢が家族には納得いかないのではあるまいか。
脳死についての法案ができてもう十年以上経過するが、国内移植はあまり進んでいないのが現状である。それは日本人の死生観の問題のほかに、脳死者を物体として見がちなことにも由来しているかもしれない。
洋二郎の兄、賢一郎はこんなふうに医師に言ったことをが心に残る。
「ただ弟の臓器を利用するというのではなく、病気で苦しむ人を助ける医療に弟が参加するのを、医師は専門家として手伝うのだ、という風に考えて欲しいと思うんです」
犠牲(サクリファイス)―わが息子・脳死の11日 (文春文庫)
犠牲(サクリファイス)―わが息子・脳死の11日 (文春文庫)
文藝春秋 1999-06
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おすすめ平均 star
star良い書物。しかし……
star別れを乗り越えて
star二人称の死を

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2010年04月10日

狂えるオルランド ルドヴィコ・アリオスト

『ドン・キホーテ』には主人公が愛読した本の登場人物の名がいくつか出てくるが、ロルダンことオルランドもその一人。確かその人物が狂ったということが書かれていたような覚えがあるが、この本のタイトルを見て、ああ、この本にはそれが書かれてるんじゃないかと思い読んでみた次第。
こういう読み方は邪道かもしれんが、『ドン・キホーテ』の振る舞いと、この本の騎士たちの振る舞いと重ね合わせてその面白さに笑いがこみ上げてくる。本当に騎士たちというのは名誉と愛を重んじるあまり考えられないようなことで果し合いをするし、魔法にはかけられるし、正気を逸脱してるとしか思えん。
それはさておき、この作品、16世紀の大ベストセラーで、本国はおろか、ヨーロッパの各地で翻訳されて広まったという。その内容は盛りだくさんだがオルランドの行状のほかに、サラセン勢対キリスト勢の戦い、ルッジェーロとブラダマンテの波乱万丈の恋、またその2人の末裔がアリオストの使えた枢機卿だということで、予言の形でエステ家のことを語っている。訳者に言わせればそれは仕える家の追従にあらずして、そのことを語ることで当時の世情を作品に織り込むためとのことなのだが、訳者まえがきでそのイッポリト(アリオストの最初の主人)が人使いが荒いことを述べていて、それに対し作品内ではアリオストがその寛大さを讃えてることから、当てこすりか褒め殺しじゃないのかと思いたくなってくる。だって、教会のことをすごく皮肉に描写しているアリオストだもの。
こういったものを一本調子になることなく、行きつ戻りつ、ともすれば内容の多様さにカオスとなりがちなところを見事にまとめていて、後半になってくると、ドン・キホーテのことも忘れ、この物語世界自体を堪能したのであった。
ところで、私は秘かにイギリス公子アストルフォの冒険が気に入ってる。物見高い性格が禍して魔法使いに木に替えられてしまったこの人物はまぎれもなくこの作品のトリックスターなのである。ルッジェーロに救い出され、その後魔法の品々を手に入れながらあちらこちらで愉快に問題を解決してゆく彼の冒険はこれだけ抜き出して1つの物語として読んでみたいほどである。
狂えるオルランド
狂えるオルランドLudovico Ariosto

名古屋大学出版会 2001-08
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おすすめ平均 star
starルネサンスの代表作
starカルヴィーノをして『偏愛する作家』と言わしめたアリオストの傑作を読み逃すてはないでし

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タグ:騎士道
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2010年04月06日

こんなアイデアはもう誰かやってるかな。

今、超長い本を読んでてしばらく更新できそうにないので、どうでもいいアイデアを書く。
電子出版とかキンドルとか、デジタル化された文章が増えてきたこの頃ではありますが、はっきりいうとそんなものばかり読んでると目がつぶれる。
なにしろ電気機器の光はとても疲れるのだよ。
それに、短い文章ならまだ我慢して読むが、長いのだと画面で読む気がしないんだよなあ。

で、ふと青空文庫にアクセスして考えたんだけど、再配布OKの作品だったら、自分のブログにコピペしてから、製本してもらえばいいんじゃね?
そうすれば現在出版されてない作品を紙で読むことができるじゃないか。
問題は値段だよね。本にするのにどれだけかかるか。

まあ、これは自分が現在古い作品を重点的に読んでるからこそ思いついたわけで、新刊にはできない。
でもさ、よくよく考えるとブログから書籍になる場合もあって、一概に紙の本が滅びるような気はしないんだなあ。
これは希望的観測か。
タグ:
posted by てけすた at 21:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (その他雑談) | 更新情報をチェックする

2010年04月04日

少将滋幹の母 谷崎潤一郎 他山田風太郎1冊

『少将滋幹の母』
王朝時代、菅原道真が追い落とされ、藤原時平が権勢を振るっていたころの話である。藤原国経という80近い老人に在原業平の後裔である20前後の妻がいた。色好みの平中(平定文)がその女性に通ったことがあるのを時平が知ってそれとなく彼女のことを確かめ、後にこの女性を略奪する。
この小説は、この女性をめぐる3人の男と女性の子である少将滋幹の話である。
業平の後裔ということからその美貌がしのばれるこの女性に関して国経、平中、時平はそれぞれにその狂おしいところを見せるし、さらに、国経の狂おしさを見ながら育つ滋幹も母とは子どもの頃に別れたきりになってしまい、その想いはいやがうえにも高まっていた。その様子を著者は優美な文章で描いてこの女性を神秘的な魅力にまで高める。女性の心のうちはあまり書かれていないのだが、それだけに男性たちがかきたてられてゆく、その様がなんとも強烈である。
特に国経が思い切れなくて不浄観まで行なうところ、ここに人間の業を見るような思いである。
一方そんな激しさとは別に、ラストの邂逅シーンは霞のかかったような朧な美しさを描いて、実に見事な場面だ。滋幹にとっては幼い頃に別れた母はほとんど神秘的な領域までに高められていたのだが、それを象徴するような場面であり、美というものを感じた。
少将滋幹の母 (新潮文庫)
少将滋幹の母 (新潮文庫)
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おすすめ平均 star
starタイトルはあまり気にしなくてもいいかもしれない
star古典を消化し創作を融合した最高の作品
star短いながら奥の深い作品です

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山田風太郎の本も読んだので簡単に。
『江戸忍法帖』
忍法帖といえばどこかニヒルだったりするものだが、これはあまりそういった雰囲気がない。どことなくセンチメンタルなんだなあ。話そのものは別に不出来でもないので、これが山風でないほかの人が書いた小説ならばそれほど違和感はないと思うんだろうが、あまり山風らしくないんでちょっと首をかしげた。
江戸忍法帖 山田風太郎忍法帖(8) (講談社文庫)
江戸忍法帖 山田風太郎忍法帖(8) (講談社文庫)
講談社 1999-05-14
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おすすめ平均 star
star女性は魅力的だが・・・
star後回しで良いのではないでしょうか。
starうーん・・・

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2010年04月01日

ジョゼフ・フーシェ―ある政治的人間の肖像 シュテファン・ツワイク

山田風太郎やバルザックの小説で「密偵使い」フーシェの名を知ったことがあって、この人物に少しばかり興味を持ったのがこの本を読み始めたきっかけである。
フランス革命から彼の政治人生が始まるのだが、共産主義者として、貴族の密偵として、ナポレオンの片腕として、挙句の果てに王政復古のお膳立てまでして、最後はあれほど破壊したキリスト教に見取られながらの死と、その変節ぶりが鮮やかに描かれていて大変面白かった。
また、フーシェの人生ばかりではなく、彼の政治人生を通して、激動するフランスの政治史も俯瞰できたのは良かった。なにしろ革命から王政復古までめまぐるしく変わる時代、私もなにがなんだかよくわからなかったのだ。ロベスピエールの死にまつわる話、ナポレオンの妻ジョゼフィーヌがフーシェの情報源として通じていたことなど、へえ、と思うような話もあって、ほんとに興味深い。
ナポレオンをして「完全無欠の裏切り者」と言わしめたフーシェ。ただし、彼が陰謀ばかりしていて国に不利益を与えたかというと、一概にそういえない。無能な善良人よりも陰険な有能者が必要なときがあるのである。もっともこれは政治だけに限ったことではないが。
とはいえ、この裏切りの天才も、最後は落剥するという高い代償を支払うことになるのであった。
ジョゼフ・フーシェ―ある政治的人間の肖像 (岩波文庫 赤 437-4)
ジョゼフ・フーシェ―ある政治的人間の肖像 (岩波文庫 赤 437-4)高橋 禎二

岩波書店 1979-01
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おすすめ平均 star
star権力に魅入られた良心
starフランス革命の心理戦と裏面史
starとにかく面白い伝記

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タグ:伝記
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