2009年02月28日

悪魔の霊酒(上)(下) E.T.A.ホフマン

カプチン会修道士メダルドゥスの数奇で呪われた遍歴の手記。
つくづく思うのは、自分という存在は自分の意識だけでは決定できるものではないということだ。
当たり前のことではあるが、世間とか社会がこれこれこういう人物である、という認識がその人をその人たらしめているという点は否めない。
この2つの条件がその人であるという証明であり、どちらが欠けても彼が何者なのであるかということは決定できなくなる。
そのあたりのことを利用して話を進めていくので、読んでいても一瞬誰が誰なのかわからなくなりそうになる。
この二重性は解説を読むとホフマンのほかの作品にも出てくることが多いそうである。それと狂気。
二重性を扱うときに狂気を利用するので、そのあたり夢オチみたいな狡さを感じないわけではないが、それでもきちんと外界の事実も適合するような構造になっているので、単なる幻想小説とはまた違う趣がある。
あまり読んだことはないジャンルだがホラー風推理小説みたいなものかね。
悪魔の霊酒〈上〉 (ちくま文庫)
悪魔の霊酒〈上〉 (ちくま文庫)E.T.A. Hoffmann 深田 甫

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悪魔の霊酒〈下〉 (ちくま文庫)
悪魔の霊酒〈下〉 (ちくま文庫)E.T.A. Hoffmann 深田 甫

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ところで余談。
以前『ホフマン全集』を途中まで出してた創土社ホームページのFAQで、
■ ホフマン全集について

ホフマン全集は全10巻のうち第10巻が未出版。現在、翻訳中です。
発売日は未定です。
1~9巻は現在品切れですが、10巻刊行時にセット増刷する予定です。

というのがあった。
それで、出たら欲しいので期待してるのだが、このFAQは一体いつから掲げられていたのだろうか、という疑問が。
早いところ頼みます。
ラベル:怪奇
posted by てけすた at 13:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (翻訳もの) | 更新情報をチェックする

2009年02月27日

ナゾネックスの記事

喘息ではなく鼻炎の話になるが、関連があるのでちょっと書いておく。
昨日、新聞で花粉症の新薬として、ナゾネックスという局所ステロイド剤を紹介した記事を読んだ。ステロイド点鼻薬については今までにもあったが、1日数回使う必要があった。私も、鼻が悪いときにフルナーゼを処方してもらって、1日2回使っていたことがある。しかし、ナゾネックスは1日1回ですむというのだ。
そういえば、喘息の吸入ステロイドにも1日1回ですむオルベスコというのが出てきてたなあ。成分を見ると、ナゾネックスとは違うものらしいが、まあ、なんにせよ、1日1度ですむ薬は便利ではある。

それはさておき、そのナゾネックスの記事の中で札医大の白崎准教授がこんなことを述べていた。
「日本では抗ヒスタミン剤の投与が第一選択だが、欧米では局所ステロイド剤が主流。今後、日本でも治療の流れが変わるかもしれない。」

北海道新聞2009.2.26 17面より

以前、私は喘息では吸入ステロイドが第一選択なのに、アレルギー性鼻炎ではそうでないのはなぜなのか、という疑問をブログに書いたことがあった。
2008.2.23 ちょっとした疑問
欧米では鼻炎も局所ステロイドが主流であるということを知り、日本で抗ヒスタミン剤が主流なのは認識の問題なのだなあ、と感じた次第。
ただ、ステロイド点鼻剤は粘膜が弱くなるのか、ちょっとしたことで鼻から出血することがある。気管支より物理的刺激が多くなるだろうから、一概に吸入ステロイドと一緒に考えるのもどうなのか、ということはあるかもしれない。
となると、実は気管支も粘膜が弱くなってる、ということもありうるのかな?わからんが。
まあ、最後は効能と副作用の兼ね合いということになろうか。

またごちゃごちゃになってきたが、信頼できる医師と出会って話し合いができる環境で薬を処方してもらえるのが一番良いな、なんの病気にしろ。


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ラベル:鼻炎 ステロイド
posted by てけすた at 13:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 病弱日記(喘息とか) | 更新情報をチェックする

2009年02月24日

大いなる遺産(上)(下) ディケンズ

運命とは果たして決まっているものなのか、それとも自分の手でつかむものなのか?
孤児同然で年の離れた姉の家に寄宿している主人公ピップは周囲の大人たちの間で肩身の狭い思いをしている。冒頭、脱獄囚に脅されてヤスリと食べ物を家から盗みおどおどする場面や、姉からいつも恩着せがましくいわれたりと、姉の連れ合いであるジョーがいなかったら、彼はもっと惨めな気持ちで生活しなくてはならなかったかもしれない。それはある伝手でお金持ちの老婦人の遊び役となってから一層強くなった。
ということで、ピップ少年は狡猾ではないにしろ物質的に弱い立場だったために、極端に人に合わせるようなところのある人だったのである。そんな人間が莫大な遺産相続人として指定されたらどうなるだろうか?
そのあたりの物語をこの小説は皮肉とユーモアで見事に仕上げている。
前半はややゆるやかに進むので、冗長に感じられるかもしれないが、それは後半の布石をじっくり敷いてあるのであって、後半、その布石がピップの怒涛の出来事へと導き、ラストまで一気に突き進む。その面白さはさながら推理小説の解決編を読むようである。
ピップは普通の人間である。ピップのもつ弱さは誰にでもある弱さだ。
だから、彼が卑屈に思えたり、高慢に思えたりしても、それは読む側を写す鏡なのではないかと思った。
職場と家庭生活が極端に違うウェミックさんとか、教会の書記から地方回りの劇団に入ったウォプスルさんのような愛すべき市井の人々が出てくるのも楽しい。
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star大いなる予定調和
star読みごたえあり。

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ラベル:運命
posted by てけすた at 14:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (翻訳もの) | 更新情報をチェックする

2009年02月21日

山屋敷秘図(切支丹・異国小説集) 山田風太郎

切支丹を扱った小説と、外国(アジア)を舞台にした小説をまとめた本。
キリスト教というのはストイックなイメージがあるが、まさにそのイメージが壮絶な弾圧に耐え、その中に伝奇的な神秘性を見出して描写した切支丹小説は妖しく心をかき乱し、読んでいると罪悪感と奇妙な陶酔が入り混じったような気分になってくる。
出てくる女性たちもこの世のものとは思えない清らかな存在として描かれていることが多いのだが、それは心根が美しいとか、優しいとかそういうものを超越した、女性のおとめ(処女)的な清らかさ、といった意味での清らかさで、もちろん、肉体的なことは関係ない。日本の小説の中で聖母マリアのイメージを一番うまく捉えて描写できるのは山田風太郎なのではないかと思うくらいだ。
切支丹小説はまさにそういう彼女たちの魅力によって支えられるといっていい。

山屋敷秘図 切支丹・異国小説集―山田風太郎妖異小説コレクション (徳間文庫)
山屋敷秘図 切支丹・異国小説集―山田風太郎妖異小説コレクション  (徳間文庫)山田 風太郎

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おすすめ平均 star
star人間ってつくづく面白いと思いました。
star羅刹から聖女へ
star切支丹もの、山風作品でもハイレベルな作品

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ラベル:妖異
posted by てけすた at 13:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 山田風太郎 | 更新情報をチェックする

2009年02月20日

クライスレリアーナ シューマン【YouTube】

E.T.A.ホフマンの『クライスレリアーナ』をネットで検索したら、その作品に霊感を受けて、作曲されたピアノ曲があるのを知った。
クラシック音楽を嗜む人ならきっと知ってるのだろうな。シューマン作『クライスレリアーナ』ピアノ曲集
YouTubeでは幾つか動画が上がっていたが、horowitzという人のライブ音源が一番秀麗で美しく聞こえた。1968年の演奏らしい。

【2013.10.6追記】
とうとうCDを買ってしまいました。
http://tekesuta.seesaa.net/article/376736662.html?1381025799

horowitz live 1968 pt 2 - plays schumann kreisleriana pt1


horowitz live 1968 pt 3 - plays schumann kreisleriana pt2


horowitz live 1968 pt 4 - plays schumann kreisleriana pt3
ラベル:クラシック
posted by てけすた at 13:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 芸術、音楽など | 更新情報をチェックする

2009年02月19日

E.T.Aホフマンの作品

1979年発行、『集英社世界文学全集18 ホフマン』を読む。収められてるのは以下の4作品。

【砂男】短篇 1815年
ナタナエルという青年の数奇で不幸な人生。幼い頃に聞かされた「砂男」という妖怪ととある人物が重なり合って、彼の心に深く食い込んでいる。現在学生の彼はオリンピアという女性を見て心を奪われるのだが…。
怪奇譚であり、信じていたものが壊れたときのナタナエルの破滅は痛々しい。

【ブランビラ王女】長篇 1820年
お針娘ジアチンタと存在が滑稽な悲劇役者ジーリオの物語、あるいはブランビラ王女と花婿たるアッシリアの王子コルネリオの物語。
しがない庶民が王子や王女に愛されてるのだという、2組の男女の錯綜ぶりがローマの謝肉祭を舞台に繰り広げられる。
なにがどうなってるのか、主にジーリオの視点から語られるところは読む側も一緒に振り回されるが、やがて混乱はおさまり、真相が見えてくる、謝肉祭にふさわしいお祭り騒ぎ。

【蚤の親方】長篇 1821年
無為の資産家ペレグリヌス・テュス君が蚤の親方を助け、親方はあるものを使って、ペレグリヌス君を世間へなじませようとする。
ところで、セカキスの王が花の女王とねんごろに暮らしていて王女ガマヘーがその愛の結晶であったが、ガマヘーが蛭王子に吸い付かれ死んでしまう。その死から救おうとさまざまな存在がかかわりあうのだが、なにあろう、蚤の親方を奴隷としていたロイヴェンヘックともう一人の人物が彼女を生き返らせ、デルティエ・エルヴァーディンクとして一緒に興行していたのである。親方を探していた彼女はテュス君に近づき、彼は彼女にほれ込むが、蚤の親方との約束を守ろうと決意する。
この作品は当時の警視総監を風刺したというので原稿や書簡を押収されたとのことだが、クナルパンティなる人物が自分の国で行方不明になった王女を探していて、それをテュス君に結びつけ、手柄を上げたいがために動機や証拠を牽強付会ででっち上げる場面であろう。この部分はクナルパンティ先生のいやらしさがこれでもかと描かれている。

【クライスレリアーナ】評論風小説 1810~16年にかけて
ヨハネス・クライスラーという音楽家が書いたものとして、音楽やオペラのいろんな批評を行なっている。音楽のことはうといので、その面白さはわかってる人間より理解できてないだろうが、『牡猫ムルの人生観』でそうとう皮肉屋な道化者として描かれてるヨハネスを知っていれば、かなり皮肉に満ちた文章なのだろうと思う。実際、音楽にのめりこむ観客にこれは虚構だと知らしめるために興ざめな舞台道具をセットしろだの、音楽的に有望な青年を見つけたが、それは猿で、その猿が書いた知性と野生の混交する手紙とか、音楽をあまり知らなくてもその皮肉さに笑わされる文章は多い。

メルヘンに皮肉のスパイスを利かせたホフマンの文章はともすれば感傷的になりやすい幻想小説とは一味違って、私は好きだ。
特に、ヨハネス・クライスラーものはあまりにも皮肉が過ぎるので面白すぎる。
そういえば、3月に光文社古典新訳文庫で「黄金の壺」が出るとか。
『牡猫ムルの人生観』もどっかで出してくれい。
世界文学全集〈18〉ホフマン (1979年) 砂男 他
世界文学全集〈18〉ホフマン (1979年) 砂男 他
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ラベル:幻想
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2009年02月15日

ギリシア・ローマ神話 ブルフィンチ

西洋の文化芸術をより楽しむために聖書とギリシア神話に触れておくことは有用だ。
この本は19世紀にアメリカの大学教授が書いたものであるがギリシア・ローマ神話の手引書としてよくまとまっている。
ほかにインド、ゾロアスター、北欧など周辺地域の神話も盛り込まれている。
あのホメーロスの叙事詩もあらすじがのっていて、概略を知るにはちょうどいいかもしれない。
ただし、キリスト教圏の人物が19世紀に書いてるものだから、北欧神話のことを迷信といってしまうのはご愛嬌かな?
私は聖書よりはギリシア神話のほうが闊達に見えて面白く思う。

最初に野上弥生子氏が翻訳したのは1927年であるが、1978年に改訳して、現在でも読みやすい体裁となっている。
と、ここまで書いて、野上さんって一体幾つまで生きたのかしら?と検索してみたら、1885年から1985年までと、大変長生きされたのですね。
だからこそ、50年後の改訳も可能だったということか。
中身もさることながら、そちらのほうにも感心してしまいました。
ギリシア・ローマ神話―付インド・北欧神話 (岩波文庫)
ギリシア・ローマ神話―付インド・北欧神話 (岩波文庫)Thomas Bulfinch 野上 弥生子

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おすすめ平均 star
starギリシャ神話は夢の滑走路
star時間の無い人向け

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ラベル:神話
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2009年02月12日

幻燈辻馬車(上)(下) 山田風太郎(山田風太郎明治小説全集三、四)

明治15年、ある辻馬車が東京の街を走っている。当時はまだ人力車が主で、辻馬車といえば幌をかぶせたものだったのだが、その辻馬車は箱馬車であった。馬車を走らす元会津藩士、干潟干兵衛とその孫娘お雛に自由党がなにやら関わってくる。
実在した明治の人物たちを織り込みながら、死んだ干兵衛の息子や妻もあの世から幽霊としてあらわれ、全てが渾然一体とした遠い記憶のように美しく物語りは進んでゆく。
馬車が走るところを想像すると随分と明治の東京はエキゾチックに思え、維新後権力を握ったものと、落ちこぼれたものとの酸鼻な戦いすら、夢のようである。
江戸時代より暗黒な時代であると思うのだが、『明治十手架』といい、異国風の美しさに溢れてる、山田風太郎の明治物である。
下巻には『明治忠臣蔵』『天衣無縫』『絞首刑一番』の短篇も収録されている。
幻燈辻馬車〈上〉―山田風太郎明治小説全集〈3〉 (ちくま文庫)
幻燈辻馬車〈上〉―山田風太郎明治小説全集〈3〉 (ちくま文庫)山田 風太郎

筑摩書房 1997-06
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おすすめ平均 star
star戦中派老人と維新を生きた老人
star日本史を勉強しなおそうという誘惑に駆られてしまう「おもうしろうて、やがてかなしき」風太郎ワールド
star日曜名作座で聞きました

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山田風太郎明治小説全集 (4) (ちくま文庫)
山田風太郎明治小説全集 (4) (ちくま文庫)山田 風太郎

筑摩書房 1997-06
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ラベル:明治
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2009年02月09日

贋作吾輩は猫である 内田百閒

漱石の『猫』が甕に落ちてから幾星霜、ひょっこりとまた現れた猫は向こうにある大きな池の左を回って、とある家へ入り込んだ。それが五沙弥先生のところであった。
漱石の教養オタ的な尖り方に比べると、こちらはなにかまろやかでとぼけた変な話のオンパレードである。
『大貧帳』で見せたような貧乏の哲学というか処世術というかそんな話や、饂飩を食してるところに虫の話をしたり、かと思えばこの世ならざるような出来事があったり、百閒先生らしい文章が連なって、原典(作中では『吾輩は猫である』のことをこういっている)をたとえ読んでないとしても、十分そのおかしみを堪能できる。
もちろん、先に読んでいれば唐突に出てくる原典の作中人物の名前や出来事に惑うことはないので、そのほうがよいのではあるが。
この百閒先生らしい文章を楽しめる人にはとても面白い本であろう。
ラストもとても先生らしい、ような気がする。
ところで、今度は猫も「アビシニヤ」という名前をもらっている。その名をちょっと検索してみたのだが、実に意味深な名前だ。
果たして私が見かけた意味でそういう名前をつけたのか、それとも別の意味があるのかは定かではないけれども。
贋作吾輩は猫である―内田百けん集成〈8〉 ちくま文庫
贋作吾輩は猫である―内田百けん集成〈8〉   ちくま文庫内田 百けん

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ラベル:百閒先生
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2009年02月08日

牡猫ムルの人生観(上)(下) E.T.A ホフマン

人語を解し教養高い牡猫のムル氏が自伝を書いたということで出版するために印刷へまわしたのだが、ムル氏がどうやらご主人様の本を破って下敷きにしたりした反故が混じっていて、別の話も紛れ込んでいる。それが、ムル氏執筆当時のご主人で楽長ヨハネス・クライスラーの伝記本であった。
という意味のことが編集者の序文として書かれている。つまり2つの話が交錯している小説なのである。
ムルの書いた部分は猫独自の野生的な部分と人間の学問の受け売りとが混じって、笑いを誘う。交友関係もいろいろ書かれていて、それが人間社会の戯画と見え、それもまた面白い。
ムル文庫の冒頭に載ってたホフマン自筆の挿絵
一方、クライスラーの伝記は断片であり、なんとなく話が見えるものの、読者としてはその断片より見えない部分を想像しながら読むという浮遊感が、このパートに幻想的な雰囲気を与えている。
昔は小さな国を治めていたが、今は相当の財産を有する一私人となったイーレノイス公邸での宮廷のような生活や、クライスラーの師で魔術師みたいに妖しい手品をするアブラハムの存在がその雰囲気をいっそう高めてくれる。
そして、なにより、小説の形式が伝奇的な意味でとても完成度が高い。
ホフマンという名前は聞いたことがあったけれども、こんなに面白いとは思わなかった。

しかし、この本、岩波と角川が文庫で出していたのだけどどちらも絶版。
今回読んだのは角川の金色のカバーのついたリバイバル文庫。これは平成元年に出版されて、私は同じシリーズでヘッセの『ガラス玉遊戯』をもっている。こちらは旧仮名遣いで読みにくかったのに対し、『牡猫ムルの人生観』は新仮名遣いなので読みやすい。
ああ、タイムマシンがあるならばあの当時へ戻って買うとか、過去の自分に「これは買っとけ」といってやりたい。
復刊しないかなあ。

【2013.10.6追記】
久々に再読してみた。初めて読んだときには気がつかなかったことがあって再読も大切だなと思ったな。
http://tekesuta.seesaa.net/article/376736662.html?1381025799
牡猫ムルの人生観〈上巻〉 (角川文庫)
牡猫ムルの人生観〈上巻〉 (角川文庫)石丸 静雄

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牡猫ムルの人生観〈下巻〉 (角川文庫)
牡猫ムルの人生観〈下巻〉 (角川文庫)石丸 静雄

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ラベル:幻想小説 風刺
posted by てけすた at 14:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (翻訳もの) | 更新情報をチェックする

2009年02月05日

若い芸術家の肖像 ジェイムズ・ジョイス

本作品はスティーヴン・ディーダラスという青年の幼少期から大学生までの成長を描いたものである。
彼は『ユリシ-ズ』でも副主人公として出てくるが、そのときは感性は鋭そうだがどこか屈託のある青年に見えた。その屈託がなんであるのか、という興味からこの小説を読み始めたのだが、音楽に喩えるならば普通の楽曲のつもりでかけたCDからオルゴールの音色が飛び出してきたような、そんな感じの童話風の書き出しに思わず笑みがこぼれた。
その幼い文章は主人公の幼さと重なり、その文体は彼の成長とともに複雑になってゆく。
そういう技巧もなかなか面白いのであるが、さらに、主人公の触れれば切れそうなガラスの破片みたいな感受性と、孤高で傲慢でありながらも気弱で臆病な部分もあるような人格描写にとても惹かれる。
厳格なカトリック教育を受ける中で神父たちの抑圧された衝動を彼らの顔の中に見て幻滅し、信仰そのものから遠ざかる彼。
大学生になってから級友たちとの会話の中で
人間の魂がこの国に生れ出るとき、それが飛翔してしまわないよう引きとめる網がいくつも投げられる。君はぼくに、国民性や、国語や、学校のことを話してくれるけど、ぼくはこういう網から逃れようとしている。

というのを読んだときに、私は心が打ち震えたのであるが、同時に自分の年齢を考えてまだまだ自分はこういう点で大人になりきれてないのだ、と苦笑してしまった。でも、この感動が得られるならば別に大人にならなくてもいいな。
で、スティーヴンはその飛翔を試みながらも、『ユリシーズ』においては今だ彼が芸術家として芽が出るのかどうかわからない状態である。

ところで、主人公が16歳くらいのときに、自分の欲望から罪悪感がいっぱいになってるところに、学校で地獄についての説教を聞かされるくだりがある。その説教が微に入り細に入りで延々と続いてるのだが、なぜか読んでて面白かったりする。
さらにいえば、説教している本人は大真面目で良かれと思ってやっているのだろう。しかし、異教徒の自分から見ると、あれは人を脅かして楽しんでる部分があるように見えてしまうのであった。
若い芸術家の肖像 (新潮文庫)
若い芸術家の肖像 (新潮文庫)James Joyce 丸谷 才一

新潮社 1994-03
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おすすめ平均 star
starこのレビューにこだわらずに
star時に難解だが面白い
star青春小説として楽しめた

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メモ
訳者の丸谷才一氏のインタビューを見かける。
丸谷才一さん 健筆半世紀



以下引用
ラベル:文学 萌えた
posted by てけすた at 13:32| Comment(0) | TrackBack(1) | 本 (翻訳もの) | 更新情報をチェックする

2009年02月03日

響きと怒り ウィリアム・フォークナー

著者の失敗作にて最大の愛着ある作品だという、この小説は南部に住むコンプソン家の没落の様子をベンジャミン、クェンティン、ジェイソン4世の意識の流れから、そしてディルシーを中心に客観的描写の4章仕立てで描いている。
私は以前『アブサロム、アブサロム!』を読んだときの感想として
しかし、その地獄の体験こそが人として生まれてきた意味だとしたら、どうなのか?

と書いた。
『響きと怒り』に出てくる2章のクェンティンは『アブサロム、アブサロム!』のクェンティンと同一人物なのであるが、今回その感想がまさに彼の志向そのものであることを知る。
死を愛する彼はその延長上として罪に殉じることを志向しており、それが妹との近親相姦という妄想へと発展、やがてその妹が結婚することにより、とうとう彼は大学を一年終えるのを待って自殺してしまうのである。
『アブサロム…』の重たさは彼の想いそのものであったのだ。
そのことを確認できただけでも、この作品は読んでよかった。

残念ながら力作ではあると思うのだが、ベンジャミンはともかく、クェンティンの殉教風な考えや、ジェイソン4世の利己主義にどうしても違和感を感じてしまう。
はっきりいうと気持ち悪い。
もちろん、そういう負の意識を描くことは文学にとって大切なことなのであるが、個人的好き嫌いはどうしようもない。
『アブサロム…』や『八月の光』にもその違和感は多少あったのだが、この小説ほどではなかった。
それにしてもどう気持ち悪いのかそこが言語化できないな。

後世の作家に影響を与えたいう点は私も否定しない。
響きと怒り (講談社文芸文庫)
響きと怒り (講談社文芸文庫)William Faulkner 高橋 正雄

講談社 1997-07
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おすすめ平均 star
star訳に難あり・・・か?
starアメリカ最大の小説!
star世界観をも変えてしまう凄さ

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ラベル:文学
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2009年02月02日

普通のステロイド剤と『吸入ステロイド』の違い

ホメオパシーで喘息治療をすることについての批判記事を見かけた。
喘息に対するステロイド治療を否定するホメオパシー
引用されてるホメオパシーのアドバイスは患者で西洋医学の恩恵を受けてる私からみても大変に危険なものと感じられ、批判の記事もまったくその通りである。
大体“強いステロイドの気管支拡張剤”っていうのがすでに間違ってるではないか。ステロイドは炎症を鎮めるための薬であって気管支拡張剤ではないわ。たわけが。

ところで気になるのは、ステロイドについてのこと。
喘息で今第一選択薬になってるのは『吸入ステロイド』といって、直接気管支に薬を付着させるよう吸入するものだ。
これだと飲み薬のステロイドと違って全身症状の副作用が大変に少ないのである。
飲み薬のステロイド連用は私もちょっとこわいので、それを使わざる得なくなるような事態を招かないために吸入ステロイドで日々炎症をおさえていくのが望ましいのだ。
大きな発作が起こったときは飲み薬か点滴でステロイドを入れて気管支の炎症を鎮めて、以後予防のために吸入ステロイドなどを使うのが今の喘息治療方法である。
ところが、このいろんなステロイドを一緒くたにして語るので「ステロイドは恐ろしい薬」というイメージが広がってしまうのだな。
うーむ、製薬会社の肩を持つわけではないが、この辺もっと宣伝してもいいのではないかと思うが、まあ、副作用がないわけではないので、あまり誇大広告みたくなるのもなんだしなあ。
でも、薬を使ってないであんなに苦しんでる人を見ると、悪い事はいわんから一度呼吸器科で診て貰ったほうがいいと忠告したくなってしまう。余計なお世話といわれようとも。
ラベル:喘息
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2009年02月01日

山田風太郎の忍法帖2冊

山田風太郎の忍法帖シリーズはなるべくあとのお楽しみにしておこうと思ったのだが、重たい内容と思われる本を借りるときにバランスをとるため一緒に買ったり借りたりする娯楽本がちょっと思いつかなくなってきたので、今回2冊ほど読んでしまう。
明治物もまだ読んでないものがあるっていうのに。

『伊賀忍法帖』角川文庫
著者ご本人がA評価している忍法帖。松永弾正の邪恋から妻になる女性を根来僧に殺され復讐を誓う伊賀忍者・笛吹城太郎。ヒーロー物の王道を行くようなストーリー展開とあっと驚く奇天烈な忍法合戦の取り合わせはこれからも面白い読み物として生き残ってゆくのではないだろうか。
伊賀忍法帖 (角川文庫)
伊賀忍法帖 (角川文庫)山田 風太郎

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star敵が強烈!
star~エロ・グロ・奇想天外~
star伊賀忍者と根来忍者の闘い

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『外道忍法帖』河出文庫忍法帖シリーズ(二)
ローマ法王より賜った百万エクーのありかを巡る忍法帖で、簡単にいうと老中・松平伊豆守組天草忍者、由比正雪組甲賀忍者、大友忍法を身につけた切支丹の15人の童貞女、以上ほぼ15人編成×3チーム≒50名近い登場人物の忍法合戦。300ページほどの内容では細かい忍法合戦などはとうてい全部書ききれずお互いつぶしあいの感がある小説。
ラストには絶句する人が出てくるかもしれない。私は「ああそう来たか」とちょっと感慨深げになってしまったが。
それよりも最初に出てくる沢野忠庵ことフェレイラがwww(思わず草を生やしてしまった)
“あわせて読みたい…『沈黙』遠藤周作著”
外道忍法帖―忍法帖シリーズ〈2〉 (河出文庫)
外道忍法帖―忍法帖シリーズ〈2〉 (河出文庫)山田 風太郎

河出書房新社 2005-04
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おすすめ平均 star
star忍者たちの奇奇怪怪、不思議の忍法の数々が面白い
star邪淫と美貌の姫君

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ラベル:忍法帖
posted by てけすた at 13:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 本 (国内) 山田風太郎 | 更新情報をチェックする