2009年11月27日

読書メモ:山田風太郎、山本兼一

『忍者月影抄』山田風太郎
3人の女性が不可解な文字を肌に刻まれて晒し場にいた。調べてみると彼女たちはかつて将軍吉宗の愛妾であり、背後に尾張の宗春がからんでいる可能性が出てきたので、昔の愛妾を始末するよう、お庭番の伊賀者、及び江戸柳生が任命される。対する尾張は甲賀と尾張柳生。宿敵同士の伊賀と甲賀、江戸柳生と尾張柳生の熾烈な戦いが始まる。
宿敵同士の組み合わせが見事でその妙にうなる。とくに幻影をつかさどるもの同士を組み合わせたところなんぞ。さらに、作者は宗春をば全面的に思い通りにさせるのかと思いきや、なかなかそうはしない。権力におもねる様な展開にしないのは痛快痛快。柳生同士の剣術も読み応えあり。
忍者月影抄 (講談社ノベルス・スペシャル―山田風太郎傑作忍法帖)
忍者月影抄 (講談社ノベルス・スペシャル―山田風太郎傑作忍法帖)
講談社 1994-05
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おすすめ平均 star
star華やかなお話

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現在は河出文庫から
忍者月影抄 (河出文庫)
忍者月影抄 (河出文庫)
河出書房新社 2005-06-04
売り上げランキング : 395706

おすすめ平均 star
star忍法が、よいということ

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『ジパング島発見記』山本兼一
かつて戦国時代の日本にやってきた南蛮人たちを主人公に日本と彼らの関係を描いた連作短篇集。
オビでは「西洋文化と接したことによって日本はどのように変わったのか。そして変わらなかったのか」という文句があるが、読んだ感じでは日本がテーマではなく、故郷がつらくて遠方までやってきた軍人や商人、布教に燃える宣教師たち。どちらかというと彼らが日本にやってきてどう影響をうけたのかが主題になってる。全体的にあっさりしていて読みやすい。初山本兼一だが他の作品はどうだろう?直木賞受賞作は気になってるのだが。
ジパング島発見記
ジパング島発見記
集英社 2009-07-03
売り上げランキング : 69918

おすすめ平均 star
starジパングでの異文化接触:各人各様の思念と行動のおもしろさ
star残念ながら…
starもっと自由を

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タグ:読書メモ
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2009年11月25日

読書メモ:井伏鱒二、山田風太郎

『山椒魚・遥拝隊長 他七篇』井伏鱒二
穴から出られなくなった山椒魚の話「山椒魚」
貰った白い鯉の話「鯉」
手当てした雁(サワンと命名)との暮らし「屋根の上のサワン」
休憩時間に規則違反のものが引致され、そのことについて学生があれこれと黒板に書く「休憩時間」
顔を怪我した人物から5円もらってそれが負い目になる「夜ふけと梅の花」
丹下氏が男衆に折檻する、その男の話「丹下氏邸」
親の呼び方に悩む私、及び呼び名の階級とそれに関してのある争いの話「「槌ツァ」と「九郎治ツァン」はけんかして私は用語について煩悶すること」
ある宿を営んでる女性たちの生い立ちについて「へんろう宿」
気が狂って終戦後も隊長として振舞う人の話「遥拝隊長」
山椒魚・遥拝隊長 他7編 (岩波文庫 緑 77-1)
山椒魚・遥拝隊長 他7編 (岩波文庫 緑 77-1)
岩波書店 1969-01
売り上げランキング : 172901

おすすめ平均 star
starユーモアいっぱいの短編集
star「鯉」、あります。

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『昭和前期の青春』山田風太郎
子ども時代から学生にかけてのことを書いたエッセイと、太平洋戦争についてのエッセイを集めた。第3部として沖縄戦に焦点をあて「同日同刻」の手法で描写した「ドキュメント・一九四五年五月」あり。
第2部の太平洋戦争私観を読んでると、この戦争を始めた日本がこの間読んだ「白鯨」のエイハブ船長と重なって見えた。どちらも自分と相手の力量を斟酌せずに執念だけで戦おうというところが。
昭和前期の青春―山田風太郎エッセイ集成
昭和前期の青春―山田風太郎エッセイ集成
筑摩書房 2007-10
売り上げランキング : 158821

おすすめ平均 star
star青春、そして終わりのない哀しみ

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タグ:読書メモ
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2009年11月24日

白鯨(上)(下) ハーマン・メルヴィル

イシュメールという語り手が捕鯨船ピークォド号に乗り組むのだが、船長が白い鯨モービィ・ディックに復讐の念を燃やすエイハブ船長であった。この語り手、鯨にいたく傾倒し、膨大な鯨の薀蓄を間に織り込ませてゆく。それは集められた文献の披露から始まり、聖書に出てくる怪物のこと、鯨の分類、白鯨の白さについての象徴的解釈、絵画、食文化、捕鯨産業について全般、果ては解剖学、化石とまさに骨の骨まで鯨学を展開する。これらを読んでいて、おぼろげながら浮かんでくるのは、鯨のことではなく、人間批評である。例えば、捕鯨において鯨の所有についての法律から所有ということについての批評などを読み取ることができるのである。
さらに、人間批評に関していえば、この小説は聖書への言及がかなりある。レビヤタンについてはもちろん、イシュメールもエイハブも聖書から借りてきた名前がつけられているのだ。そこでこれは信仰の問題についても読み取ることができる。
モービィ・ディックとはただの鯨ではない。エイハブ船長からすれば「悪」そのものでありこれに対抗すべく呪われた悲劇的航海を行なう。しかし、一等航海士のスターバックにしてみれば、それは「災厄」なのであり、回避すべきものだ。だが、彼にしてもエイハブ船長の圧倒的執念と力量の前には抵抗することができない。ピークォド号は船長の意志を遂行するものとなる。これほどまでに執念を燃やすエイハブ船長の「意志」とは確かに冷静にみれば傲慢でありもっといえば狂気だ。そして最後は滅び行くのであるが、この狂気は神話的なところまで深く、人間の業を現しているように思える。考えてみれば人間はいつも限界を超えようとしてはいなかったか?
白鯨 (上) (新潮文庫 (メ-2-1))
白鯨 (上) (新潮文庫 (メ-2-1))
新潮社 1952-02
売り上げランキング : 105828

おすすめ平均 star
starMoby Dick , Herman Merville 白い鯨; 鯨の中の鯨
star名作、大作、そして奇書
star冒険小説として読むと・・・

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白鯨 下  新潮文庫 メ 2-2
白鯨 下    新潮文庫 メ 2-2
新潮社 1952-02
売り上げランキング : 94034

おすすめ平均 star
star「知識のごった煮」とはよく言ったもの
star捕鯨船ビークォド号の最後の航海を追体験して下さい
star神話の域に達した古典名作!

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タグ:幻想
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2009年11月19日

裏太平記 半村良

うむう、以前「ガイア伝説」でちょっと唖然とした記憶があったので、晩年の作品はちょっと手を出すのが怖かったのだが、タイトルといい、ちょっと本屋でオビをみた感じの「兼好法師が歴史を影であやつってた」とかいうのをみて、やっぱりちょっと読んでみたいな、という気になっていたところへ、ちょうど図書館から借りることができたので、読んでみた。
……設定とか着想とかは面白そう。往年の伝奇SFを彷彿とさせるような感じだし、今は説明調だけど、これから面白くなるのかも、と読み続けていったのだが、だんだんと同じようなことの繰り返し、適当な説明、まるであらすじだけをとりあえず書いてみました、みたいな文章にやっぱりがっかりする。やっぱり十年以上も単行本化されなかった理由はそれなりにあるものなんだなあ。
この話、きちんと書けばきっと私は好きだ。兼好法師の策略や、無名の暗躍、後醍醐天皇の怪しさとか。
筋書きだけ○。
歴史破壊小説 裏太平記
歴史破壊小説 裏太平記
河出書房新社 2009-02-20
売り上げランキング : 384093


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タグ:伝奇
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2009年11月18日

読書術 加藤周一

曲がりなりにも3年は毎日本を読む習慣をつけた私が、今なぜにこのような読書術なるものを読もうとするのかというと、自分の読書方法が他の人と比べてみてどんな塩梅なのかということを確認したかったからに過ぎない。
で、今年は生誕90周年ということで岩波がやけに広告を打ってくる加藤周一氏の本を見かけたので、これを借りてきた。
まえがきでは
「どういう女を口説いたらよかろうか、ということは一般的にいえないとしてもそれはかならずしも、どう女を口説いたらよかろうか、という議論ができないということではない。…(中略)…なにを読んだらいいのかは一般論としてなりたたない。どう読んだらよいかは一般論として成りたちます。すなわち「読書術」です」
と述べてる。これはそういう本。
もともとは高校生向けだという、その中身は、精読、速読、本を読まない読書、解読(外国語の本を読む)、看破(新聞・雑誌)、読破(難しい本)とまあ多種にわたってその著者の培った経験から知恵を授けてくれる。これをメモしておくならば、
古典は精読する本であり、ある知識をつけるために精読すべき本をじっくり読むならばそれは派生する他の本を早く読めるようになり、結果として速読となり、外国語の本自体を読みたいという目的ならばいきなり文学を読むよりはやさしく書かれた実用書のほうがよく、新聞雑誌は何種類か同じ事柄について書かれたことを読み比べてスタンスを確認、難しい本は本が悪いのと読者が理解できないの2種類があるが、基本的に自分が必要としてる本ならば難しいとは思わないので、難しいと思ったものは今読まなくてもいい、なにしろ、本は膨大であり、自分が読むべき本だけを読むとしてもよみきれるものではない、
と、まあ、ざっとこんな感じです。
本を読む人ならば常識だろうということが大半ではあったが、結局読みたい本を読むにこしたことはない、というような意見をところどころちりばめているのは万歳。
読書術 (同時代ライブラリー)
読書術 (同時代ライブラリー)
岩波書店 1993-02
売り上げランキング : 138104

おすすめ平均 star
star難しい本を読むには

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タグ:読書
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2009年11月17日

魔群の通過 山田風太郎

明治の中ごろ、敦賀史談会に招かれた武田猛は武田耕雲斎の子であり天狗党の行軍について語るという形式で、幕末、水戸天狗党の行軍を扱った小説。
水戸藩にて佐幕派と攘夷派が激しく対立。もともと攘夷の気風大きく、攘夷派は天狗党と呼ばれていた。これが人を集めて、幕府に攘夷を迫らんと運動を開始、それに対し、幕府が討伐軍をさしむけ、佐幕派も協力して天狗党と戦を交えることになる。このままでは賊軍になってしまうと、危惧した武田耕雲斎の意向を受け、天狗党は京へ上ろうとするのだが。
なぜ、天狗党の事件が悲惨な結末になったのか、いろいろ要因を武田猛も述べてはいるが、私が印象に残ったのは、身内であることが悪いほうへ働いた、ということであった。例えば、降伏を勧められたもともと仲裁役の松平大炊頭が結局斬首されてしまうこととか、水戸の血筋である慶喜公を頼った天狗党がいかなることになったか、本来ならば全く知らない他人ではないために、そんなにひどいことはしないだろうという期待が見事に裏切られているのである。裏切るという言い方は相手にしてみれば心外かもしれないし、知らない他人ではないからこそ、憎悪も激しくなるのかもしれないが、こういうのは悲劇のもとだよなあ、とつくづく思った次第。
それにしても、ラストは涙なしでは読めない。そこには人生をこの事件に翻弄されたものたちの哀切が描かれていたのであった。
魔群の通過 (広済堂文庫―山田風太郎傑作大全)
魔群の通過 (広済堂文庫―山田風太郎傑作大全)
廣済堂出版 1997-12
売り上げランキング : 151324

おすすめ平均 star
star”つじつまの合わない”悲劇
star茨城から福井への未曾有の紀行文

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タグ:悲劇
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2009年11月16日

風邪で喘息悪化

現在、喘息の薬はパルミコート200を2吸入とシングレアを1日1錠の服用である。セレベントは今年の中盤から中止している。これで大丈夫だと思ってたのだが、どうも薬が足りないんだろうか?今年は10月と11月の2回も風邪を引いてしまった。10月の風邪は鼻かぜ程度で済んだのだが、11月の風邪がまずかった。タンがからんで、一時は喘鳴もなったのである。発作が起こったのは1年ぶり。これはまずいと思って、家にあったセレベント及び、抗ヒスタミン剤、点鼻薬、これらを総動員して、風邪撲滅にあたった。
それが効を奏したのか、数日前まではピークフロー値がイエローゾーンだったのが、今日はまたもとに戻った。もっともセレベントを吸入している状態なので、止めたらまた下がるかもしれないという危惧はある。
それにしてもなあ、シングレアは無敵だと思っていたのに、そうでもなかったか。セレベント、やはり必要なのかなあ。
タグ:喘息
posted by てけすた at 12:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 病弱日記(喘息とか) | 更新情報をチェックする

2009年11月14日

浮雲 二葉亭四迷

学生のころ、言文一致体で書かれた小説ということで習ったが、その文体はちょっと落語に似てるような感じがする。落語っていってもそんなに私は親しんでるわけではないので、あくまでもイメージなのだが、地口洒落、掛詞などが多用されており、軽妙で、語感のよさが粋に見える。当時の人々はこんな風にちゃきちゃきに話していたんだろうか、と感慨深く思ったが、解説の引用の孫引きをすれば、第一・第二篇については西鶴や歌舞伎のセリフに似ているという。なるほど、通りで。いくら言文一致といってもそのまま素人の喋りでは洗練された文章とはゆかぬものではあるしな。
内容はある内気な青年の苦悩が中心となってるのだが、その苦悩は失職することと、それに伴って、いとことの婚約者同然の処遇から一転し、相手の女性が自分の同僚に心を寄せてゆくことに関する苦悩である。非常に通俗といえば通俗ではあるが、地の文の軽妙洒脱さと主人公を突き放してときに揶揄するような表現であることによって、ずぶずぶと悲劇まっしぐらにならず、相対化されたような感じが私には好ましい。
浮雲 (岩波文庫)
浮雲 (岩波文庫)
岩波書店 2004-10
売り上げランキング : 53034

おすすめ平均 star
star文学以外の面からみて
star意外と現代的
star現代語表記、大量のふり仮名つきで読みやすい

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タグ:明治文学
posted by てけすた at 20:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 明治 | 更新情報をチェックする

2009年11月13日

寓話(上)(下) ラ・フォンテーヌ

おもにイソップや、東洋の昔話から題材を得て、韻文に仕立て上げたという作品。特にイソップは日本でもよく知られてるので、おなじみの話もこの中にいくつか見られる。韻文のよさは原語がわからないので感想をいうことができないが、自分の知ってる散文の寓話がここでは簡潔に述べられていて、そこに韻文の面影をみることができる。
イソップということで、本文は動物が活躍する。お馴染みキツネやオオカミやライオン、ヒツジにヤギにネズミ、ロバ、といった面々が悲喜こもごもな出来事を展開してくれる。キツネはずるいし、ロバは愚かでいじめられるし。
12巻になっているが、もとは3集に分かれていて、1集と3集は王族を継ぐ少年たち(王太子や王太孫)2集は王の寵を受けていた夫人に当てられている。なので1と3は社会や人のの本質を示すような寓話、2集はいささか諷刺も入った政治談議や恋の話が多い。
わかりやすさからいけばやはり1集と3集は子ども向けなので、読みやすい。2集は注釈はあれども、少しわかりにくい部分もあった。
原語で読んだらどうなんだろうなあ、こういう機知に富んだ話が美しい韻文で語られてるということは一つの財産ではあるね。
寓話〈上〉 (岩波文庫)
寓話〈上〉 (岩波文庫)Jean de La Fontaine

岩波書店 1972-01
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寓話〈下〉 (岩波文庫)
寓話〈下〉 (岩波文庫)Jean de La Fontaine

岩波書店 1972-01
売り上げランキング : 137104


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タグ:寓話
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2009年11月10日

死刑囚最後の日 ヴィクトル・ユーゴー

死刑囚が判決を受けて、処刑されるまでの心理の動きを小説化した内容で、岩波文庫では序文が本文のあとに収録されている。これは当時の発表順番に従ったもので、序文で著者は自分の名前を伏せてこの本文を発表して、世間に理解されるのを見たので、あらためて序文で著者の考えを述べることにしたという意味の事を書いている。
ところで、著者は死刑反対論者なのだが、死刑制度は犯罪の問題もあって、なかなか手放しがたい刑罰である。死刑反対を述べるとそれに反発する声も多かろう。そこで、死刑囚が死刑に至る最後の時をその心理状態を想像し、具体的な名前や犯罪名を出さずに一人の人間としての死刑囚を描いてみたものと思われる。ここで、読者が犯罪者もまた自分たちと同じ人間であるということを認識したならば、現実の死刑囚についても考えざるを得なくなるのではないか。
ユーゴーは犯罪に対して社会は矯正が必要であって、復讐はそれ以下の個人のことであり、懲罰はそれ以上の、神のことだといっている。「レ・ミゼラブル」で社会の歪みを克明に綴った著者として、犯罪が社会問題のしわ寄せの表れならば、その主張はまことにもっともなことだと思うのである。ただし、今自分の住んでいる日本の国の現実を思うならば、復讐は公的には禁じられており、神を信じる人は少ない。そのような人々で形成される社会においては、矯正などということは理想論としか考えられないかもしれない。だが、ユーゴーが指摘したように、死刑という刑罰もそのやりかたはだんだん衰退してきており、それは現在もそうである。いつか、罪悪は病気と同じで、憤怒をもって処置されるかわりに病気と同じく慈愛をもって処置される日がくるのであろうか?
死刑囚最後の日 (岩波文庫 赤 531-8)
死刑囚最後の日 (岩波文庫 赤 531-8)豊島 与志雄

岩波書店 1982-01
売り上げランキング : 276409

おすすめ平均 star
star死刑とその社会
star死刑執行までの心理
star死刑制度反対本

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タグ:死刑制度
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2009年11月09日

ラ・ロシュフコー箴言集

冒頭、「われわれの美徳は、ほとんどの場合、偽装した悪徳に過ぎない」という言葉があるが、この箴言集では美徳といわれる行いや感情はその動機をたどれば、自分に都合がいいとか、自分が優越にひたれるから、とかそんな理由が多い、ということをいろんな言い方で指摘している。
それは「往々にして、さまざまな行為とさまざまな欲の寄せ集めにすぎない」(1)し、「諸々の川が海の中に吸い込まれるように、諸々の美徳は私欲の中に吸い込まれる」(172)のである。
このポイントを押さえて他の文章を味わってみると、悪徳のかたまりみたいにみえる人はその振舞い方で損をしているのだなあ、とか思ってしまうのである。みんな基本的に自己愛という悪徳を持ってるのだが、それをもろに見せてしまう悪人や粗野な人たちというのは実はお人よしなのかもしれない。まあでも一番困るのは動機が悪徳に基づいているのに、それに気が付かない潜在的偽善者なんだろうなあ。
著者のラ・ロシュフコー公爵フランソワ6世は憂鬱気質ではあるが、他人からみれば、実に好ましい社交家だったという。想像だが、己の中の悪を自覚しているだけで割と気持ちの良い人に見られるものなのかも。
“悪徳は、薬の調合に毒が使われるように、美徳の調合に使われる。思慮がこれを混合し緩和して、人生の苦難によく効くように役立てるのである。(182)”
ラ・ロシュフコー箴言集 (岩波文庫)
ラ・ロシュフコー箴言集 (岩波文庫)二宮 フサ

岩波書店 1989-12
売り上げランキング : 13288

おすすめ平均 star
star訳文が読みにくい
starボディガードのような警句集
star悪訳

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タグ:箴言
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2009年11月08日

山田風太郎忍法帖長篇2冊

今は亡き講談社ノベルススペシャルで「忍法封印いま破る」と「信玄忍法帖」を読む。
「忍法封印…」は大久保長安の子おげ丸と長安の子を宿した3人の伊賀の女の逃避行物語。追うのは伊賀の忍者たち。特に面白くないということもないのだが、忍びの素質大で、周りからそれを畏れられてるおげ丸が全力で忍法を駆使するわけではないので、ちょっと不完全燃焼な感じを受ける。おげ丸は伊賀で育ったため、同じ伊賀者と戦うのは気が進まないという気持ちだからしょうがないかもしれん。まあ、私が野蛮な性格なんだろうということで。
忍法封印いま破る (Kodansha novels special―山田風太郎傑作忍法帖)
忍法封印いま破る (Kodansha novels special―山田風太郎傑作忍法帖)
講談社 1996-07
売り上げランキング : 645361

おすすめ平均 star
starとても悲しいが、温かい・・・

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「信玄忍法帖」は信玄が死んだとき、遺言によりその死は隠されたが、徳川が伊賀を使って、信玄が死んだのかどうか、死んでなければ暗殺を命令する。対する武田はその秘密を守らんと奔走する。そして、死んだと思われてた、武田のあの軍師が…
いや、くノ一が出てこないから寂しいとかいうのではないんですが、女性はほぼ一般人しか出てこないので、なんというか、忍法はあるんだけど普通の伝奇歴史小説みたいなんだよなあ。だからそう思って読めば面白いんだが、忍法帖のあの独特の感じ、っていうか、隠微な感じというのはくノ一がいてこそだったのだと実感。
信玄忍法帖 (講談社ノベルススペシャル―山田風太郎傑作忍法帖)
信玄忍法帖 (講談社ノベルススペシャル―山田風太郎傑作忍法帖)
講談社 1994-07
売り上げランキング : 564792


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現在は河出文庫から出版されてます。
信玄忍法帖 (河出文庫)
信玄忍法帖 (河出文庫)
河出書房新社 2005-02-05
売り上げランキング : 268843

おすすめ平均 star
star武田家の滅亡をたどる傑作
starこの忍法は絶対に嫌だ……

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タグ:忍法帖
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2009年11月06日

ナイルに死す アガサ・クリスティー

あれだよね~どうでもいいけど、この本の解説は過去にクリスティーの映画化された作品を紹介していて、肝心の本文にはあまり触れてない。
まあ、ミステリーはうっかりするとネタバレになってしまうから、解説も大変だよね。
どうでもいいけど、この話、「元祖2時間ドラマ」土ワイとか火サスとか、アレ系のあらすじですな。
エジプト観光局とタイアップして、ナイルの瀑布を背に、有名どころの観光船とかホテルとか使って。
この作品は随分と映画化を勧められたらしいが、なるほどよくわかるよ。そして、男性陣のふがいなさと、女性陣の不幸さ加減まで一緒。きっと2時間サスペンスドラマの原型なんだろうね、この小説。

ま、それはさておき、わたくし、珍しく犯人はどう考えてもあいつだろう、と思えてしょうがなかった。もちろんトリックとかは全然わからないんだけど、文脈からはどう読んでもあの人だけが異常に怪しく思えたのでした。
クリスティーはまだ数点しか読んでないが、読みどころ満載なのはこの「ナイルに死す」で私自身がちょっと感心したのは「オリエント急行の殺人」だな。
ナイルに死す (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
ナイルに死す (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)Agatha Christie

早川書房 2003-10
売り上げランキング : 103630

おすすめ平均 star
starクリスティーの最高傑作
star男を愛している女と、女に愛させている男
starちょっと気になりました

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タグ:ミステリー
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2009年11月04日

かげろう忍法帖・野ざらし忍法帖 山田風太郎

ちくま文庫の「山田風太郎忍法帖短篇全集」の、1.かげろう忍法帖と、2.野ざらし忍法帖をまとめて読む。
これは講談社から出ている同名の文庫本と収録作品が違っていて、ちくま文庫での収録作品は以下のとおり。

かげろう忍法帖…忍者明智十兵衛/忍者石川五右衛門/忍者向坂甚内/忍者撫子甚五郎/忍者本多佐渡守/忍者服部半蔵/『今昔物語集』の忍者/忍者帷子乙五郎

野ざらし忍法帖…忍者車兵五郎/忍者仁木弾正/忍者玉虫内膳/忍者傀儡歓兵衛/忍者枯葉塔九郎/忍者梟無左衛門/忍者帷子万助/忍者野晒銀四郎/忍者枝垂七十郎/「甲子夜話」の忍者/忍者鶉留五郎/大いなる幻術(水木しげる画)

かげろうは江戸のはじめ、野ざらしは江戸の後期という時代ごとにまとめられている。

かげろう忍法帖はまだ戦国時代遠からぬ江戸初期の話なので、忍者の存在はあまりとっぴに見えないが、野ざらしになると時代が下って平和になってくることもあり、忍術というものに対する違和感やおかしさを取り上げた作品もあり、私はこちらのほうがナンセンスな感じがして好みだった。忍者傀儡歓兵衛なんかはギャグではないけど結構笑える。
山田風太郎忍法帖短篇全集 1 かげろう忍法帖
山田風太郎忍法帖短篇全集 1 かげろう忍法帖日下 三蔵

筑摩書房 2004-04-08
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おすすめ平均 star
starでかしゃった、ちくま書房!

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野ざらし忍法帖―山田風太郎忍法帖短篇全集〈2〉 (ちくま文庫)
野ざらし忍法帖―山田風太郎忍法帖短篇全集〈2〉 (ちくま文庫)
筑摩書房 2004-05
売り上げランキング : 511246

おすすめ平均 star
star長編的な面白さはないものの

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タグ:忍法帖
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2009年11月02日

緋色の研究(シャーロック・ホームズ) コナン・ドイル

ワトスン博士がシャーロック・ホームズと知り合うことになって、彼の探偵としてのお手並みを目の当たりにする、シャーロック・ホームズシリーズ初期作。
私はテレビのシャーロック・ホームズしか見たことがなくて、本は読んでなくこれが初めてなのだが、テレビの冷静沈着なイメージとちょっと違い、意外におだてに弱くて、ほめられるとちょっと得意げになるホームズが新鮮だった。話は飛ぶけど、前に読んだルブランの「ルパン対ホームズ」に出てくる、ルパンにやりこめられて、ぎゃふんとなるホームズを思い出したのであった。
この話ではどこで殺されたのかもわからない死体がある部屋の一室に転がっている事件を扱うことになるが、とある因縁話が興味深い。私は事件解決そのものよりも、こちらの話のほうが面白かった。
緋色の研究 (新潮文庫)
緋色の研究 (新潮文庫)延原 謙

新潮社 1953-05
売り上げランキング : 13356

おすすめ平均 star
star逸話だと思えば
star推理小説の金字塔・第一作
star一読の価値アリです。

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タグ:ミステリー
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2009年11月01日

アエネーイス(上)(下) ウェルギリウス

陥落するトロイアから脱出したアエネーイスを初めとする一行が神の示す新天地イタリアへ至るまでを歌い上げた叙事詩。紀元前のローマ帝国にいたウェルギリウスの作。
当時は帝政の始まったアウグストゥスの時代で、彼はウェルギリウスのこの作が出来上がることを心待ちにしていたらしい。それは彼がカエサルの甥であり、彼の血統がアエネーイスに繋がっていたということになっていて、この栄光が彼の帝国統治に影響すると考えるならば、この叙事詩は大きな力を持つことになるからだということだ。
以上は解説の覚書だが、アエネーアスの英雄振りと苦難が謳いあげられているのでそう考えてるのもわかる。解説ではウェルギリウスのこの作品そのものもいくらかそういう頌詩的な部分もあるようではある。政治的思惑は感心しないが、それでもよく構成された話の筋と比喩の巧みさはそれによっての価値を損なうものではなく、「イリアス」や「オデュッセイア」と同じように面白く読めた。
アエネーイスご一行様は大変な苦労をしているのだけれども、その背後には女神ユーノーに大いに憎まれたことが原因としてある。もとはパリスの審判からの憎しみなのだが、ユーノーのいつくしんでるカルタゴがトロイアびとによっていつか滅亡させられるという運命を知ってからはなおさら彼らの邪魔をする。その運命はすでに決まっていて覆せるものではないのだが、ありとあらゆるいやがらせをする彼女に女性の執念をみる思いでなかなか怖いです。
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タグ:叙事詩
posted by てけすた at 12:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (翻訳もの) | 更新情報をチェックする