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2009年09月29日

ラスプーチンが来た 山田風太郎

明石元二郎。この小説でされる紹介によれば日露戦争の影の立役者ということらしい。敵国において内乱を煽りみごとに任務をやりおおせた。
彼のやりかたは実に放胆であったという。素性がわからないのに金を渡したり、平気で指定場所へのりこんでゆく。第一、彼のスパイ名「アバズレス」は「あばずれ」からとったとか。実に大胆不敵な人物である。その彼を主人公とした例に拠って虚実不明の痛快なドタバタ小説だ。謎の占い師稲城黄天との美女の取り合いやラスプーチンとの対決は爆笑してしまった。発表されたときのタイトルは「明治化物草紙」で、明石を初めとして稲城やラスプーチンの化け物ぶりは実に感嘆する。さらに乃木希典やその馬丁、下山宇多子、化け物とはいえないけれども、二葉亭四迷やチェーホフなどが出てくる。
明石元二郎の個性が強すぎで、他の明治小説とは違う小説の感がなきにしもあらずではあるけれども、これはこれでまた面白い。
ラスプーチンが来た 山田風太郎明治小説全集 11 ちくま文庫
ラスプーチンが来た 山田風太郎明治小説全集 11 ちくま文庫
筑摩書房 1997-10
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star日露戦争の陰の英雄と、ロシアの怪僧との対決
star化物大津事件
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タグ:明治
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2009年09月28日

エドの舞踏会 山田風太郎

うわあ、やっぱり山田風太郎の明治小説は面白い。
この作品は、鹿鳴館で舞踏会を開いていた頃の明治政府高官たちの奥様がたに焦点を当てている。山本権兵衛が西郷大臣の秘書官となったときに、舞踏会へ出席を促すための仕事をおおせつかって、大山捨松夫人といろんな家へ訪問するのだが、いろいろ家庭問題を見聞きして、それに彼が解決のために関わっていくという話だ。
私の思うところは田中優子さんも解説で語っていたので、なにもいうことはない。
「ゴシップから始まる新聞連載実話小説を読んでいるような気にさせられる」というのもその通りだし、「精神的に自立しつつ、冷めた眼と意志への情熱をもった女たちを描いている」というのも、自分はこんなにうまく言語化できないことをさらりと述べてくれている。
実に、書かれてることはある意味下世話なのだけど、その中に潜む女性たちの生命力には喝采を送りたくなる。
この小説は「幻燈辻馬車」と並んで、明治シリーズでは一番好きな部類にはいるなあ。筑摩では今明治ものは「警視庁草紙」と「明治断頭台」しか増刷してないんだが、なんで他のも増刷しないのかなあ。できれはセットを重版して欲しいし、そうなったら買うつもりなんだけど、人気ないのかなあ?面白いのに。
余談だが、ヤフオクでちょっと前にこのセットが出品されたのを見た。で、結局定価の倍近い値段で落札されてたぞ。
エドの舞踏会―山田風太郎明治小説全集〈8〉 (ちくま文庫)
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star森有礼夫人に拍手
star美しき明治の華たち
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タグ:明治
posted by てけすた at 12:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 山田風太郎| edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2009年09月26日

くノ一忍法帖 山田風太郎

地味に山風の忍法帖を読み始めている。まだまだたくさん残っていてこれから先も楽しみはつきないが、とりあえず今まで読んだ中で、この「くノ一忍法帖」は一味違った。大阪城が落ちる直前に秀頼の子を宿した5人の真田忍者の女性と、それを知った家康が放つ伊賀鍔隠れの谷の5人の忍者との死闘というのは他の忍法帖と変わらないが、ラストに「そうきたか!!!」と膝を打ってしまうような文で締めくくられいる。なるほど、著者ご本人が’忍法帖の代表作として推した'(角川文庫カバーより)というのもわかる。史実の出来事をパズルのように組み合わせて恐ろしいまでに荒唐無稽な展開を描くのは山田風太郎の得意とするところであるが、開化小説も全部含めて、この小説はその意味で一級品なんだろうと思う。
とまあ、あらすじのことばかり書いたが、出てくる人物も相変わらず楽しすぎる。忍法帖といえば美女が相場なのだが、今回は豪傑女が出てきてえらい働きをするので、これが最高だった。
くノ一忍法帖 (角川文庫)
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star内縛陣がやぶられているぞ
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現在は講談社文庫で入手可能。
くノ一忍法帖―山田風太郎忍法帖〈5〉 (講談社文庫)
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starアイデアに唸らされます
star風太郎フェミニズム文学
starラストは流石。

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タグ:忍法帖
posted by てけすた at 12:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 山田風太郎| edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2009年09月25日

アンナ・カレーニナ(全3巻) レフ・トルストイ

この小説は主にアンナの道ならぬ恋と、もう一人の主人公ともいえるリョーヴィンの生活が中心となっている。
他の貴婦人たちが要領よく夫以外の男性と恋を楽しんでいたときに、アンナは愛してもいない夫とうまくやっていこうとすることができず、真っ向から道ならぬ恋に飛び込む。それはアンナが自分自身を偽ることができないからだということはこの小説の折々からうかがうことができる。にしても、彼女の感情はあまりにも重たかった。縛りのきつい貴族社会に抵抗したのはいいけれども、結局は社交界から飛び出すことができずに自滅していった様は読んでいて辛くなってくる。
まあ、世間は愛人ヴロンスキーの母親がいみじくも述べたような悪い女としてみるだろうが、読者はアンナの内面をこうして知ることができる。だからこそ、いい悪いを一概に決め付けることができない。
さて、もう一人の主人公リョーヴィンの場合はどうであろうか?著者は彼に人生についてのさまざまな問題を思索させ、また生命の誕生や死にも経ち合わせている。ここで、トルストイ自身としては彼を通じて彼なりの考えを示そうとしたのだろうか?リョーヴィンの思索は私のような平凡な一読者にも親近感のもてるような疑問を投げかけ、それに回答を見つけようとしている。破壊的筋立てを生きたアンナと建設的になろうと勤めたリョーヴィンの対比が鮮やかである。
人生いろいろ。
アンナ・カレーニナ (上巻) (新潮文庫)
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starこれを読んでいない人間の存在が信じられない(と思えるほどの傑作)
star初めてのトルストイです。
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タグ:ロシア文学
posted by てけすた at 13:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (翻訳もの)| edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2009年09月22日

気になるタイトルの話

本屋や図書館を巡っていると、著者のことはよく知らないのだけれども本のタイトルだけいやに気になることがある。他に読みたい本もあるし、と思って気にしないようにしてると、ますますその本が目に入ってくるので、とうとう読まざるをえなくなる、そんな本が今までに何冊かあった。
近年では
「君たちはどう生きるか 」(岩波文庫)
とか、
「暴走老人!」
とか。
なんてことはないのだけど、よくも悪くも読むと胸のつかえが降りるので、この頃ではなるべく無視しないようにしようと思っている。というのも、そういう本でタイトルからイメージした以上に面白かったりすると、その著者の本をもう少し読んでみたくなったりすることがあるし、実をいえば、はまってる作者というのはそうやって出会った本が縁になっていることが多いのである。
その本を挙げてみると
「おれの血は他人の血」で筒井康隆にはまり、「よろずや平四郎活人剣」で藤沢周平にはまり、「柳生十兵衛死す」で山田風太郎にはまるといった具合。
他にもはまり度は今のところ小さいが、少し継続して読んでみようかと思ったものには「新リア王」の高村薫がいる。
まあ、はずれる本もあるけれど、新規開拓するにはいいんじゃないかなと自分では思う。


おれの血は他人の血 (新潮文庫 つ 4-8)

おれの血は他人の血 (新潮文庫 つ 4-8)

  • 作者: 筒井 康隆
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1979/05
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よろずや平四郎活人剣〈上〉 (文春文庫)

よろずや平四郎活人剣〈上〉 (文春文庫)

  • 作者: 藤沢 周平
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2003/12
  • メディア: 文庫




柳生十兵衛死す〈上〉 (小学館文庫―時代・歴史傑作シリーズ)

柳生十兵衛死す〈上〉 (小学館文庫―時代・歴史傑作シリーズ)

  • 作者: 山田 風太郎
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1999/02
  • メディア: 文庫




新リア王 上

新リア王 上

  • 作者: 高村 薫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/10/26
  • メディア: 単行本



posted by てけすた at 13:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (その他雑談)| edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2009年09月18日

菊と刀 ルース・ベネディクト

自分のことというのはなかなかわからないものだ。もちろん、他人がそう見えるからそうだというわけではないのだが、他人からそう指摘されると、なるほどなあ、と思うことはよくあるはずである。
この本はそんな感想をもった。
この中で一番うまいなあ、という表現が、恩や義理の働き方を金銭の貸借になぞらえて説明している部分だ。この喩えはとても新鮮で、改めて恩や義理の日本社会での動き方に目が開いた思いだ。
ということで私が連想したことといえば、あの盆暮れの贈答品のやりとりであった。あれこそ、恩義理の数値化といってしまってもいいのではあるまいか。人はどのくらい世話になったかによって、贈るものの値段を取り決める。少なくとも私の周りではそうだった。虚礼廃止といいながらその規模を縮小することもあるけれども、大抵の場合、廃止するということはしばしば世間から身を引くことを意味するので、なかなかやめるのに勇気がいる。
第二になるほどな、と思ったところは、自己責任ということに関してである。日本人は常日頃自分を磨くことを推奨される。失敗はその磨き方が足りなかったせいであり、その結果は甘んじてうけとめなければならないという考え方。そして、人の眼を尺度としているので、嘲笑や蔑みを恐れるとともに、自分のことに対する侮辱には容赦せず、復讐することは自分の汚名を晴らすために有効だとしている点。
これらはばかばかしいとは思うけれども、それはもっともなことだと思っている自分もいる。日本人がしばしば失敗した人に冷酷なほどの態度を示すのはこれと関連しているのだろう。
ああ、そういえば近年はやった自己責任論、あれは欧米化したのではなくて、まぎれもなく日本的な反応だったのだなあ。

すでに出版されて半世紀以上経過し、この本に対する批判などもたくさん出ているようだ。
私はこの中に書かれている日本人の姿が妥当かどうかはわからないけれども、しばしばアメリカ人との比較を書いているのでアメリカ人というものがどんな風にかんがえているのか、そんなこともちらほらとわかる本であるとは思う。睡眠のくだりでアメリカ人が起床したとき「夕べは何時間寝たか」と計算して、その日発揮できるエネルギーと効率の見当をつける、というところは、ちょっと私はびっくりです。まあ、私も「10時間も寝てしまった」とかやらないわけでもないんだけど、意味合いが違うしなあ。
菊と刀 (光文社古典新訳文庫)
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star戦後の日本人論はここから始まった

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タグ:日本人
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2009年09月16日

アイヴァンホー(上)(下) ウォルター・スコット

スコットという作家は後のヨーロッパの作家たちに大きな影響を与えたという。そして、この作品は当時人気を博した歴史小説であるが、今で言う稗史的な伝奇小説である。
ということでかなり期待しながら読み始めた。
十字軍遠征の時代、イギリスはノルマン人が支配し、サクソン人は中枢から締め出されていた。宮廷ではリチャードの留守に弟ジョンが王座を狙わんと策略を練っていた。
そんな時代のアイヴァンホーと呼ばれたサクソン人の若い騎士が中心となる話であるが、この人物が物語を引っ張っていくわけではない。中心になるのは、ノルマンとサクソンの争う様子である。アイヴァンホーはそのサクソンの勇者としての役回りで登場するのである。
ということで、アイヴァンホーの八面六臂の戦いぶりが堪能できるわけでもなし、かといって戦いの場面が面白いかというと、自分の感じではそれほどでもない。
なんというか、イギリスのお国柄のためなのか悪役が本気ともジョークともつかないような滑稽なセリフをはいたり、善玉への苦しめ方が中途半端なのでどこか物足りなさを感じてしまうのである。
その中で、一番面白かった部分といえば、最後の方にある、ユダヤの美少女レベッカと御堂の騎士ブリアン・ド・ボア・ギルベールとのやりとりであろう。私には武術試合の主人公の活躍や、トールキルストンでの戦いよりも面白く感じた。
2人のやりとりには鬼気迫るものがあって、どこか悠長にも感じられた試合や城での争いを吹き飛ばすくらいである。
途中でよほど読むのをやめようかと思っていたが、このやりとりを読むことができて、まあほんとによかった。
決してこの小説設定や筋がきがダメというわけではなくて、お約束的な展開に私が楽しめなかったのである。それとイギリスの風習に暗いところがあって、なにが面白いのかわからないという無知な面もあったであろう。
出てくる人物が、日本における源氏や平家といった具合にわかっているならば、また違ったのかもしれない。
アイヴァンホー〈上〉 (岩波文庫)
アイヴァンホー〈上〉 (岩波文庫)Walter Scott

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star痛快な中世歴史絵巻
star最初を乗り越えれば
star我が青春の騎士物語り

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アイヴァンホー 下  岩波文庫 赤 219-2
アイヴァンホー 下    岩波文庫 赤 219-2Walter Scott

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タグ:歴史小説
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2009年09月13日

イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ レフ・トルストイ

二作ともトルストイの後期に分類されるもので、死及び性という人間の背負うものをとりまく苦悩が描かれている。

『イワン・イリイチの死』
主人公イワン・イリイチが死において体験した心理的な葛藤を描く。冒頭、イワンの死が同僚に知らされる場面から始まるのだが、彼の死を弔いにいく友人の形式的な所作や全く別のことを考えてる様子と、その後に続く、イワン本人の生涯と彼の心理状態を描いた様子がみごとに好対照をなしている。実をいえばあとからイワンの心理状態が描かれるとき、この友人に代表されるような心持について、イワンが家族に対し邪推して拗ねて嘆く場面がよくでてくる。
キーゼヴェッターの三段論法「カイウスは人間である、人間はいつか死ぬ、したがってカイウスはいつか死ぬ」というのを思い浮かべるシーンがあったが、他人の死と自分の死は全く別のものであって、カイウス(カエサル)が人間で、人間一般であることには問題ないが、自分は他の人間と違う特別の存在なのだ、という言い分はやっぱり自分もそういう立場におかれたら思うだろうなあ。

『クロイツェル・ソナタ』
汽車に乗り合わせたものたちが結婚と愛の話をし始めるのだが、その話を聞いていたある人物が水を浴びせたように結婚と愛のことを否定し、自分は妻を殺してきたと告白する。
わたし(この小説の主体)は彼の話を聞くことになるのだが。
ポズヌィシェフという妻を殺した男の話は恐ろしいほどに欲望を否定する。労働に見合う食事をせず、貴族は食べ過ぎるからエネルギーがあまって放蕩するようになるだとか、女性が着飾ってるのは男を引っ掛けるためだとか考えて、かといって、彼が若い頃から節制してきたわけではなく、寧ろその放蕩生活をしてきたものだから、罪悪感をもっていて、妻となる女性に自分の生活を書いた日記を見せたという、ちょっとびっくりするような人。ここに書かれたことは後年のトルストイの結婚観とも深く関わっていたという話でもあり、発表された当時はかなり物議をかもし出したそうで、確かに取りざたしたくなるような極論が目白押し。
それはそうと、そうやって妻と険悪な雰囲気になり、やがて自分の怒りは妻のせいだと感じるようになったと、ポズヌィシェフは言うのだが、これって、DV男フラグだよね。そして結果的に殺人してしまうのだから。
イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)
イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)望月 哲男

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おすすめ平均 star
starこの本の価値
star短編小説家としてのトルストイ
star心の中に吹き荒れる嵐

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追記(20:31)
タグ:文学
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2009年09月11日

忘れられた日本人 宮本常一

本書は主に西日本の地方の村に住む老人たちの語るはなしを紹介したものである。歴史的には名を残してはいない一老人たちの話は平凡にはあらず、一人ひとりが個性的な話をもち、農以外の多様な生活実態などのイメージが珍しく、わたしには大変興味深かった。
とくに土佐源氏の話や、ご自身の祖父の話、世間師と題された部分の話は単純に読み物としても面白く、網野善彦さんの解説によれば、土佐源氏は創作だと言われたこともあるらしい。
このなかで出てきた話の中に時間を気にせず、寄り合ったものがいろんな話を坩堝に入れるようにしてそこから自然と解決策を示す寄りあいの話し合い方がある。これは場合に拠っては何日もかかることがあるそうで、老人たちの若い時代だとこれが泊りがけで行なわれることもあったそうである。話し合いとしてはとても無駄なように感じてしまうのだが、このようにするとあとあともめることが少ないのだそうである。現代がとかくムダをなくすために議題以外の話題は脱線するからとすぐに多数決で結論を出したがるところがあるが、そうやって得た結論にあとあとしこりを残すことも多いのに比べると、一見むだに見えることがそうではない場合もあるということをこの寄り合いの話は教えてくれる。
思えば話し合いの仕方に限らず、ここに出てきてるような生活に現代人が捨ててきたものが多々あった。そもそも今の道徳観から躊躇するような性の習慣もあるが、フロイトじゃないけれど、抑圧して生活している現代人が神経症的になってるかもしれないとつい思ってしまう。さらにみんなが土地に縛られて田畑を耕していたわけではない、という当たり前の事実をあらためて認識したのであった。
忘れられた日本人 (岩波文庫)
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おすすめ平均 star
star祖父に捧げられた宮本常一<最大の賛辞>は格別
star日本人の原点
starアカデミックかはさておき

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タグ:民俗
posted by てけすた at 06:38 | Comment(3) | TrackBack(0) | 本 (国内) 小説以外の著書| edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2009年09月09日

古代への情熱 ハインリヒ・シュリーマン

トロイヤ戦争の絵本を読んでそれが実在すると信じた少年シュリーマンが後にトロイヤの遺跡を発掘したのは有名な話である。そのシュリーマンの死後に著作「イリオス」で書いた自叙伝の部分と、彼の妻とブリュックナー博士が彼の著作から抜粋して補足しながら発掘研究時代の部分を書いた本である。
この中でシュリーマンは若い頃の不遇を乗り越え、商人として成功したのちに、まさにホメロスの詩が事実であることを信じて発掘調査にのりだしたパワフルな姿を知ることができる。
商売上の幸運の話や、文法の勉強をせず音読と暗誦で十数ヶ国語をマスターしたことなど面白い逸話がたくさんある。おそらく本人も面白い人物だたのではあるまいか。
そして何が一番感心したかって、自腹で発掘調査を始めたところ。自分のやりたいことをやるためにきちんと稼ぐというのはなかなかできることではない。解説では彼のことをセルフメイド・マンといっているが、確かにそんな感じ。
古代への情熱―シュリーマン自伝 (岩波文庫)
古代への情熱―シュリーマン自伝 (岩波文庫)H. Schliemann

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starモチベーションの起爆剤に
star「情熱を抱くのは素晴らしい」と教えてくれる『小説』
starあなたは何に情熱を傾けていますか?

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タグ:自伝
posted by てけすた at 20:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (翻訳もの)| edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2009年09月08日

項羽と劉邦(上)(中)(下) 司馬遼太郎

初めての司馬遼太郎です。
項羽と劉邦の戦いは世間によく知られていて、私が昔読んだ人物百科事典(小学生向け)にも四面楚歌の逸話が載っていた。でも、どういういきさつでそういう風になったのか歴史通ではないのでよくわからなかったのだ。
で、『項羽と劉邦』を読んだのだけど、これはえらくためになった、と思わせるような丁寧さ。小説なのだが、話を読んでるというよりは著者のレクチャーを聞いてるような感じなのである。
初めに中国を初めて統一した秦の話が出てくる。滅亡までの経緯を内部と外部の説明をしながら、項羽と劉邦の素性、さらに彼らを取り巻く人物たちをエピソードを交えて説明するので、なんとなく頭に入って賢くなった気分にさせてくれる。この小説では“人望”とは何かということを言及したと解説や紹介文では書かれている。
能力の点で劉邦は項羽の敵ではないのだが、自分が弱者で能力などあまりないと自覚していて、それが他人の言説をよく聞いてくれるという長所につながっている。一方項羽は狭量な面がある。そして結果はといえば、負け続けの劉邦が皇帝になるのだから、つくづく人望というのは侮れない。
とまあ、読んだあとになんとなく通になった気分にさせてくれる。
社長たちに好まれるのもこの不思議な作用が働いてるのか?
他の著書はどうなのかしら?
項羽と劉邦 (上) (新潮文庫)
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star項羽=日本的、劉邦=中国的?
star鬼神、項羽
starこんな男が漢の高祖 嘘でしょう

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項羽と劉邦〈中〉 (新潮文庫)
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star劉邦もなかなか可愛いかな
star(おれは、つまらぬ男だな)劉邦 本文から
star役者は揃った

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項羽と劉邦〈下〉 (新潮文庫)
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star四面楚歌
star「将に将たる能力」本文から
star項羽の魅力

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posted by てけすた at 20:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 小説| edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2009年09月04日

太陽を曳く馬(上)(下) 高村薫

社会や組織というのはおおよその決まりごととつくり、枠を決める。その枠にはみ出したものは枠内へ治めるべくいろいろな策を用いるわけだが、この過程を標準語化と比喩するならば、さしずめ個人の枠に収まりきらない部分は方言という喩えになろうか。
本作品では2人の若者が死ぬ。一人は死刑として、一人は事故死として。
しかし、そこへ至るまでの経緯には標準語化するのがためらわれるような事情があった。それは両者とも心身に障害もしくは病を持っていて、その行動が取り巻く集団に理解させることを困難にしているからだ。
そういえば、この2人が関わった芸術や宗教もまた社会では自分の方言を表現する手段として用いられることが多いではないか。
しかしながら、それらすら標準語化を免れることはできず、そこからはみだした部分は意味不明、もしくは別の意味へと変換せざるを得ない。ましてや、法曹の世界ではどれだけの変換が行なわれているのだろう。
合田雄一郎はそのことを切々と感じて事件に関わってゆくのだが、報告の先にあるのは結局曲解され、処理されてしまうという無力感ではある。福澤彰之にしてもそうだ。結局、社会や組織という集団と個人の異端が対峙したときに、個人の方は敗北ばかりだ。そして合田は放擲し、福澤彰之はその場から遠ざかる。
この社会と個人の齟齬の問題は人間としては永遠の課題であろう。そこに解決を見つけるのは容易ではないし、本作品にもその解決策は示されていない。あるのは虚構に託した現代日本のワンシーンである。
抽象的な感想文になってしまったが、このワンシーンを支える、美術論や宗教論の分量に圧倒される。言葉による解釈は群盲像を撫でるのことになりやすいし、実際読んでいて空しさに襲われたこともしばしば。どんなに議論を尽くしても答えは見つからないもどかしさ。
太陽を曳く馬〈上〉
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starあれの1割も売れないだろうけど

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太陽を曳く馬〈下〉
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おすすめ平均 star
starまたも立ちすくみました。
star高村薫の三部作の感動的な完結編

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タグ:社会
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2009年09月01日

王妃マルゴ(上)(下) アレクサンドル・デュマ

16世紀のフランスに吹き荒れた宗教戦争。カトリックとプロテスタント(ユグノー)が激しく対立していたが、その和解とすべく、王家の娘マルグリットとユグノー側の頭領ナヴァール王の結婚が決まる。しかしそれは恐ろしい出来事へ繋がる罠であった。
マルグリットとナヴァール王の間に愛はないが、政治的同盟を結び母后カトリーヌの策略を切り抜けてゆく。そんな生活の中、マルグリットはあの結婚式のために呼び出された各地の貴族や騎士の中にいた、ラ・モルと恋愛関係になるのであった。

スタンダールの『赤と黒』の中で、マチルドが一族であったラ・モルとマルグリットの恋愛にいたく心酔し、自己のジュリアンに対する恋心を彼らになぞらえて考える場面がでてきた。その話がこの小説で書かれてると知り読んでみたのだが、なるほど、マチルドが心酔するのがよくわかった。そして、大デュマはたいしたストーリーテラーである。史実でも恐らく相当激しい内乱があったのだろうと察するが、そう考えてもなお、ドラマチックにナヴァール王やラ・モルが活躍する様子はとても鮮やかだし、そしてカトリーヌの悪役ぶりが凄い。とにかく自身の思うとおりに国を動かしたくて、次々と毒を飼う事飼う事。
このシビアな政治闘争と、人間不信の出来事がこれでもかと描写される中で、ラ・モルとココナスのユーモラスなやりとりはひとときの安堵感がある。最初こそ宗派の違いで対立したが、相手を思いやる心がやがてこの2人に友情を結ばせるところなどはちょっと感動してしまった。
王妃マルゴ〈上〉 (河出文庫)
王妃マルゴ〈上〉 (河出文庫)Alexandre Dumas

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starデュマ的フランス史の一幕

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王妃マルゴ〈下〉 (河出文庫)
王妃マルゴ〈下〉 (河出文庫)Alexandre Dumas

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タグ:歴史小説
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