2009年06月29日

むかし・あけぼの―小説枕草子(上)(下) 田辺聖子

とても面白かった。古典の「枕草子」といえば、昔学校で少し習った程度で本格的に読んだことはないのだが、ものの見方が面白いな、と思った記憶がある。
本書は清少納言の生涯を枕草子を元に描いた小説である。伝記ではないので、多分に虚構がまじるが、機知に富んで、人から注目されるのが好きな才のある人に描かれてるのは「枕草子」のイメージにぴったりだ。しかも、それは彼女が仕えていた中宮定子もまたそのような明るいイメージに描かれたことを示す。
そうなのだ、これは清少納言という人物を通してみた中宮定子の物語なのでもある。
かの后は後ろ盾を失って、若くしてなくなるという悲劇の人物なのだが、この小説ではそれを覆すような、明るくて何事も良いほうへ考えようとする賢明な女性となっている。清少納言が彼女に魅せられたように、私も定子の人となりに好感をもった。
それから、清少納言の元夫、橘則光との関係が面白く描かれていて、これも読んでいて、笑ってしまう。則光は清少納言と違って、歌が苦手で、機微に長けてるとはいえない人物だ。率直なところで、彼らはウマが合うのだが、体を動かすほうが好きな夫と、機知に富んだ会話がしたい妻ではぶつかることも多い。痴話げんかともいえるが、それがなかなか読んでいて笑える。
あと、ワカメの話、以前どこかでそのエピソードを読んで笑った覚えがあるが、この小説にもちゃんと出てきて、詳しく書いてあったものだから、うれしくなる。
「枕草子」きちんと読んでみたくなってきた。
むかし・あけぼの―小説枕草子〈上〉 (角川文庫)
むかし・あけぼの―小説枕草子〈上〉 (角川文庫)田辺 聖子

角川書店 1986-06
売り上げランキング : 65741

おすすめ平均 star
starどうしても処分できない本のひとつです
star言葉も美しく、直感に彩られて、作者の個性も浮き彫りにされている
star耽読するには……

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むかし・あけぼの―小説枕草子〈下〉 (角川文庫)
むかし・あけぼの―小説枕草子〈下〉 (角川文庫)田辺 聖子

角川書店 1986-06
売り上げランキング : 64597

おすすめ平均 star
star女性ならではの視点が
star良いです。

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ラベル:古典から小説
posted by てけすた at 12:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 小説 | 更新情報をチェックする

2009年06月26日

椿説弓張月(全3巻) 曲亭馬琴

源為朝は学校の歴史ではあまり出てこない。保元の乱で島流しになって、しばらくはそこに住んでいたが、後に自害したため、歴史で特に目立った活動はしてしないからだ。だが、曲亭馬琴は伝奇物語として、正史稗史を参照に、この為朝を偉大なる英雄にした。
為朝のことなどほとんど知らなかったので、昔は有名人だったのかと驚いた。
あらすじは為朝の剛勇ぶりと、伊豆諸島から、落ち延びてしばらくさすらい、琉球へとやってきて、奸を懲らしめ、子が王になるまでを描いているのだが、因果応報、勧善懲悪ぶりがはなはだしく、忠や考にそむく行いにはかならず報いがくるという徹底振り。まあ、痛快といえば痛快ともいえるが、なにかやるごとにやれ忠だの考だの持ち出されると、うんざりする点は否めない。これは現代の感覚で読むからそう思うのであって、江戸時代はそんなに違和感がなかったのかもしれないが。
それでも、細かい設定、義家が前九年の役の供養に放ったとされる金の牌をつけた鶴や崇徳院の御霊のこと、その他、死せるものの魂が、いけるものを助けたりすることなどは幻想小説みたいだな。「南総里見八犬伝」は水滸伝の影響を強く受けたとされてるが、この話もかなり影響を受けてる感じはする。いでたちを細かく描写したり、細かいエピソードを繋ぎ合わせたりするところがよく似ているのだ。
時代が近いので、古文といっても、読みやすいと思う。
それでも、読み慣れないので普通の本を読むよりは倍の時間がかかったけれども、「花伝書」なんかは現代語訳なしではちんぷんかんぷんだったのに比べるとだいぶいい。
椿説弓張月 (上巻) (岩波文庫)
椿説弓張月 (上巻) (岩波文庫)曲亭 馬琴

岩波書店 1930-08
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椿説弓張月 (中巻) (岩波文庫)
椿説弓張月 (中巻) (岩波文庫)曲亭 馬琴

岩波書店 1931-01
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椿説弓張月 (下巻) (岩波文庫)
椿説弓張月 (下巻) (岩波文庫)曲亭 馬琴

岩波書店 1931-03
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ラベル:古典
posted by てけすた at 20:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 近世以前の古典 | 更新情報をチェックする

2009年06月23日

八甲田山死の彷徨 新田次郎

「世界を変える100人の日本人」という番組がある。みたことはないが、web上で内容の一部が紹介されており、その中で、筒井康隆さんが「日本人ならこれを読め」というコーナーで日本人作家の本を紹介している。
http://www.tv-tokyo.co.jp/100japan/tsutsui/index.html
2009.6.19放送分は「八甲田山死の彷徨」であった。
軍が八甲田山で遭難した話だということは以前聞いたことがあったが、軍、山、どちらにも興味がないために、特に読もうとは思ってなかった。しかし、紹介文を見るに、これは組織論を内包した小説らしい。そのあたりに焦点を当てて、読んで見ると、なるほど、成功例と失敗例の対比、そして、日本の組織のあり方が浮かび上がってくる。

青森にある五聯隊と弘前にある三十一聯隊がそれぞれ逆方向から冬の八甲田山系を突破して相手方へ向かうことになったのは、上層部の人体実験ともいえるものであった。少数精鋭で自己に絶対権限を約束させて事に望んだ三十一聯隊隊長と、自己の履歴からくる劣等感からどうしても自分を抑えてしまいがちになる五聯隊隊長の対比、さらに人間関係のいざこざが組織に与える影響、など、こうして指南を受けて読んでみるということは、独自に読み解くのとは視点が違って、勉強になるものだな、と思った。もし、自分が独自で読み解いていたとしたら、恐らく五聯隊を遭難させた要因に目がいき、五聯隊隊長気の毒、みたいな感じで終わっていただろうと我ながら浅くて情けなくなる。
八甲田山の厳しい自然の描写や、それに立ち向かう隊員たちはどちらの隊にしろ息を呑むような迫力だ。

この作品とはちょっと離れるが、本の面白さは自分で読みたい本を読むことが一番なのだけれども、それでは手詰まりになる可能性がある。信頼できる人から、こうやって指南を受けてみるのは読書の幅を広げるのに役立つ。
八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)
八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)新田 次郎

新潮社 1978-01
売り上げランキング : 696

おすすめ平均 star
star陸軍の無謀な命令に従う男たちの冬山の戦いです。
star超迫力の描写
star遭難とは

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ラベル:戦い
posted by てけすた at 13:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 小説 | 更新情報をチェックする

2009年06月22日

邪宗門(上)(下) 高橋和巳

まず、最初に述べておきたいことは、この作品の作者あとがきで「思考実験」という言葉を見つけ、トルストイの「戦争と平和」を読んだときの、あの形式をなんと表現したらよいのか、わからない自分に示唆を与えてくれた。

宗教性というのがある。これをどう定義すればよいのか、自分としてはうまい言葉が見つからないが、仮に「信頼し、委ね、畏れる」をキーワードとして成り立つ感情と定義してみる。
ところで、宗教の門を叩く人間はいろいろだが、中でも「宗教性」の欠如ゆえに悩みその道へすすむ人がいるということがあるのではないだろうか。
それは「神を信じない」ということと同列では語れないのである。
無神論者でも宗教性の優れた人物はおり、宗教的なことをしていても宗教性が欠如した人物はいるのだ。
この作品に出てくる、千葉潔こそは環境ゆえか、それとも本来の性質なのかわからないが、「宗教性」の欠如した人間であると思う。
教義は知っていても、それがどういう意味なのか身を持って知るのが難しいのである。このような人物を頭にした教団は必然的に力による闘争と化していったのだと思う。

それにしても、この作品を読むと、オウム、アフガニスタン、イラクで起こったことを思い浮かべずにはいられない。部外者である私としては流れてくるニュースでしか様子を知ることができないが、それらの内部ではこんなことが起こっていたのかもしれないと、想像をかきたてるものがこの作品にはある。
人は進歩しないものだな、という嘆息とともに。
邪宗門〈上〉 (朝日文芸文庫)
邪宗門〈上〉 (朝日文芸文庫)高橋 和巳

朝日新聞 1993-06
売り上げランキング : 43157

おすすめ平均 star
star「凄い」という言葉がこれ以上にあてはまる小説を他に知らない。
star魂に響く名作です
star破綻した構想、されど名作

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邪宗門〈下〉 (朝日文芸文庫)
邪宗門〈下〉 (朝日文芸文庫)高橋 和巳

朝日新聞 1993-06
売り上げランキング : 162749

おすすめ平均 star
star神とは何か、そして人間とは何か

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うーむ、これいま品切れなんだ。今読んでみたらいい本ではないかと思うのだが。

ラベル:宗教
posted by てけすた at 12:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 小説 | 更新情報をチェックする

2009年06月20日

猫だましい 河合隼雄

たましいというのは科学でも説明できない。このことについて「なぜ猫なのか」という最初の章でこんなことを述べている。
一メートルの物差しを二つに切ったとする。そのとき片方の端が50センチから一メートルまでだとするともう片方の方は0からいくらまでになるのだろう。不思議なことにここには名前がつけられない。こちらも50センチだとすると50センチの点が二つあっておかしい。そこで49.9センチにすると0.1センチ抜け落ちてしまう…(中略)…最初から全体としてある「連続体」というのはなかなか明確に割り切って考えられないのである

として人を体と心に分けて考えると、このような部分ができるということをこの喩えは語ってくれる。そして科学が腑分けして名前がつけ難い部分を「たましい」というふうに名づけて、語ることが河合氏には多い。
で、この「たましい」というのはどうやら猫と結びつけて語るとなるほど、と思わせるようなのである。これは著者のテクニックではあろうけど、猫とは全く、うまいものだなと思った。
ところで、この本は猫が出てくる読み物をたくさん紹介している。そこに書かれた話を著者が解説する。
その読み物たるや、面白そうなものがずらりと並んでいて、猫本紹介というだけでも面白い。
「牡猫ムルの人生観」「長靴をはいた牡猫」「空飛び猫」宮沢賢治の猫童話、「トマシーナ」「猫と庄造と二人のおんな」「牝猫」…などなど、読んで面白かった、あるいは読んでみたくなった本がたくさん。
解説は大島弓子氏の漫画で、おっと、そういえば「綿の国星」も本文で取り上げられてましたな。
猫だましい (新潮文庫)
猫だましい (新潮文庫)河合 隼雄

新潮社 2002-11
売り上げランキング : 32949

おすすめ平均 star
star「世界の猫ばなしを、河合流の心理学で分析?!」
star猫という生き物の魅力を多角的に分析、自分的にも再確認
star河合氏に敬意と弔意を表して

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ラベル:こころ
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2009年06月18日

おんな牢秘抄 山田風太郎

江戸の女探偵小説。姫君お竜がおんな牢でどんな罪で入ったのか身の上話を聞き、その真相を探る。
なんか、ネタバレしそうなので、探偵小説やミステリーというのは感想書くのも気を使うが、私は叫びたくなった。
ということでネタバレ嫌いな人は以下読まないでください。
おんな牢秘抄 (角川文庫 (5664))
おんな牢秘抄 (角川文庫 (5664))山田 風太郎

角川書店 1984-01
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おすすめ平均 star
star風太郎捕物帖
starエンタテイメント極まれり

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ラベル:時代物
posted by てけすた at 12:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 山田風太郎 | 更新情報をチェックする

2009年06月16日

妖異金瓶梅 山田風太郎

「金瓶梅」の舞台や登場人物を借りてのミステリー。いわばバスティーシュといわれるジャンルになるのかな?
内容は西門慶の家で起こる怪死事件を発端に、いろんなトラブルが発生する。友人の応伯爵がこの事件を見破るというものである。
探偵役となる伯爵がこの小説の主人公といっていいだろう。
原典の風刺諧謔とは違う山田風太郎の異界めいた世界であり、「金瓶梅」を知らなくても十分楽しめるのではないかと思う。
この著を読む前に原典を読んだので、それとの比較もまた面白かった。西門慶は人の良い好色漢になってるし、潘金蓮は淫を通り越して「妖」婦の域にまで達している。
登場人物の属性を大幅に拡大してあの滑稽譚がこんなにも妖しい小説になるのだなあ、と感心した。
ところで、解説では「ミステリー史上空前絶後の傑作」とのことで、その理由が書かれているのだが、これを読んで自分はミステリー不感症だな、とつくづく思った。詳しくは書かないが、ミステリーに欠かせないからくりを私は特に凄いと思わず、「ああ、そうなんだ」と流れの一部としてしか読まないからである。
だから、ミステリーとしてどうだったかは書くことができない。数多く読んでるわけでもないし。
ただ、それを抜きにしても独自の雰囲気、あるいは心理描写、そういったものがうまく書けているミステリーは読んでいて面白いと思うし、これは独自の雰囲気と言う点でとても面白い。
妖異金瓶梅―山田風太郎傑作大全〈1〉 (広済堂文庫)
妖異金瓶梅―山田風太郎傑作大全〈1〉 (広済堂文庫)山田 風太郎

廣済堂出版 1996-04
売り上げランキング : 494940

おすすめ平均 star
star忍法帖シリーズなどで
star「空前絶後の傑作」なんて煽りも言い過ぎではないかも
star傑作との呼び声が高い

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ラベル:ミステリー
posted by てけすた at 12:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 山田風太郎 | 更新情報をチェックする

2009年06月14日

金瓶梅(平凡社奇書シリーズ)笑笑生 小野忍・千田九一訳

まずは解説に書いてあることを覚書。
成立は明の時代16世紀終わりごろ。著者笑笑生というのはペンネームで本名はわからないらしい。
「詞話本」というのがあって、その後17世紀に出版されると「改訂本」といわれるものが登場した。違いは「詞話本」が武松の登場から始まるのに対し、「改訂本」では西門慶の紹介から始まること、「改訂本」では僧や道士の説話や上奏文、唄や芝居の場面など本筋と関係ないと思われる部分が削られているとのことだ。ただ、「詞話本」は誤字・当て字が多い。
本シリーズでは「詞話本」を訳している。

「水滸伝」武十回に出てくる潘金蓮と西門慶の話をさらに拡大してまるで西門慶の一代記のようにまで仕立てられた「金瓶梅」。「水滸伝」がアウトローの好漢たちが集う物語とすれば、こちらは金の力に物言わせて一介の平民から役人へともぐりこむ、俗物出世物語ということで、好対照を成している。
とかく、男女関係の話ということで四大古典からはずされたりとあまりよい待遇を受けていない面はあるが、一人の俗物とそれを取り巻く人間関係を描くことで腐敗した権力を鋭く風刺した話でもある。西門慶の人物象は「水滸伝」の好漢たちと違って、うまく立ち回り、欲望達成のためにはどんなことでもする。その様子が家庭生活では滑稽譚となり、社会生活では野心満々の俗物という形をとって現れるのである。
できれば、先に「水滸伝」を読んでおくと、背後関係がつかみやすい。
それにしても「水滸伝」では敵役だった、潘金蓮と西門慶もこうして物語の主人公として細かく語られるとなんとなく憎めなくなってくる。彼らも人の子で、悲しいこともあるのだ。
まあ、著者は彼らを皮肉たっぷりに揶揄しているけど、それは欲心を満たすために人を踏みにじるようなことをしているからこその批判であろう。
どうでもいいけど、雲雨シーンになるとなぜか詳しく訳さなくなるな。(といいつつ自分も普段使わない言葉を今使ったわけだが。)極端なのは本当に白文だったりするので、その向きを楽しみたい人には想像力をたくましくする必要がありそうだ。唄や芝居の部分は七五調に訳してあってこれはうまいと思った。
全3巻
金瓶梅 上 (奇書シリーズ 1-1)
金瓶梅 上 (奇書シリーズ 1-1)小野 忍 千田 九一

平凡社 1972-06
売り上げランキング : 98214


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岩波文庫も同じ内容であるらしい。セットは売り切れだがバラでならある。全10巻
金瓶梅 1 (岩波文庫 赤 14-1)
金瓶梅 1 (岩波文庫 赤 14-1)小野 忍 千田 九一

岩波書店 1973-06
売り上げランキング : 237330


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ラベル:中国古典
posted by てけすた at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (翻訳もの) | 更新情報をチェックする

2009年06月12日

女神記 桐野夏生

二極に分かれるのは物事を生み出すため。天と地、陽と陰、明と暗、昼と夜、生と死。
しかしながら、陰に属する部分は穢れとされ、忌まれるようになる。陰の部分は人にとって恐ろしいものであるから。
以前、網野善彦氏の著書で、人の力ではどうにもならない自然現象と関わる人々は畏れからやがて忌み嫌われるようになり、それが差別と繋がっていった、というのを読んだことがある。子供を産むことのできる女性はそれだけで畏れの対象となるが、増してや死をつかさどるようになった、イナザミのことをどう捕えたらよいであろうか。
また、主人公ナミマの数奇な運命。彼女を見ていると、どうしてこうも人は不平等に出来てるのだろうかと思わずにはいられないが、これは私自身がやはり陽に属する部分を好ましく思い、陰の部分を恐れているからそう見えるのであろうか。

ヤマトから遠く離れた東の果ての島に住む少女の運命と、日本神話にでてくるイザナキイザナミの神のその後を描いた小説。
主人公のナミマは島の掟を破って逃げ出し、イザナミに出会う。その遍歴には似たようなところがあり、彼女は女神イザナミの巫女となるのだが。
女神記 (新・世界の神話)
女神記 (新・世界の神話)桐野 夏生

角川グループパブリッシング 2008-11-29
売り上げランキング : 3320

おすすめ平均 star
star闇と光
star女神もひとりの女であった
starあまりにも人間的な、男神と女神の壮絶な争闘

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ラベル:運命
posted by てけすた at 12:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 小説 | 更新情報をチェックする

2009年06月09日

不気味な話 江戸川乱歩

江戸川乱歩の本は巷にいくらでもあるのだから、何を好んでわざわざ品切れの文庫本を紹介しなくてもよさそうなものだが、古本屋で見つけたこの本がわたしを手招きしていたのだから仕方がない。
この文庫本に収録されてるのは
「押絵と旅する男」「人間椅子」「人でなしの恋」「虫」「防空壕」「鏡地獄」「火星の運河」「踊る一寸法師」「指」「芋虫」「目羅博士」「百面相役者」「白昼夢」「毒草」「お勢登場」
以上15編である。
有名どころのキャラクター作品はでてこず、押絵や人間椅子など面白いものもあるけど、全部が全部傑作、というわけでもないのだが、人間心理の不可思議さを題材にした怪奇的なものばかりを集めたという点が、わたしの心をぐっとつかんだのだった。
押絵の女に恋した男。人形に恋した男、所有欲が昂じた殺人、幻想的な恋とその真相、悪夢が現実となったとき、
こんな場面がそれぞれの短篇に現れ、なんとも恐ろしくも耽美的な世界へ引き込まれるのである。
特に「人でなしの恋」と「お勢登場」には読後ため息が出るくらい息を詰めてしまった。ままならぬのは人の心、である。
しかし、わたくし、子供時代私は乱歩を読んでいないのだ。こんなに面白いのになぜ読まなかったのだろう?全く目が開いてても見えず、であったな。
江戸川乱歩 (河出文庫―不気味な話)
江戸川乱歩 (河出文庫―不気味な話)江戸川 乱歩

河出書房新社 1994-12
売り上げランキング : 715927

おすすめ平均 star
star乱歩の入門書としておすすめ

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ラベル:怪奇
posted by てけすた at 12:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 小説 | 更新情報をチェックする

2009年06月06日

花伝書(風姿花伝) 世阿弥 川瀬一馬注訳

世阿弥の名が出てるので世阿弥が著したと思ってしまうのだが、本書を読んで、これは父の観阿弥が言っていたことを世阿弥が書き起こして注意書きをつけたものだ、ということを知った。
従って、この著は観阿弥の能舞台論ということになる。
ところで内容であるが、観阿弥の言うところ、およそ全ての表現者が読んでみて損はしない内容ではあるまいか。
花という言葉が出てくるが、花とめずらしさとおもしろさは同じものであるという。ここに観阿弥の芸術観が見える。すなわち、珍しいとか面白い、というのは花のように咲いては散り、散っては咲く、というふうに変化することだ。確かに、年がら年中桜の花が咲いてたらちっともありがたいとも思わなくなる。
そして、春には春の、秋には秋の花があるように、時分にあった花をみせるよう、物数を増やしておけば、いろんな花をずっと見せることができる。
などなど、含蓄のある言葉がたくさん。
私が読んだ講談社文庫のは、本文と校注のほか、巻末には現代語訳と解説、簡単なまとめがついている。
古文が苦手な向きには読みやすくていいかもしれない。
私も古文は苦手なので、現代語訳を参照しながら本文を読んだ。

一、稽古は強かれ、情識はなかれとなり
(稽古はたくさんやれ、自分勝手な考えでやるのはいけない)

というのは舞台に限らず、どの分野でも参考になる言葉ではあるな。
花伝書―風姿花伝 (講談社文庫 古 15-1)
花伝書―風姿花伝 (講談社文庫 古 15-1)世阿弥

講談社 1972-03
売り上げランキング : 72853

おすすめ平均 star
star奥義―「秘すれば花」
star基礎を繰り返し
starマスを相手にするクリエーター必読

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ラベル:古典
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2009年06月03日

紅楼夢(平凡社奇書シリーズ)曹雪芹/高鶚補 伊藤漱平訳

中国四大奇書ではないが、その広大さと社会風刺が効いていることからこれに準じた扱いをされている作品。
解説からの覚書。
18世紀の終りの清の時代に書かれたのだが、曹霑原作というのは現存しておらず、後に注釈がついた本が残り、しかも百二十回のうち八十回までしかかかれておらず。あとの四十回は別の人が補ったものであるという。従って、矛盾する箇所や意味の通りにくい部分がある。解説にはいろいろ説明してあったが、ややこしいので省く。

石の記録したものというので別名「石頭記」ともいわれるこの作品は、最初の部分がえらく幻想的でいい。なにせ天を修復するときに使われなかった石が知恵と煩悩をもってしまったので、僧侶と道士の力をもって、娑婆へ下るという設定、また同じく登場人物たちが太虚幻境から下界へ降りてくるという設定、これがなんとも魅力的なのである。
さて、彼らが降りてきたのは当時今をときめく分限者の一族。そこに娘として、嫁として、そして生まれたときに玉を含んでいた少年としてこの一族として生きている。宝玉と呼ばれるこの玉を持つ少年は女の子と遊ぶのが大好きで、勉強などまるでしない。彼の祖母は一家の母として敬われてるが、彼はその祖母に可愛がられている。
この分限者一族の栄枯盛衰が語られてゆくのだが、前半はもっぱら宝玉と彼を取り巻く少女たちとの心理小説、後半はさながら「ブッデンブローグ家の人々」のように、家の危機が描かれる。
心理の部分に重点が置かれているところは漢詩がたくさん出てくるので、私のように漢詩が苦手な向きにはちょっとその面白さがわかりにくい。少女たちの心の動きは面白く読めるのだが、それを漢詩に託されるととたんに読みにくくなる。
後半、特に他者による補作がなされたところはテンポよく進み、物語は収束する。
責任を持たなくてもよい子供の頃の黄金時代は大庭園での優雅な生活に集約されているが、宝玉や少女たちの成長に伴い、それがやがて終りになってゆくこと、それと共にこの浮世とは?とそんな嘆きもしばしばいろいろな人から出てくるところ、暗に当時の社会に対する批判もちらほら見える。

それにしても、大陸の人は熱いな。
喜怒哀楽が激しいし、可憐な美女という人が「ぺっとつばをはいたり」「ちょっ、と舌打ち」したりするという風に書かれているので随分とイメージというのは違うものだな、と変なところが印象に残ったり。

全3巻。
紅楼夢 上 (奇書シリーズ 5)
紅楼夢 上 (奇書シリーズ 5)伊藤 漱平

平凡社 1973-05
売り上げランキング : 449513

おすすめ平均 star
star古典 ラブひなといった感じかな

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岩波文庫には12巻セットあり。
紅楼夢 12冊セット
紅楼夢 12冊セット
岩波書店 1995-07
売り上げランキング : 459457

おすすめ平均 star
star大貴族の絢爛美麗な物語。中華版の華麗なる一族!!
star絢爛豪華な大貴族の一族の物語

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ラベル:中国古典
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2009年06月01日

イギリスだより カレル・チャペック

かなり辛辣なユーモアとほのぼのする絵で楽しく読んだ、イギリスだより。
都市の混雑振り、それと建物の無味乾燥なところを嘆く反面、郊外の風景や芝生の上を歩けることに無上の感動をしめすところが、チャペックらしいなあと思う。
おかしいのは博覧会があって、出かけたはいいが、修学旅行団にでくわして、そこを抜けるために機関銃を手にしたい、としばし考えた、と書いてるところ。
気持ちはわかります!
マダム・タッソーの部分も面白かった。
イギリスの国民性を考察した文章も見受けられ、それもなるほどと思うが、鋭い観察による見聞が書かれたところがユーモアたっぷりで楽しい。
それにしても、前書きとイギリスのみなさんへ、と表題のついた文章がなければ、イギリスのこと嫌いなのか?と勘違いしてしまうかもしれないくらい辛辣ではあるな。
そこが面白いところなのではあるが。
イギリスだより―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)
イギリスだより―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)Karel Capek 飯島 周

筑摩書房 2007-01
売り上げランキング : 86147

おすすめ平均 star
starチャペックもイギリスで考えた

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ラベル:旅行記
posted by てけすた at 13:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (翻訳もの) | 更新情報をチェックする